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第8章 親密な関係になりたい
393★もう桜には必要ないから、藤夜にあげよう*side蓬莱家の蒼夜*
しおりを挟む既に、桜には、ある意味で最大の理解者であり、真族への変異に必要な
《生気》の提供者である和輝君が、側にいるから大丈夫だしね
ポツリと呟くように言った蒼夜は、意識を集中する為に、双眸を閉じる。
静かに呼吸を整えて、多くの人間達と情を交わして、狩り集めた《生気》を藤夜へと譲渡する為に凝縮させる。
ひとつ大きく深呼吸をして、双眸を見開いた時、蒼夜の瞳は煌々とした真紅色へと染まりあがっていた。
蒼夜の双眸が真紅色の妖しい光を放つと同時に、その唇の両端からは、まさしく牙と呼ぶに相応しい、中が空洞になっている、白く鋭い犬歯が生えていた。
その姿は、和輝の首筋に牙を突き立てた白夜と、なんら変わらない姿だった。
これが、真族のもうひとつの姿であった。
そして、忌み嫌う〔バンパイア〕達と、真族が混同され、同一視されて
狂信的に異質なモノを抹殺して歩く【狩る者】達に狙われる理由であった。
ツイッと藤夜の首筋の頸動脈を指の腹でなぞり、位置を確認した蒼夜は、なんの躊躇いもなく、その管牙と呼ばれ牙を突き立てた。
本来ならば、口付けでも充分に《生気》を譲渡できるのだが、藤夜のように弱り切った者には、直接身体の中に注入する方が、より効果的なのだ。
自分が狩り集めた良質な《生気》を、すべて藤夜に注ぎ込んだ蒼夜は、なんの躊躇いもなく、食い込ませた管牙をあっさりと抜く。
勿論、藤夜に《生気》を注入する為に伸ばされていた管牙は、抜き放った次の瞬間には、元の状態に戻っていた。
蒼夜は、管牙と化していた犬歯が戻った後、無意識にツイッと唇を軽く指先で拭う。
勿論、真紅色へと変化していた双眸も、もとの穏やかな本来の色合いに戻っていた。
ちなみに、蒼夜の瞳は暗い蒼色なので、ぱっと見は黒瞳に見えたりする。
「………ふっ………少し、顔色が良くなったかな?」
呟くように言いながら、藤夜の首筋を穿った牙の痕跡を、指の腹でそっと撫でて、跡形もなく消す。
本来、藤夜も正気ならば、蒼夜や白夜同様、軽く治癒させて、その痕跡を消すコトは容易なのだ。
しかし、自分が〔バンパイア〕だという狂気に取り憑かれていた藤夜は、そういう本能的にするべきコトすらできなかったのだ。
ただ、ある意味で、中途半端な状態で、和輝から引き剝がされたが為に、誰も藤夜の本性を疑う者は居なかったともいう。
蒼夜は無意識のまま、何時ものクセで、藤夜の頬を撫でながら、緩やかに深く呼吸するのを見て安堵する。
うん、表情も穏やかで、良く眠っているね
ずっと、苦悶を浮かべた表情しか見ていなかったから、安心するよ
取り敢えず、明日からは食事もゆっくりと摂れるようになるからね
陽平が食事や生活全般の介助してくれるだろうし
やっぱり、衰弱した身体の為にも、匂いや味を楽しみを感じながら
ご飯を食べるのが一番だからね
さてと、私もあっちに戻って、紅夜から【記憶】を観せてもらおう
私は白夜と違って、紅夜から細かく報告をもらってないからね、楽しみだ
キツイ顔立ちの紅夜が、情けなく困ったような表情をするのは
ちょっとそういう意味で、そそるモノがあるからねぇ~………
長である白夜に懐いている、腹違いの弟だって判っているから
そういう悪戯はしないけどね
血の繋がりが無いんだったら、血と性を枷にして〔虜〕にして
そういう意味で、手元に置いて可愛がっていたかもしれないね
そういう意味では、ちょっと残念かな?
生憎、私は同じ血を引く者を、そういう意味で、愛でたり嬲ったりする
趣味はないからねぇ………
本当に、近親婚による澱みで顕著に出る、近親相姦を好むような性質が
自分に出なくて良かったよ
…………っと、ああそうだ……紅夜に〈カオス〉と〈サラ〉を、本邸に
連れて来てもらわなきゃね
きっと、白夜だって〈サラ〉に会いたいって思っているだろうし
ついさっきまでの煩悶をポイッとした蒼夜は、軽い足取りで自分の私室からそっと出る。
そして、白夜と紅夜が戻って来るのを待っているだろうリビングへと向かった。
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