75 / 446
第3章 蓬莱家で住み込みのお仕事
074★お犬様はちゃっかりしています
しおりを挟む2時間後、大半のお菓子作りを終えて、お弁当のおかずも出来上がり、夕飯の準備もほとんど整ったので、和輝は桜を起こしに寝室へと向かった。
リビングから私室へと入り、奥の寝室のドアを開けると、眠る桜の両サイドで丸まっていた〈レイ〉と〈サラ〉は、部屋に入って来た和輝に反応して、顔を上げる。
今回は、桜を起こすコトを目的としているので、部屋に入って電灯のスイッチを入れる。
即座に、パッと寝室内が明るくなり、デデェ~ンとした天蓋付きベッドの存在が主張される。
その真ん中で眠る桜と両サイドのボルゾイ2頭を確認し、和輝は声を掛ける。
「〈レイ〉…〈サラ〉…メシだぞ
桜を起こして、リビングに行こうな」
その言葉を待っていた2頭は、嬉しそうに桜の側を離れ、ヒョイッとベッドから飛び降りる。
「桜…桜、そろそろ起きろよ
夕飯の時間だぜ
腹減ったって言ってたろう」
和輝に肩を軽く揺すられた桜は、スイッと自分を上から覗き込む和輝の身体に両腕を絡ませて言う。
「…か…ず…き……欲しい…
うぅ~《気》が…足りない
………ね…む…い………」
うっ…また…コレかよ? って
マジで顔色良くねぇーなぁ
はぁ~……こんな顔色の桜を
リビングにそのまま連れて…
いけないよなぁ……ったく
ここは手っ取り早く《気》を
補給してやって、リビングに
連れて行かないと不味いな
見になんて来られたら
最悪だからな
しょーがねぇー
「って…寝るな…桜…
今《気》の補充してやっから
起きろよ……ったく…はぁ~」
ちょっとだけ、溜め息を吐き、軽く桜の頬を叩いて、桜の眠りに入りたがる意識を起こし、今日3度目の《気》を提供する。
和輝の《気》を凝縮させた《光珠》を口移しで受け取った桜は、その塊がゆるゆるとほどけて溶けるのをしばし堪能した後、ムクッと上半身を起こす。
「助かった、これで動ける」
ちょっとうっとりしたまま、気だるげに言う桜に、和輝は苦笑しながら言う。
「んじゃ、暖かいうちに
夕飯を食べちまおうぜ
ああ、それから少しの間
痛いふりしていろな、桜
あいつらは、お前の特殊な
体質を知らないからな
時期を見て、俺の力で
傷口は治癒させたって
言ってやるから………
少しの間、包帯付きで
過ごせな」
「了解」
和輝はベッドの上で上半身を起こし、楽しそうに敬礼のマネまでする桜を、クスッと笑いながら抱き上げる。
勿論、その際に巻いてある包帯がズレたり解けていないコトを確認して………。
抱き上げられた桜は、クスクスと上機嫌で和輝の首筋に縋る。
そうすると、和輝が無意識で発散している生き生きとした《生気》が、自分の全身を優しく包んでくれるコトを桜は感じられて、幸せな気分を味わえるのだ。
「和輝の発散する《生気》は
紅夜や白夜兄ぃ様とは
違った意味で、暖かいな」
首筋に抱き付きながら、甘ったれな猫のように、鎖骨周辺から首筋の間に顔を摺り付け、スリスリしながら言った言葉なので、和輝の耳には、桜の言葉は明確に聞こえない。
「あ~……なに言ってんだ? 桜?
…そうそう、夕飯は色々なのを
作ったから、暖かいうちに
食べちまおうな」
最初から桜の言葉を聞き返す気のない和輝は、少し首を傾げてから、桜を腕に抱いたまま、そう言ってリビングへと入る。
ちなみに、先に声を掛けられた〈レイ〉と〈サラ〉は、和輝にご飯だよの声を掛けられて直ぐに、嬉々として起き上がり、ベッドから飛び降りて、和輝が桜をベッドから抱き上げるのを待たずに、さっさとリビングへと向かっていた。
0
お気に入りに追加
371
あなたにおすすめの小説
あやかし第三治療院はじめました。
にのまえ
キャラ文芸
狼環(オオカミ タマキ)はあやかしの病魔を絵でみつける、病魔絵師を目指す高校生。
故郷を出て隣県で、相方の見習い、あやかし治療師で、同じ歳の大神シンヤと共に
あやかし第三治療院はじめました!!
少しクセのある、あやかしを治療します。
〈完結〉続々・50女がママチャリで北海道を回ってきた・道南やめてオロロン逆襲のちにスポークが折れてじたばたした話。
江戸川ばた散歩
エッセイ・ノンフィクション
北海道を7月にママチャリで回ること三年目。
今回はそれまでのマルキンのママチャリでなく、ブリヂストン様のアルベルトロイヤルで荷物をしっかりしたバッグに入れて積んでみました。
するとどんなことが起こったか!
旅行中に書いたそのまんまの手記です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
彩鬼万華鏡奇譚 天の足夜のきせきがたり
響 蒼華
キャラ文芸
元は令嬢だったあやめは、現在、女中としてある作家の家で働いていた。
紡ぐ文章は美しく、されど生活能力皆無な締め切り破りの問題児である玄鳥。
手のかかる雇い主の元の面倒見ながら忙しく過ごす日々、ある時あやめは一つの万華鏡を見つける。
持ち主を失ってから色を無くした、何も映さない万華鏡。
その日から、月の美しい夜に玄鳥は物語をあやめに聞かせるようになる。
彩の名を持つ鬼と人との不思議な恋物語、それが語られる度に万華鏡は色を取り戻していき……。
過去と現在とが触れあい絡めとりながら、全ては一つへと収束していく――。
※時代設定的に、現代では女性蔑視や差別など不適切とされる表現等がありますが、差別や偏見を肯定する意図はありません。
イラスト:Suico 様
白鬼
藤田 秋
キャラ文芸
ホームレスになった少女、千真(ちさな)が野宿場所に選んだのは、とある寂れた神社。しかし、夜の神社には既に危険な先客が居座っていた。化け物に襲われた千真の前に現れたのは、神職の衣装を身に纏った白き鬼だった――。
普通の人間、普通じゃない人間、半分妖怪、生粋の妖怪、神様はみんなお友達?
田舎町の端っこで繰り広げられる、巫女さんと神主さんの(頭の)ユルいグダグダな魑魅魍魎ライフ、開幕!
草食系どころか最早キャベツ野郎×鈍感なアホの子。
少年は正体を隠し、少女を守る。そして、少女は当然のように正体に気付かない。
二人の主人公が織り成す、王道を走りたかったけど横道に逸れるなんちゃってあやかし奇譚。
コメディとシリアスの温度差にご注意を。
他サイト様でも掲載中です。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
砂漠の国でイケメン俺様CEOと秘密結婚⁉︎ 〜Romance in Abū Dhabī〜 【Alphapolis Edition】
佐倉 蘭
キャラ文芸
都内の大手不動産会社に勤める、三浦 真珠子(まみこ)27歳。
ある日、突然の辞令によって、アブダビの新都市建設に関わるタワービル建設のプロジェクトメンバーに抜擢される。
それに伴って、海外事業本部・アブダビ新都市建設事業室に異動となり、海外赴任することになるのだが……
——って……アブダビって、どこ⁉︎
※作中にアラビア語が出てきますが、作者はアラビア語に不案内ですので雰囲気だけお楽しみ下さい。また、文字が反転しているかもしれませんのでお含みおき下さい。
おしごとおおごとゴロのこと
皐月 翠珠
キャラ文芸
家族を養うため、そして憧れの存在に会うために田舎から上京してきた一匹のクマのぬいぐるみ。
奉公先は華やかな世界に生きる都会のぬいぐるみの家。
夢や希望をみんなに届ける存在の現実、知る覚悟はありますか?
原案:皐月翠珠 てぃる
作:皐月翠珠
イラスト:てぃる
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる