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第9章 忍び寄る妖しい気配

434★何度もあれば、それは日常と化す

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 気分は温石おんじゃく、もとい、湯たんぽと化していた和輝は、パチッと目を覚ます。

 ぅん?……って…また…全裸?……って……あぁ~…そうだったな
 寝る前に紅夜と桜にねだられて、ほぼ強制全裸だったっけ

 和輝は自分の状態を思い出し、ちょっと苦笑いする。
 っと、和輝が起きたコトに気付いた〈カオス〉が、ニヘラッと笑って、声を出さないようにアフッと語尾にハートマークでも浮かびそうな声なき声をです。

 すると、紅夜と桜の脇でそれぞれ寝ていた〈サラ〉と〈レイ〉も、少しだけ顔を上げて、お尻尾をふぁっさふぁっさと振る。

 ん~…体内時計的には4時間ぐらいかな?
 あの強烈な眠気は綺麗さっぱりになっているな

 眠気も気怠さも消えているコトにホッとしつつ、視線を巡らせれば、ちょっと離れたところに時計があるのを見付けて、双眸を細める。

 9時少し前っところか……ふむ…だいたい、体内時計はあっているな……
 つーと、ゲストハウスのみんなは、既に起きているかな?

 優奈と真奈に拗ねられるのはちょっ困るな………と
 俺達は良いとしても、あいつらの朝食は作ってやらないとな

 いや、今の桜には、ちゃんとした朝食必要なのかな?
 流石に、ダイエットが必要な食いしん坊って言われているだけあって
 ガリガリに痩せちまった〈カオス〉も何か食べたいようだしな

 その子供である〈サラ〉も〈レイ〉も、何か欲しそうだな
 ただ、流石に食べ過ぎると胃に悪いから、消化に良い肉系中心だな

 そんなコトを考えながら、和輝は自分に縋りつくようにして眠っている桜にまず声かける。

 「桜、桜、俺、そろそろ起きるから、その両腕外してくれないか?」

 抱き付き、胸に顔をウメルうにして寝ていた桜が、ぼぉ~っとした瞳を開けて和輝を見上げる。
 が、その瞳は、また見事に真紅に輝いていた。

 「あっちゃ~……やっぱり…オーバーヒートを起こしていたかぁ~……
  桜、ちゃんと起きたら、口移しで出来立ての《光珠》やるぞぉ~」

 うふふふ……気持ち良いのぉ~……って……えっ?……《光珠》……
 口移しでくれるなら、桜は起きるぞ……うふっ…出来立ての《光珠》

 和輝の言葉に、今度こそ、瞳をパッチリと開けて言う。

 「本当ですの?」

 やっとちゃんと意識が完全に覚醒かくせいしたらしい桜に、頷く。

 「ああ……つーコトで取り敢えず、その両腕外してくれっか?
  したら、紅夜も起こすから……ちなみに、桜、瞳が真っ赤だからな
  《光珠》やるけど、だるいようだったら寝てていいからな

  俺は、このまま起きて、朝食を作りに行くからな
  食べられるようなら、食べに出て来いよ

  俺は、朝食作った後は、こいつら3頭の散歩に行く予定だから」

 そう言ってから、桜が抱き付いていた両腕を解放してもらった和輝は、紅夜の背後から自分に抱き付く腕を軽く叩いて声をかける。

 「紅夜、紅夜、お前も起きろよ……俺は朝ご飯の支度あるからよぉ~…」

 ペチペチと叩かれた紅夜は、悪戯せずに、素直に両腕を解いた。

 「ぅん~……も…う……起きる…のかぁ~……あぁ~ふ………」

 「ああ、朝食を作らないとだしな……こいつらの散歩もあるからさ」

 半ボケで腕を解いた紅夜が呟くのを聞きながら、やっと左右の腕から解放された和輝は、紅夜につられてひとつ大きくあくびをする。

 そしてムクッと起き上がり、胡坐をかいて、双眸を閉じ、丹田を意識して、大きな《光珠》を作るように《気》を練り上げる。

 丹田から腹腔、胸部から喉へと持ち上げて来たところで、口腔へと塊りを持ち上げて一気に結晶化する。
 口腔で結晶体となった《光珠》を感じた和輝は双眸をパチッと開ける。

 その眼前には、わくわくした桜のアップが………。
 和輝は、そのまま竜也や竜姫に与えていた時と同じように、そっと口付けて、その口腔へと舌で押し込む。

 桜は、嬉々として与えられた《光珠》を受け取り、うっとりと微笑む。
 《光珠》を与えて直ぐに唇を外した和輝は、紅夜を振り返る。

 と、そこには、やはり瞳を桜程ではないものの赤くした紅夜がいた。

 あぁ~…やっぱり……紅夜のキャパ以上のストレスだったんだな
 だから、ちゃんと自分で呼んで謝っちまえば良かったのに………

 「紅夜、お前も瞳が赤くなっているぞ……思ったより、疲労してたな
  ほら、紅夜にも《光珠》やるから、ちょっと身を屈めろ」

 そう言いながら、和輝は再び丹田に《気》を集中させて、紅夜の分の《光珠》を作り上げる。
 舌先に結晶体の感触を感じた和輝は、紅夜へと口付けて譲渡する。

 はぁ~……蕩けるぅ~……って…えっ?…俺も瞳赤くなってるのか?

 口腔へと放り込まれた《光珠》にうっとりしつつ、紅夜はベッドから降りて、勝手知ったるで桜の部屋のチェストの引き出しを開けて、手鏡を出して自分の瞳を見た。

 赤光を放つほどは赤々としてはいないが、確かに真っ赤だった。

 うわぁ~……なんだ…これ……初めてだぞ、こんなの………

 項垂れる紅夜に、和輝は声を掛ける。

 「どぉ~したぁ~?紅夜?……なにを落ち込んでいるんだ?ぁ
  お前はどうする?起きるのつらいなら、もう少し寝ているか?」

 もう、全裸でいるコトに恥ずかしがるだけの気力が無い和輝は、そのままベッドから降りて、取り敢えず寝る前に脱いだ下着やジャージを身に付ける。

 「さて、ちょっと遅いけど、朝食の準備をするとしようか?
  〈カオス〉〈サラ〉〈レイ〉…カモンッ……
  そんじゃ俺は、こいつらと先にリビングに行ってるな」

 そう言って、和輝は桜と紅夜を置いて、3頭を連れてリビングにさっさと行ってしまうのだった。













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