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第8章 親密な関係になりたい

407★結局、和輝は桜のお願いに弱い

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 桜は、和輝に一生懸命おねだりしながら、内心でぼやく。

 そうなのよねぇ~…また、紅夜は白夜兄ぃ様達のところに行ってしまう
 きっと…間違いなく、呼ばれて…また桜を置いて行くのよ

 せっかく…せっかく…早く帰国して来たというのにぃ~………
 これでは、全然手見がないのですわぁ~……ぐっすん

 寂しいのにぃ~…紅夜は、全然桜の側に居てくれませんのですわ
 ずっとぎゅ~って抱き締めていて、愛を囁いて欲しいのに………

 今日は、帰って来てから、それすらしてくれないので…寂しいのです
 ここは、絶対に…和輝に側に居てもらいたいのですわ

 だって、和輝が側に居るだけで、こころも身体も温かいのですもの
 もう…ひとりでペットハウスで待っているのはイヤなのです

 切実さを滲ませる桜の声に対して、拒否から躊躇ちゅうちょするような気配へと移り変わったコトを感じた紅夜は、ツイッと桜の手からスマホを抜き取り懇願する。

 「俺からも頼むわぁ和輝…それと、ざっとした報酬額も聞きたいからさ
  なんなら、そっちの希望金額を額面通りに出すから……なっ」

 紅夜のセリフに、竜也に金額を丸投げした和輝は、言葉に詰まる。

 『…………』

 困ったような雰囲気を感じた紅夜は、畳む込むように言葉を続ける。

 「それとは別に、特別手当は、たぁ~んと弾むから、来て欲しいんだ」

 その如何にもいかがわしく聞こえる、紅夜の発言に、和輝は頭が痛いとばかりに、額に手をあてて、ボソッと思ったままを言う。

 『おいおい…なんか…それだと、愛人手当かなんかみたいに聞こえるぞ』

 和輝の困惑などどこ吹く風の桜は、紅夜からスマホを再び取り上げて、嬉しそうに言う。

 「着替えetc.とタオルは、爺やに用意させてあるから、大丈夫ですわ
  だから、3頭と一緒に、こっちに来て欲しいのですわ
  すぐに、紅夜に迎えに行かせますので、待っていて欲しいですわ」

 桜の楽し気な声に、和輝はひとつ大きく溜め息を吐いて、了承の言葉を口にする。

 『わかったよ………しゃ~ねぇ~な、桜は……取り敢えず、外に出て
  3頭とも側に呼んでおくから、急いで首輪と引き綱を持って来てくれ』

 和輝の言葉に、桜は嬉しそうに頷く。

 「はいなのです…すぐに、紅夜がそちらにまいりますわ」

 桜がスマホで和輝と話している間に、紅夜は3頭分の首輪と引き綱を用意していた。
 3頭分のそれを片手に握った紅夜は、桜からスマホをひょいっと取り上げて言う。

 「和輝ぃ…首輪と引き綱の用意できたから、すぐ行くわ……」

 紅夜の言葉に、和輝はちょっと諦めの混じった声で応じる。

 『オッケー…待ってる』

 そう言って、和輝はプツッとスマホを切った。
 切れたスマホを見て、紅夜はちょっと途方にくれる。

 「あっ……ごめん、桜…和輝に切られた……けど、良いよな…ほら
  すぐに3頭と一緒に、和輝のコトもこっちに連れてくるからさ」

 困った顔でそう言う紅夜に、桜は仕方がないという表情で頷く。

 「仕方がないのですわね…用件は終わったと判断して、切ったのでしょう
  取り敢えず、その首輪と引き綱を持って、あの馬鹿犬3頭と和輝を
  こちらに連れて来て欲しいですわ」

 桜の言葉に、紅夜は今日何度目かわからない溜め息をひとつ吐いて、ちょっと肩を竦めてから頷く。

 「おう…そんじゃちょっと、あいつら3頭と和輝を迎えに行って来るわ」 

 そう言って、背を向けようとした紅夜に、桜は首を傾げながら、呼び止める。

 これでヨシですわ……じゃなくて、取り敢えず、紅夜に確認ですわ

 「ちょっと待ってですの、紅夜?」

 桜に呼び止められた紅夜は、?を浮かべながら、振り返る。

 「うん?どうかしたか?桜?」

 桜に呼び止められた理由がわからない紅夜は、その振り返ったままの姿勢で聞く。

 「紅夜、和輝をこちらに呼ぶ為に、ああは言いましたけど……その……
  もう…本邸の方には…戻りませんわよね……帰って来たのだし……

  このまま、向こうから連れ帰った3頭と、桜達と軽い食事を食べて
  後は、3頭と桜と和輝と一緒に寝るだけですわよね」

 ちょっと怒ったような口調で、桜は確認するように、紅夜に向かってそう言う。
 
 こっちペットハウスに帰って来たのだから、今日はもう、自分の側に居てくれますよねと確認する桜に、紅夜はとても済まなそうな表情で謝る。

 あぅぅ~……桜ぁ~……そんな責めるような瞳で見るなよ…ぐっすん
 俺だって、そうできたら…どんだけ良いか……はぁ~……

 「ごめん…桜…本当は、兄上達に頼まれて〈カオス〉と〈サラ〉を
  連れに戻っただけだったんだ」

 紅夜からの返事は、ある意味で予想していたが、その通りの言葉が、そのまま帰って来てしまった桜は、ガックリと肩を落として、寂しそうにうつむく。














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