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第3章 蓬莱家で住み込みのお仕事

159★これでも和輝にとっては日常

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 「和輝、どうしたの?
  話しの途中で、黙りこくって
  しまうなんて………」

 どこか不安そうに言う桜に、和輝は思考に陥っていたコトに気付いてハッとする。

 「いや、ちょっと考え事をな
  なぁ…桜…お前って………
  人込みとか苦手じゃないか?」

 和輝からの質問に、桜は小首を傾げてから頷く。

 「そういえば、ここ最近………
  人が大勢居るところに行くと
  何故か気分が悪くなるわ

  前は、そうでもなかったのに?
  何時から、人込みがダメに
  なったのかしら?」

 それを聞いて、和輝はやっぱりという顔をする。

 「はぁー…その治癒能力は
  本体が、か弱いセイで
  身についた自己防衛だな

  訓練で制御出来るかなぁ?
  本能的な力ってなぁ
  制御しずらいんだよなぁ」

 溜め息混じりに言う和輝に、桜は問い返す。

 「そうなのか?」

 訓練しても無駄なら、しなくても良いよね的な雰囲気で、どこか嬉しそうに言う桜に、和輝はクギを刺す。

 「だから、きちんと訓練しような
  多少でも、その自己防衛能力を
  制御出来るようになれば
  人込みでも気分が悪くならないぞ」

 和輝からの耳に痛い言葉に、桜は頬をぷぅーっと膨らませる。
 そんな会話を、ずっと黙って聞いていた、蓬莱家に長く仕える爺やは、桜の口から無造作に零れ落ちる数々の禁断の単語に、ダラダラと脂汗を流していた。
 とくに、和輝が話しの途中で黙り込んだ時は、こころの底からバレたと、終わったという言葉が脳裏に踊りまくっていた。

 が、しかし、その桜の特異な話しを聞く方の和輝も、そんなコトでは驚かないどころか、平然と受け入れて会話しているのを見て、爺やは心底安堵していた。
 そして、ついつい思ってしまう。

 そうですか…ようするに
 神咲君は、慣れてしまったほど
 変なモノに好かれ易いんですね
 安心しました

 神咲君にとっては
 桜様の異変も日常レベル
 なんら変化ないという
 コトなんですね

 和輝に幸いだったのは、爺やが思ったコトを口にしなかったコトだった。
 もし、そんな言葉を生真面目な顔で、重々しく頷きながら、真正面から言われたら、しばらくの間は立ち直れなかっただろう。
 そんな自分の幸せを感じるコトもなく、和輝はチラッと腕時計を見る。

 父親が事故で死亡して以来、和輝はことあるごとに、時間を確認する癖がついていた。
 それは、庇護される子供として、時間をルーズに過ごすコトを許されなくなった為である。

 母親を失った時とは、訳が違う。
 父親の死亡によって、本当に庇護してくれる者を失い、同時に、幼い双子の妹達を庇護する者になったコトを、もっとも象徴していた。
 時間を確認し、チラリッと窓の外を見れば、太陽の残光が少し残っている程度だった。

 もう、こんな時間かよ
 2頭の散歩は、これじゃ
 完全に暗くなってからだな

 もう少し桜の様子が
 落ち着いてから………

 そうだ、別の話題をふろう

 「なぁ…桜…そう言えば
  その長兄の蒼夜さんて人も
  犬を飼っているのか?
  やっぱり、ボルゾイなのか?」








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