お犬様のお世話係りになったはずなんだけど………

第３章 蓬莱家で住み込みのお仕事

189★桜は喜びと心配の狭間で苦悩する

　うなだれた桜の唇から零れ落ちた呟きに、白夜は微かに嗤って囁く。

　「大丈夫だ
　　この程度の顔色なら
　　軽い貧血にもならない

　　勿論、私達のした行為も
　　覚えてはいないよ

　　これだけ良質な《気》も
　　《精》も得られる者が
　　桜の側にいるならば

　　私達は《精》を求めて
　　うろつく必要が無いから
　　ずっと一緒に居られる

　　紅夜も呼び戻して
　　ゆったりとした
　　生活をするのも良い……」

　白夜の言葉に、和輝が来るまで《儀式》を受けてから、ずっと寂しかった桜は喜色を浮かべる。

　「本当に、白夜兄ぃ様？」

　「ああ、これなら我々が
　　《気》を求めて狩りに
　　出なくて済むからな

　　最近では、あの我々を
　　付け狙う、天敵とも言える

　　『狩る者』が屋敷の
　　周辺にも出没していると

　　爺やから報告を
　　受けていたから………

　　日本の…この屋敷に
　　置いたきりのお前が
　　心配でたまらなかった

　　だから、できるだけ
　　早々に帰国しよう

　　予定は、来週末だが
　　出来るようなら
　　日程を繰り上げる予定だ

　　紅夜にも、そう言っておく

　　あと、蒼夜兄上にも
　　早々に帰国してもらう

　　この子の…神咲君のコトも
　　紹介しておきたいから

　　久々に兄弟姉妹全員を
　　日本に呼び戻そうと
　　思っている

　　桜を真血授与の《儀式》で
　　我が真族に加えて以来
　　一度も集まってないから

　　良い機会だろう」

　白夜の兄弟姉妹は、それぞれの生活を持ち、思い思いに活動しているので、滅多に集まるコトは無いのだ。
　が、たまに、気まぐれを起こして日本の屋敷に現れ、しばらく、本邸、もしくは敷地内にある個々の別邸で生活をするというコトをするのだ。

　それゆえに、和輝という人間が、真族の上位者が集まる屋敷内や敷地内を、うろつくコトを容認させる為にも、白夜は自分の兄弟姉妹達に紹介する必要があるのだ。
　だが、桜はその言葉を聞いて、不安そうな表情をする。

　「大丈夫でしょうか？
　　白夜兄ぃ様

　　特に、藤夜（とうや）兄ぃ様は
　　正気には、まだ戻って
　　いらっしゃらないのでしょう？

　　今は蒼夜兄ぃ様のお力で
　　本邸の地下室の一室で

　　深き眠りの園の住人と
　　なっておりますが………

　　何時、急にお目覚めになって
　　お苦しみになられるか………

　　真族への変態化にやっと
　　入ったばかりの桜は
　　何もして差し上げられない

　　苦しむ藤夜兄ぃ様を見るのは
　　とてもつらいです

　　それに…蒼夜兄ぃ様は
　　人間嫌いだから………

　　人間の和輝に、生活圏に
　　侵入されるのはイヤだと
　　言われるのでは………

　　他の姉ぇ様方も………」

　和輝の身の安全を心配する桜の言葉に、白夜は頷く。