お犬様のお世話係りになったはずなんだけど………

第２章 和輝ペットシッター？になる

054★和輝と桜は通常運転

　和輝は、桜の生気が戻った瞳を確認して言う。

　「桜、どうだ？
　　少しは効いたか？
　　無茶をするから
　　こんなコトになるんだぞ

　　俺に、こういう特殊技能が
　　あったから助けてやれるけど
　　桜も自分の制御を覚えような

　　何時でも、俺が側に居て
　　分けてやれるわけじゃ
　　ないんだからさ

　　桜が、そこら辺で行き倒れる
　　のもなんだろう？
　　だから、訓練しような」

　和輝からのお小言に項垂れた桜は、八つ当たり対象として〈レイ〉の耳を片手で引っ張りながら、出したっぱなしの契約金と月給、反対の手の指先でピンッと弾く。

　「契約金と月給………
　　しまわないのか？　和輝」

　和輝は、桜の行動に眉を顰めて言う。

　「こらこら〈レイ〉に
　　八つ当たりするな、桜
　　耳を開放してやれよ
　　可哀想だろうが

　　じょじょにで良いから
　　自分の意思で、意識と
　　身体の制御を努力しろって
　　言っているだけだろう

　　ったく、契約金と月給の方は
　　必要な分だけ取り分けたら
　　桜の家に行く途中にでも
　　その辺の銀行に振り込むさ

　　このまま持ち歩くなんて
　　危ないからな」

　桜の問いに答える和輝に、桜はぷぅっと頬を膨らませる。

　「桜に嫌なコトを言う口は
　　この口か？」

　そう言って、桜は和輝の頬を摘まむ。
　が、桜の子供じみた反応に、和輝は怒らなかった。
　とりあえず、桜に言われた現金をひとまとめにして、無造作にポケットに突っ込む。

　テーブルの上に、現金が
　乗ったままってぇーのは
　不味かったかな？

　まぁ…優奈も真奈も
　見てなかったようだから
　大丈夫だろうけど………
　大金は目に毒だからな

　マジで、桜の家に行く途中で
　その辺の銀行に放り込もう

　とにかく、ある程度
　新しい生活が落ち着いたら
　郵便貯金とかで、積み立てを
　真面目にやらないとな

　俺の分と優奈の分と真奈の分
　そういう形で三等分にしよう

　大金の処遇と、今後の生活を考えていた和輝は、まだ後ろを向いている蓬莱家の爺やと、２人のボディーガードに声をかける。

　「あぁ…もう向き直っても
　　良いですよ
　　終わりましたから………

　　ぅん？　ああ…きたな
　　くすくす〈レイ〉〈サラ〉
　　お待ちかねのご褒美

　　ミルクババロアとトリカラが
　　きたようだな」

　２頭は、和輝からの言葉に、通常は寝かせている両耳をピンと立てて、口元をだらしなく半開きになる。
　そうすると、愛想笑いでも浮かべているような、少し情けなくも可愛らしい表情になる。

　先刻、和輝が約束したおやつを、優奈と真奈が持って来ると理解（わか）っている２頭は、客間の出入り口を嬉しそうに振り返る。
　そうすると、いっそう愛らしさが増す。
　それとほぼ同時くらいに、客間のドアが開く。