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第8章 親密な関係になりたい

414★ボルゾイはサイトハウンドなので、ゆっくりと歩きます

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 真奈と優奈に、ひとつだけ、願い事を聞いてやるって約束したけど
 犬…それも、ボルゾイが飼いたいって言われたら、ダメって言えないよな

 はぁ~…こんなに可愛い姿を見ちまうと、俺自身、自分だけのボルゾイが
 欲しいって思っちまうもんよぉ~……

 3頭に約束したおやつのクッキーを与えた和輝は、フッと微笑わらって、胸ポケットへと転がし入れた《光珠》のひとつを取り出して、紅夜へと差し出す。

 「ほら…紅夜……もうひと粒やるから、飲んでおけよ
  お前、マジで疲れた顔しているからな

  なに、桜には、あっちに行ったら、新しい《光珠》を
  追加でやるから気にすんな」

 そう言って、和輝は紅夜の掌に、ひょいっと新しい作りたての《光珠》をなんの躊躇ためらいもなく置く。

 新たな《光珠》をもらった紅夜は、その色艶の素晴らしい真珠のようなひと粒に感激する。

 「わぁ~お……こんな綺麗なのを、もうひと粒もらえるなんてラッキー
  こいつらが脱走してくれたおかげかな」

 嬉々としてそういう紅夜に、和輝は笑って言う。

 「クッククク………現金なヤツだな、紅夜
  そんじゃぁ~…〈カオス〉達3頭にも、もう1枚ずつやるか」

 和輝が3頭にまた1枚ずつクッキーをあげている間に、紅夜はもらった《光珠》をゆっくりと堪能した。

 はぁ~…癒されるぅ~…これで兄上達や桜の我が儘になんとか耐えられる

 まるで、薬物でトリップでもしたような表情の紅夜を見て、和輝は苦笑する。

 紅夜ってば、末っ子ってわりに、苦労性のようだなぁ~………

 この疲れ切った様子から察するところ、ハリウッドで俳優やっている紅夜よりも、我の強い白夜さんや蒼夜さんて、かなりの難物なんだろうなぁ

 まっ…俺は単なるペットシッターとして、ほんの少し付き合うだけだから
 そういう意味じゃ、お気楽かなぁ~……

 何と言っても、余分な人間関係は、疲労困憊のもとだしな
 でも、あの人達だと『触らぬ神に祟りなし』って言葉を地で行きそう

 ………じゃなくて…はぁ~…俺も、結構疲れているなぁ~……
 こういう時は、余分なコトは考えない
 後は野となれ山となれ…ケセラセラで良いじゃん

 取り敢えず、ペットハウスに行ったら、こいつら用に何かを作って
 桜と紅夜用には、ケーキなんかを作って、食べてろで良いよな
 んで、俺は、さっさと寝るコトにすればいっか

 そう意識を切り替えた和輝は、紅夜を振り返って言う。

 「紅夜、《光珠》を吸収し終わったか?そろそろ桜んところに行こうぜ
  きっと『遅い』って、頬を膨らましてた待っているだろうからさ」

 和輝の言葉に、もらった《光珠》で気分が浮上した紅夜は、ちょっと疲れたような表情になって、引き綱を握ったままの3頭を振り返る。

 「おう、行こうか…おとなしく帰るんだぞ〈カオス〉〈サラ〉〈レイ〉」

 紅夜の呼び掛けに、3頭はガバッとお座りの姿勢から立ち上がって、嬉しそうにお尻尾をピーンと立ててから、パタパタと振って応える。

 「紅夜…お前、マジで疲れているようだからなぁ…一度に、3頭全部が
  綱を引っ張られたら、今のお前じゃ対応できねぇ~だろう

  だから、分担しようぜ…〈サラ〉と〈レイ〉の引き綱こっちによこせよ
  まだ、俺の方が、体力残っているからさ」

 和輝の気遣いに、紅夜は感謝しつつ2頭の引き綱を差し出す。

 「ああ、頼むわ」

 2頭分の引き綱を受け取りながら、和輝は笑って言う。

 「紅夜は〈カオス〉な………なに激痩せして弱っていから
  そんなに引っ張る力なんてないから、今の紅夜でも大丈夫だろ」

 残った〈カオス〉の引き綱を握りなおして頷く。

 「ああ頼むわ……確かに、今の俺じゃ2頭なんて扱いきれねぇ~……」

 紅夜の溜め息まじりの言葉に、クスッと笑って、和輝は3頭に視線を軽く合わせてから、命令を出す。

 「〈カオス〉〈サラ〉〈レイ〉………ゴウ…ウォーク…ハウスっ………
  んじゃ、ゆっくりと行こうか、紅夜」

 「ああ」

 頷いた紅夜は、和輝と一緒にゆっくりと歩き出す。
 なぜ、ゆっくり歩くかというと、ここで下手に急いだりして、小走りなどしたら、3頭をご機嫌な状態にしてしまい、思いっきりダッシュされてしまうからだ。

 元々がサイトハウンドで、目先の獲物を追い駆ける習性があるところに、高い頭脳を持つ犬種なので、自分達の目的である、和輝から何かをもらう&自分達のハウスに呼んで、何かを作ってもらうという、野望を達成した為に、お尻尾ふりふりで上機嫌な為、何かの拍子に暴走する可能性がある為、それを抑える為に、安全をとってのゆっくり歩行となったのだ。

 3頭は、引き綱が軽く張る程度の歩調で、和輝達の歩く速度にあわせて、ゆっくりとペットハウスに向かう。

 そんな中、和輝の歩調にあわせて、えへえへしながら前を歩く3頭の姿を見て、紅夜はしみじみと内心でぼやく。

 ったく…俺の命令だって、こんなに素直に聞かねぇ~つーの
 マジで、桜じゃないけど、和輝には側に居て欲しいぜ
 二重の意味で、和輝ってすげぇ~貴重な人間だよなぁ~……

 そんなコトを考えながら、ほけほけと歩く紅夜と並んで歩く和輝は、ペットハウスに入ったら、何を作ってやろうかと、頭の中で試行錯誤していた。
















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