上 下
407 / 446
第8章 親密な関係になりたい

406★どうやら、おねだりする為に逃亡したようだ

しおりを挟む
 紅夜が振り返って聞けば、握りこぶしをプルプルさせながら、桜がその理由を言う。

 「あうぅ~…全部、紅夜が悪いのですわ
  せっかく、屋敷に帰って来たのに、側に居ないからですわ

  和輝も、紅夜が帰って来たから側に居なくて良いだろうって
  皆と一緒に、あっちの家に帰っちゃいましたし

  なんか、寂しくなったら…物凄くお腹まで空いてしまって……
  だから、桜は和輝が作ってくれた野菜スープを飲もうと思いましたの

  温かい野菜スープを飲めば、空腹は満たされるし寂しさも癒えると
  思って…だから、自分用に、食べる分だけスープ皿に小分けによそって

  電子レンジで温めようとしましたら……〈カオス〉を筆頭に3頭が
  桜に纏わり付いて、きゅぅ~いきゅぅ~いと、しつこく鳴いて
  自分達にも、野菜スープをちょうだいをしてきましたけど………

  人間用に作った野菜スープだから、貴方達は食べられないのって
  ダメだと言ったからかもしれませんわ

  だって、和輝は言いましたわ

  『これは、人間用に、タマネギがたぁ~っぷりと入っているから
   絶対に、犬に食べされられないからな

   食べたら、中毒を起こして死ぬコトもあるからな
   欲しがっても、絶対にあげるな』

  って、言われていたから、食べられないって言いましたのに………

  そしたら、桜が声を掛けても無視して〈カオス〉と一緒に〈サラ〉も
  〈レイ〉もキッチンから出て、リビングからも出て行ってしまって

  勝手に廊下に出てしまって………桜が戻れと命令しましたのにぃ~…
  ハウスッて、何度も命令しましたのに………無視してぇ~………

  そこへ、紅夜が間の悪いコトにドアを開けて帰って来たのですわ
  桜なりに一生懸命に止めましたけど、全然言うコトを聞いてくれなくて

  紅夜がドアを開けた瞬間に、飛び出してしまったのですわ」

 一生懸命に訴える、桜の怒りを滲ませて少し震える声が聞こえた和輝は、クスッと笑って言う。

 『はぁ~……わかった…こっちに来ているなら、そっちに連れて行くよ
  〈サラ〉に〈レイ〉だけじゃなく〈カオス〉もなのか?』

 和輝の質問に、紅夜は肩を竦めて言う。

 「ああ、3頭ともだ……こっち帰って来て、ドアをガチャッて開けた途端
  俺の脇をスルリッと抜けて、思いっきりダッシュして行ったからなぁ…

  それこそ、喜び勇んでって言葉がぴったりなほど嬉しそうにな
  ちなみに、一番最初に飛び出してきたのは〈カオス〉だったぞ

  ボルゾイって犬種は、めっきり頭が良いけど、性格もイイんでな
  まして、おねだり上手な〈カオス〉とその子供の〈レイ〉と〈サラ〉だ

  あいつらは、俺達の言葉を、かなり正確に理解できるようなんでな
  きっと、桜にコレは食べられないから、ダメッて言われたから

  だったら、和輝に自分達が食べられる、何か美味しいモノを
  作ってもらおうってねだりに行ったに違いねぇ……ごめん」

 その答えに、和輝は自分の手元に、引き綱のひとつも無いコトに気付いて言う。

 『そっか……桜からダメって言われたから、なんか食いたくてねだりに
  こっちに向かったわけか……って……あれ?………んじゃぁ~……
  3頭とも、首輪や引き綱無しの状態か?』

 確認された意味に気付き、紅夜は首を傾げ、自分の脇をすり抜けた3頭に首輪やハーネスなどの装備がついて無かったコトを確認し、ひとつ大きく溜め息を吐いて答える。

「ん~と……はぁ~……ああ、3頭ともに、なんもつけて無かったな」

 紅夜の答えを予測していた和輝は、たいして落胆するコトもなく言う。

 『はぁ~…そっか…んじゃぁ~…紅夜も、こっちに来てくれっか?
  流石に、ひとりで3頭をコントロールするのは、ちっと荷が重いからさ

  ああそれと、そん時に、3頭分の首輪と引き綱を頼むわ
  悪いけど、こっちに首輪や引き綱の予備とか持って来てねぇ~からさ』

 和輝の言葉に、紅夜もホッとしながら気軽に応じる。

 ラッキー…時間外労働だって、断られなくて良かったぁ~……

 「りょ~かい」

 そう言って、紅夜が切ろうとしたスマホを取り上げて、桜は和輝におねだりする。

 「あっ…和輝、どうせこちらにすぐに来るのでしょう
  でしたら、桜も何か作って欲しいですわ

  桜達用と〈カオス〉と〈サラ〉と〈レイ〉用に………でもってぇ…
  こっちにお泊りして欲しいのですわ」

 桜の要望に、和輝は思わず溜め息を吐いてしまう。

 『はぁ~……』

 その和輝の無言の拒否に、桜は一生懸命に言葉を紡ぐ。

 えぇ~とぉ~……なんか…そう…なんか…和輝をこっちに呼ぶのに……
 あぁ…そうですわ……ここは…桜もおねだりですわ………

 「だって、和輝を求めて、また3頭に脱走されるのは大変なのですわ
  紅夜は疲れているし…それに…それに…なんか、また爺やに呼ばれて
  本邸に行ってしまいそうなんですもの

  桜は、そういう意味では役にたたないから……お願いなのぉ~
  なんか…とても寂しくてたまらないの………

  それに…また…《生気》が足りなくなってきた気がしますの
  変にお腹か空いてしまうし…怖いの……だから、お泊りして欲しい」











しおりを挟む

処理中です...