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052★着替えさせてみました

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 セシリアとメラルク副団長は、隣室へと移動した。
 自分よりかなり小柄なセシリアの背後に回り、メラルク副団長ことイリスはドレスを脱ぐのを手伝う。

 ほんのひと時だが、カタナルフ公爵家の公爵令嬢のメアリーに侍女として仕えていたコトがあるので、そういうコトも難なくできるのだ。
 が、メアリー公爵令嬢の勘気に触れて、イリスは侍女をクビになったという経緯があったりする。

 ちなみに、クビにされた理由は、メアリー意中の殿方が、イリスに熱い視線を向けていたからという、本人のあずかり知らないモノだったりす。
 だから、イリスはいまだに、何故?と思うコトがあるのだ。

 だが、理由のいかんに関係なく、公爵家で侍女をクビになってしまったという事実から、他家に侍女として奉仕することもできず。
 メアリー公爵令嬢のくだらない嫉妬で、イリスは、このままでは出会い(それによって得られる結納金)も得られないし、働けないので給金も得られないしという切羽詰った状態に陥ったのだ。
 もちろん、それをメアリー公爵令嬢は嘲笑っていたのは、イリスの知るところではない。

 そして、そんな時にかぎって、気の良い両親は、商人に騙されて大金を失ってしまったりする。
 領地を失わずすんだのが幸いという程の損失だったので、生活は一気に貧しくなり、追い詰められて騎士団に入ったのだ。

 ちなみに、なかなか弟のアスターが誕生しなかったので、誕生する前までは、女男爵になって婿を取るというコトで、経営から剣や魔法まで、しっかりと嗜(たしな)んでいたので、なんとか下っ端団員に滑り込み、実力で今の地位に上り詰めたのがイリスだ。

 貴族令嬢達のようにもはや、綺麗な手もしていないと自嘲するコトもあるが、皆(=騎士団員や家族)には知られていないと思っている。

 「はぁ~‥‥たすかりました
  ありがとうございます
  メラルク副団長」

 豪奢なドレスは、幅広のリボンを使って、腹部でかなりたくし上げられていて、脱ぐのを手伝ったイリスも、流石にびっくりした。
 もちろん、手首に向かって広がる袖の部分も、レースやリボンで小細工していただけで、本来の長さだとセシリアの指先までスッポリと隠れてしまうほど長いのだ。

 「いや、イリスと呼んでくれ
  副団長って言われると
  堅苦しいからな」

 すっかり男言葉が身に付いてしまったと、自嘲しながら言うイリスに
気付かず、セシリアは簡素なワンピース姿で言う。
 が、よく見ると、ソレもリボンを腰と腕部分に巻いているので、たくし上げているコトをうかがわせた。

 「はい、イリスさん
  ふふふ‥‥‥酷いでしょう

  急に侍女を替えられてしまって
  満足に針仕事する時間もなくて‥‥‥

  お母様の婚約者時代の衣装で
  パーティーに参加するしか
  なかったんですの‥‥‥

  時代遅れかもしれませんが
  イリスさん、本気でコレを
  着てみませんか?

  こちらでは、そんなコトを
  知る人は居ませんから‥‥‥」

 イリスとて、婚姻適齢期を過ぎてしまっていたとはいえ、まだ年頃の女の子なのだ、その言葉にこころが揺さぶられる。

 「私に、着れるかな?」

 「大丈夫ですって
  団長さんもイリスさんが
  ドレス着たのを見たいって
  言っていたじゃないですか‥‥‥」

 (うふふふ‥‥‥気分はドレスを
  着るのを躊躇うオス○ル様かしら

  愛しい男性とダンスを踊りたい
  その一身で着飾った‥‥‥)

 セシリアは内心でかまぼこ目になりながら、イリスを言いくるめて、いままで自分が着ていた豪奢なドレスを着せるのだった。
 ちなみに、本来の丈で着たイリスは、とても綺麗だった。

 豪奢なドレスは、内側から仄かに光るパール色の生地に、小粒とはいえ、たくさんの色とりどりの魔石が縫い付けられており、ふんだんにレースが使用されているのだ。
 その上に、イリスの華やかなオレンジ色の髪が、滝のように流れ落ちる。
  藤色の瞳の瞳は、久しぶりに来たドレスに感動し、少し潤んでいた。

 セシリアは、室内に何故か用意されていた化粧道具(見るからに高級品だけど、未使用だった)を使って、軽く化粧を施した。

 「ドレスが合うんですから
  クツも、この分なら入ると
  思いますから‥‥‥

  さぁ‥‥履いて履いて‥‥
  あぁ良かった大丈夫ですね

  義父母に、ほぼ軟禁生活を
  させられていた私と違って

  お母様は跡取りとして‥‥‥
  騎士としての修行を
  きちんとしていた人でしたから‥‥‥

  貴女と同じように、このドレスを
  着こなしていたのでしょうねぇ‥‥‥

  幼少期の記憶にある
  凛々しかったお母様と同じ‥‥‥
  懐かしいわぁ‥‥‥

  あっ‥‥‥クツもどうぞ
  絶対に履けますよ」

 セシリアにそう言われ、イリスはクツに足を入れる。
 騎士として採用され、修行をし、相性があったのか、華奢だった身体は、筋肉質になり身長も伸びてしまい。

 令嬢として生きていた頃よりも足のサイズも男に近づき、それを知られるのがいやで、新たなクツを作ることを止めていたイリスだった。
 そう、騎士として生きてからは、ドレスもクツもあつらえるコトを、すっぱりと諦めていた。

 もちろん、貧乏になってしまったという事実が1番の原因だったが‥‥‥。
 その為に、何度も団長にドレス用の布を送られても、そのまま放置していたイリスの女心は、久しぶりのドレスに高揚していた。

 だから、素直にセシリアの手による化粧を受け入れていたのだ。
 なお、ドレスと化粧を施したのだからと、髪型も華やかなものに変えられていたりする。
 が、イリス本人は、それに気が付いていない。

 「ああ、信じられない
  まるで、クツまでが私の足に
  あつらえたようにぴったりだ」

 感動しているイリスに、セシリアは笑いかける。
 
 「綺麗ですよ、イリスさん
  それじゃ、せっかくだから
  あちらで待ちくたびれている

  団長さん達に、その姿を
  見せてあげましょう」

 そう言って、セシリアはイリスの手を引く。
 ちなみに、セシリアはというと、副官さんが着替えを持って来てくれたので、ワンピースも脱いで、男装の衣装とクツに履き替えていた。

 その直後、ドレス姿のイリスを見て、団長が‥‥‥。

 『いますぐ結婚しよう、イリス
  このまま神殿に行こう‥‥‥』

 と、叫んで、ドレス姿のイリスをお姫様抱っこして、神殿へと行こうとして、団員達に引き止められるという顛末が待っていた。









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