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第1章「夏」
2.入道雲センチメンタル(1)
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日曜日の朝、まだ人通りの少ない駅南口の改札前。私は待ち合わせの10分前に到着していた。程なくして現れた陽菜を見て、私たちは二人して指差して声を上げてしまった。
「「ええっ、その格好どうしたの!?」」
休日とはいえ思わぬ遠出。私はいつもの「あとは現地で何とかなるでしょ」精神で、ノースリーブとショートパンツという軽装だった。
「ちょっと澪、写真見る限り山道だったでしょ? サンダルなんて危ないって!」
一方の陽菜は、まるで山登りのような装いだ。ウィンドブレーカーに、ハーフパンツの下にレギンスを着用。頑丈そうな登山靴に、大きなリュックを背負っている。
「陽菜それ、暑そうだけど……。だって目的地、海の近くだよね?」
「備えあれば憂いなし、よ澪。それに暑くなったら脱げばいいんだし」「まあ、それもそうだけどさ……」
大地はまだ来ていないというのに、陽菜の表情には早くも緊張の色が浮かんでいる。
「ねえ陽菜、大丈夫? 顔が強張ってるけど……」
「え、そう……かな」
「そうだよ!ほら、深呼吸。リラックスリラックス」
そう言いながら、私はするりと陽菜の後ろに回り込み、背伸びをしながら彼女の肩をもみほぐしてあげる。
「はぁー……」
陽菜は言われるがまま、ウィンドブレーカーのチャックを下ろして大きく深呼吸した。
「ふふ、私に任せて。絶対どこかで二人きりにしてあげるから!」
「ちょ、澪! そういうのはいいって……」
陽菜が慌てて振り返ると、一本に結んだ長い髪が美しく揺れた。そんな彼女の頭をそっと背中から押して、改札の方へ向ける。
「ああ、ほら来たよ、大地」
大げさな装いで現れたのは、陽菜の想い人その人だった。何やらでっぷりとしたプラスチックケースを乗せた台車をごろごろと引き、背中には大きなリュックを背負っている。作業着のつなぎを腰で結んでいるところといい、中に着た白いTシャツといい、まるで何かの作業員だ。
「ねえ大地、何その荷物?」
「いいか、澪。俺たちゃ遊びに行くんじゃないんだぞ」
「でもさ、台車なんて必要?」
「当ったり前だろ。どうやってカプセルを持って帰るか、考えたか? 写真で見たとおり、直径60センチはあるんだぜ?」
「えっ……あ、確かに……」
私は思わず頬をかいた。確かに全然、回収方法のことなんて考えてなかった。
「羽合先生、まだ来てないのか?」
大地が腕時計をちらりと見やる。
「うん、まだみたいだね」
そう言って3人で改札前に横並びになって、どんな恰好で現れるのか、ワクワクしながら待つ。海、山、工事現場……。とても同じ場所に向かうようには見えない三者三様の装いで並ぶ私たちの姿。傍から見たら、さぞかしシュールだろう。
「ねえ、羽合先生ってもしかしてスーツで来ない……よね?」
不安そうに呟く陽菜。生徒は学校行事のときは制服、というのが校則だ。
「いや、先生に限ってそんなことはないと思うけど」
そう答えてはみたものの、実は先生のプライベートなんてよく知らないのだった。
そんな私たちの想像を良い意味で裏切るかのように、羽合先生は改札の反対側から颯爽と現れた。白のリネンシャツに、ベージュのハーフパンツ。足元はビーチサンダルで、頭には麦わら帽子。もはやこの格好は、海に行くどころか、もう海から帰ってきたところだ。おまけに胸元には、サングラスまでぶら下げている。
「せ、先生……!?」
「は、派手すぎない……?」
と陽菜。
「い、いや、夏だから……ね?」
さすがの大地も、ぽかんと口を開けたまま。
結局、目的地へは羽合先生の車で向かうことになった。それも大きなSUVだ。直径60センチはある球体を、あの台車に乗せて電車で運ぶのは、さすがに無理があるからだろう。どうやら先生は、最初から車で行くつもりだったらしい。先に言っておいてほしかった。
「「ええっ、その格好どうしたの!?」」
休日とはいえ思わぬ遠出。私はいつもの「あとは現地で何とかなるでしょ」精神で、ノースリーブとショートパンツという軽装だった。
「ちょっと澪、写真見る限り山道だったでしょ? サンダルなんて危ないって!」
一方の陽菜は、まるで山登りのような装いだ。ウィンドブレーカーに、ハーフパンツの下にレギンスを着用。頑丈そうな登山靴に、大きなリュックを背負っている。
「陽菜それ、暑そうだけど……。だって目的地、海の近くだよね?」
「備えあれば憂いなし、よ澪。それに暑くなったら脱げばいいんだし」「まあ、それもそうだけどさ……」
大地はまだ来ていないというのに、陽菜の表情には早くも緊張の色が浮かんでいる。
「ねえ陽菜、大丈夫? 顔が強張ってるけど……」
「え、そう……かな」
「そうだよ!ほら、深呼吸。リラックスリラックス」
そう言いながら、私はするりと陽菜の後ろに回り込み、背伸びをしながら彼女の肩をもみほぐしてあげる。
「はぁー……」
陽菜は言われるがまま、ウィンドブレーカーのチャックを下ろして大きく深呼吸した。
「ふふ、私に任せて。絶対どこかで二人きりにしてあげるから!」
「ちょ、澪! そういうのはいいって……」
陽菜が慌てて振り返ると、一本に結んだ長い髪が美しく揺れた。そんな彼女の頭をそっと背中から押して、改札の方へ向ける。
「ああ、ほら来たよ、大地」
大げさな装いで現れたのは、陽菜の想い人その人だった。何やらでっぷりとしたプラスチックケースを乗せた台車をごろごろと引き、背中には大きなリュックを背負っている。作業着のつなぎを腰で結んでいるところといい、中に着た白いTシャツといい、まるで何かの作業員だ。
「ねえ大地、何その荷物?」
「いいか、澪。俺たちゃ遊びに行くんじゃないんだぞ」
「でもさ、台車なんて必要?」
「当ったり前だろ。どうやってカプセルを持って帰るか、考えたか? 写真で見たとおり、直径60センチはあるんだぜ?」
「えっ……あ、確かに……」
私は思わず頬をかいた。確かに全然、回収方法のことなんて考えてなかった。
「羽合先生、まだ来てないのか?」
大地が腕時計をちらりと見やる。
「うん、まだみたいだね」
そう言って3人で改札前に横並びになって、どんな恰好で現れるのか、ワクワクしながら待つ。海、山、工事現場……。とても同じ場所に向かうようには見えない三者三様の装いで並ぶ私たちの姿。傍から見たら、さぞかしシュールだろう。
「ねえ、羽合先生ってもしかしてスーツで来ない……よね?」
不安そうに呟く陽菜。生徒は学校行事のときは制服、というのが校則だ。
「いや、先生に限ってそんなことはないと思うけど」
そう答えてはみたものの、実は先生のプライベートなんてよく知らないのだった。
そんな私たちの想像を良い意味で裏切るかのように、羽合先生は改札の反対側から颯爽と現れた。白のリネンシャツに、ベージュのハーフパンツ。足元はビーチサンダルで、頭には麦わら帽子。もはやこの格好は、海に行くどころか、もう海から帰ってきたところだ。おまけに胸元には、サングラスまでぶら下げている。
「せ、先生……!?」
「は、派手すぎない……?」
と陽菜。
「い、いや、夏だから……ね?」
さすがの大地も、ぽかんと口を開けたまま。
結局、目的地へは羽合先生の車で向かうことになった。それも大きなSUVだ。直径60センチはある球体を、あの台車に乗せて電車で運ぶのは、さすがに無理があるからだろう。どうやら先生は、最初から車で行くつもりだったらしい。先に言っておいてほしかった。
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