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0183★そして、振り出しに戻る

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 神護は双眸を半眼にし、右手を空に伸ばして唱える。

 「はるか彼方かなた御座おわす 我等が 久遠とお御親みおやたる 竜神よ
  俺達を安全な場所まで導きたまえ 《転移》 」

 そう神護が唱えた瞬間………。

 黒き河の魔術師達が捕縛の為の《呪陣》を完成させ、最後の呪文を詠唱する。

 「……の黒き鎖よ 捕らえよ 《縛》」

 その差はわずかであったが、ほんのまたたきの間、黒き河の魔術師の方が早く唱え終わったのだが…………。
 成功した次の瞬間には、砕かれていた。

 その時、このファンタジー世界での女神の1人であるサー・ラー・フローリアンや神護の生まれ育った国で最高神・天照大神あまですおおみかみよりも古い、最古にして始原の意思と《ちから》の塊………神護はソレを竜神と呼んでいる………が、その呼びかけに応えたのだ。

 それは、女神達が創造主と呼んでいるモノと同一のものだった。

 虚無の中に漂いながら、なが微睡まどろみに揺蕩たゆたっていたソレ………女神達の創造主であり、神護にとっては大いなる意思の竜神………は、その呼び掛けにほんの少し身動き、その《ちから》のカケラを神護へと降ろした。

 そう、はるか昔に忘れ去られていた自分の名を呼ぶものへ…………。

 その瞬間、邪神を崇める黒き河の魔術師が完成させた捕縛の術は、一瞬で精密に組まれた《呪陣》ごと砕け散ったのだった。

 神護は、世界全ての生命の始まりの元としてという意味を込めて、御親みおやと呼んだことが刺激となって、身動いたことを知らなかった。
 また、知る暇など無かった…………。

 何故なら、安全な場所を望んで《転移》を願った為に、すみやかに移動させられていたから…………。

 それ故に、神護達を捕縛できたと思った黒き河の兵士達や魔術師達は、呆然としていたのは言うまでも無い。

 その中でも、飛翔族に関係ありそうな青年期に入りかけの少年と、幼い子供を取り逃がした衝撃からいち早く脱した魔術師は、一瞬で《呪陣》を霧散させた《力》の正体を探りに掛かる。

 「ばかな…《呪陣》が…跡形も無い……」

 そう言いながら、大地に手を着き、そこに加えられた《力》がどこから来たモノかを知ろうと意識を集中させる。
 その隣りでは、別の魔術師が再び《遠視》を駆使するが…………。
 動いた《力》が桁違いのモノだったので…………。

 「……馬鹿な…全然…え無い……追えない……
  これでは……何処に行ったか…検討がつかない…」

 口惜しそうに戦慄く魔術師は、意識を切り替えて、神護が唱えた詠唱を考えるのだった。


         ***


 2人の魔術師が、舌打ちしている、その頃。
 神護達は、安全な場所として、いにしえの女神の神殿の中にいた。
 それも、最奥の祭壇前、白夜が誕生した其処であった。

 祈ったと同時に、眩暈めまいのようなモノを感じた次の瞬間には、ここに居たのだ。
 そして、目の前にある祭壇が、どこのモノかを認識した瞬間。

 「えっとぉぉ~……うわぁぁ~…振り出しっ…」

 と、いう間抜けな声を響かせた神護の腕の中で、白夜がモゾモゾして目を覚ます。








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