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第3章 蓬莱家で住み込みのお仕事

074★お犬様はちゃっかりしています

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 2時間後、大半のお菓子作りを終えて、お弁当のおかずも出来上がり、夕飯の準備もほとんど整ったので、和輝は桜を起こしに寝室へと向かった。
 リビングから私室へと入り、奥の寝室のドアを開けると、眠る桜の両サイドで丸まっていた〈レイ〉と〈サラ〉は、部屋に入って来た和輝に反応して、顔を上げる。

 今回は、桜を起こすコトを目的としているので、部屋に入って電灯のスイッチを入れる。
 即座に、パッと寝室内が明るくなり、デデェ~ンとした天蓋付きベッドの存在が主張される。
 その真ん中で眠る桜と両サイドのボルゾイ2頭を確認し、和輝は声を掛ける。

 「〈レイ〉…〈サラ〉…メシだぞ
  桜を起こして、リビングに行こうな」

 その言葉を待っていた2頭は、嬉しそうに桜の側を離れ、ヒョイッとベッドから飛び降りる。

 「桜…桜、そろそろ起きろよ
  夕飯の時間だぜ
  腹減ったって言ってたろう」

 和輝に肩を軽く揺すられた桜は、スイッと自分を上から覗き込む和輝の身体に両腕を絡ませて言う。

 「…か…ず…き……欲しい…
  うぅ~《気》が…足りない
  ………ね…む…い………」

 うっ…また…コレかよ? って
 マジで顔色良くねぇーなぁ

 はぁ~……こんな顔色の桜を
 リビングにそのまま連れて…
 いけないよなぁ……ったく

 ここは手っ取り早く《気》を
 補給してやって、リビングに
 連れて行かないと不味いな

 見になんて来られたら
 最悪だからな
 しょーがねぇー

 「って…寝るな…桜…
  今《気》の補充してやっから
  起きろよ……ったく…はぁ~」

 ちょっとだけ、溜め息を吐き、軽く桜の頬を叩いて、桜の眠りに入りたがる意識を起こし、今日3度目の《気》を提供する。

 和輝の《気》を凝縮させた《光珠》を口移しで受け取った桜は、その塊がゆるゆるとほどけて溶けるのをしばし堪能した後、ムクッと上半身を起こす。

 「助かった、これで動ける」

 ちょっとうっとりしたまま、気だるげに言う桜に、和輝は苦笑しながら言う。

 「んじゃ、暖かいうちに
  夕飯を食べちまおうぜ

  ああ、それから少しの間
  痛いふりしていろな、桜

  あいつらは、お前の特殊な
  体質を知らないからな

  時期を見て、俺の力で
  傷口は治癒させたって
  言ってやるから………

  少しの間、包帯付きで
  過ごせな」

 「了解」

 和輝はベッドの上で上半身を起こし、楽しそうに敬礼のマネまでする桜を、クスッと笑いながら抱き上げる。
 勿論、その際に巻いてある包帯がズレたり解けていないコトを確認して………。

 抱き上げられた桜は、クスクスと上機嫌で和輝の首筋に縋る。
 そうすると、和輝が無意識で発散している生き生きとした《生気》が、自分の全身を優しく包んでくれるコトを桜は感じられて、幸せな気分を味わえるのだ。

 「和輝の発散する《生気》は
  紅夜や白夜兄ぃ様とは
  違った意味で、暖かいな」

 首筋に抱き付きながら、甘ったれな猫のように、鎖骨周辺から首筋の間に顔を摺り付け、スリスリしながら言った言葉なので、和輝の耳には、桜の言葉は明確に聞こえない。

 「あ~……なに言ってんだ? 桜?
  …そうそう、夕飯は色々なのを
  作ったから、暖かいうちに
  食べちまおうな」

 最初から桜の言葉を聞き返す気のない和輝は、少し首を傾げてから、桜を腕に抱いたまま、そう言ってリビングへと入る。
 ちなみに、先に声を掛けられた〈レイ〉と〈サラ〉は、和輝にご飯だよの声を掛けられて直ぐに、嬉々として起き上がり、ベッドから飛び降りて、和輝が桜をベッドから抱き上げるのを待たずに、さっさとリビングへと向かっていた。









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