お犬様のお世話係りになったはずなんだけど………

第２章 和輝ペットシッター？になる

055★それは〈レイ〉と〈サラ〉のです

　「はぁ～い、お待たせ〈レイ〉」

　「はい〈サラ〉のぶんね」

　真奈が〈レイ〉の分を、優奈が〈サラ〉の分を手に、分担してご褒美を持って来た。
　２頭は上半身を起こして、桜の左右にお座りの姿で座ったまま、デレッとした表情で、自分の前にミルクババロアが乗った皿とトリカラが乗った小皿が置かれるのを待った。

　ちなみに、客間のテーブルはローテーブルなので、２頭の食べる高さが丁度良い為に、桜の左右に座る２頭の前に、コトッコトッという音と共に置かれた。
　２頭は、和輝から食べて良いという許可が出るのを、今か今かと思いながら待っていた。
　そんな２頭を、桜は面白く無さそうに見ていた。

　どうして、桜を引き摺った
　こいつらが余計におやつを
　もらうのよ………

　なんかしゃくにさわるわ
　桜なんてやっと契約できて
　ホッとしているのに………

　そう思った桜は、悪戯っ子の表情をにしゃっと浮かべる。
　そして、綺麗に盛られた〈レイ〉用のミルクババロアの生クリームで出来ている飾りの盛り上がった部分をツイッと人差し指で掬い取り、パクッとつまみ食いする。

　「こらこら、桜
　　つまみ食いするなよぉ

　　それも…犬の〈レイ〉の
　　うわまえを目の前で
　　はねるなんて可哀想だろう

　　それに、そういう行為は
　　危険なんだぞ、本当は」

　桜は和輝の注意を意に介さず、今度は〈サラ〉のミルクババロアに飾られていた小さなチョコレートを取り上げ、パクッと食べてしまう。

　「さぁーくぅーらぁー……
　　やめろってぇ………

　　あとで、もっと可愛くて
　　躯に良いモノを作って
　　やるから………

　　ほら見ろ…桜……
　　〈レイ〉と〈サラ〉の瞳に
　　涙が溜まっているぞ

　　そんなコトしていると
　　２頭の目元に涙焼けが
　　出来ちまうから…な……」

　和輝からの諌めの言葉に、桜はペロッとチョコレートをつまんだ指先を舐め、チラリとトリカラを名残惜しそうに見ながら言う。

　「理解（わか）ったわ
　　もう止める

　　その代わり、あとで
　　美味しいモノを作ってね

　　桜は、なんかすっごく
　　お腹が減って来た気がする

　　さっき、チキンナゲットや
　　トリカラにサンドイッチも
　　食べたのに………

　　ナスの肉挟み美味しかった
　　ホタテもコロッケも………

　　あれだけ食べたのに
　　桜の身体の…何処に
　　消えちゃったのかしら？」

　小首を傾げて切なげに嘆息する桜に、和輝は肩を竦めて言う。

　「それは当然だろうな
　　そんだけ怪我したんだから
　　今、一生懸命に、身体が
　　新陳代謝を繰り返している

　　欠損部分を無理矢理補ったから
　　そのエネルギーを補給する
　　必要があるからな

　　桜はいざという時の為に
　　もう少し身体に肉を付けて
　　おかないとな

　　つーことで、あとでもっと
　　身になるモン用意してやっから

　　そいつは２頭のご褒美だから
　　もうつまみ食いするなよ」

　和輝の言葉に、桜は自分の状態をなるほどと納得する。
　その間に、和輝は涙目で我慢した〈レイ〉と〈サラ〉の頭を優しく撫でてから、食べることを許可する。

　「ほら、食べて良いぞ
　　〈レイ〉〈サラ〉」