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第8章 親密な関係になりたい

391★今も昔も、病院は鬼門*side蓬莱家の蒼夜*

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 帰宅するたびに、細心の注意を払って、安眠を誘う呪縛を施して、なお
 何時も苦しそうな表情を浮かべていた藤夜が、今は安らかだ

 大量の《生気》を摂取し、十数年ぶりに、真っ当な食事も摂れて………
 帰宅するたびに、地下室の座敷牢に封じ込めていた藤夜が、何時
 儚くなってしまうか…と心配していたのが嘘のようだね

 それもこれも、桜が引っ掛けてくれた和輝達兄妹と、その友人達のお陰だ
 クスクス………私ができるお礼なら、いくらでもしてあげたいな

 誰が何と言おうと、あの子達と、私達真族は、もう一蓮托生だからね
 さて、このまま寝かせるのは、流石に藤夜の身体に良くないね

 身体はできるだけ楽にした方が良いからね
 私達は、裸体が一番身体を休められる状態だからねぇ~……

 睡眠時は、何も着用しない方が良いんだよねぇ……
 そうするコトによって、自然の息吹きを取り込めるからね

 正気を失っていた時は、それすらできなくなっていたけど
 正気を取り戻した今の藤夜には、容易なコトだからね

 呼吸するよりも簡単に、大気の中に溶け込む自然が醸し出す
 《生気》を含んだ息吹きを取り込める

 うん…空調も効いている効いているし……ここは脱がせてあげようね
 藤夜が、より深く、リラックスして眠れるようにね

 蒼夜は、ベッドに乗せられたコトで、より深い眠りへと沈んだ藤夜の身体を楽にしてやる為に、着ていた着物の帯をほどき、あわせを大きく開く。

 現れた真新しい下着姿に、蒼夜は無意識にクスッと笑う。

 藤夜の身体を心配して、陽平はタンクトップも着せてくれたんだね
 でも、もう必要ないから、タンクトップも脱がしてしまおう

 蒼夜は、藤夜の上半身を片手でひょいっと軽く浮かして、まずは着物を取り払う。
 一度寝かしなおし、蒼夜は藤夜のタンクトップをたくしあげ、上半身を再び軽く持ち上げて、抜き取る。

 目の前に現れた藤夜の上半身をしみじみと観察する。

 本当に、酷い火傷の痕跡…ふっ…何度、目にしても、これは慣れないね

 藤夜の胸元から腹部まで、指先でたどれば、ケロイド状になって捩れ固まった皮膚の感触を、蒼夜の指の腹に伝える。

 本当に、和輝君達が言うように、藤夜を医師と設備の整った病院に
 入院させられるならば、どんなに良いコトか

 健常な細胞を培養して、この無残に焼け爛れて捩れ固まった皮膚を
 綺麗に張り替えるなどといコトが、本当にできるというならば
 多少のリスクにだって目を瞑るものを……けど、それは、夢のまた夢

 人の多いところに連れてなど行ったら、藤夜がパニックを起こしてしまう
 和輝君達は、ある意味で、特別な人間達だからね
 だから、私達は、無用な期待はしない……いや、してはならない

 自戒を込めて、蒼夜は揺れる気持ちを引き締める。

 異種族気を見慣れているらしい和輝君達は、藤夜や桜の変異した
 あれな姿を見ても、奇異に思うコトは無いだろうが
 他の人間は、そうはいかないからね

 ただ、屋敷から早々に帰ってしまた2人の人間は、流石に
 和輝君達の友人だけあって、桜の変異を気にしていなかったな

 この朝露街という街は、我々真族を拒まない何かがあるようだ
 …………じゃなくて、下も脱がせてやらないとね

 蒼夜は、藤夜の下着も、ツルリッと脱がせ、全裸にしてしまう。

 これで良し……ふむ……改めて、藤夜の裸体を見て思うけど………
 確かに、和輝君達が言うように、七割ぐらい焼け爛れているようだね

 本当に、最新治療が受けられるならば…………
 
 だが、皮膚細胞を培養してというコトになると、人間との相違が
 バレる可能性がある

 もし、遺伝子解析などというコトになったら、流石に不味いからね
 それがあるから、藤夜を病院には入れられない

 蒼夜は煩悶しながらも、藤夜が寒くないようにと、天然で採取された絹の毛布をソッと肩口までかける。

 それに、長く隠れ里などに隠れ住んでいただけに、キツイんだよね
 多くの人間の中に紛れるのも、無防備な姿を晒すのも、我々真族の血を
 引く者は、苦痛を感じるからね

 確かに、和輝君が推測したように、私達の一族は、そういう意味で
 弱い種族ゆえに、特殊な《能力》を顕現化させたんだろうねぇ

 桜の体調異変や、藤夜の様子から………推察や憶測だけで………
 そこまで、私達真族の生態を見破るとは、侮れないね

 しかし、今更ながら、自分達専用に病院を建てておけば良かったと思うよ
 いや、本当に……そうできたなら…良かったんだけどねぇ………

 残念ながら、激動のあの時期、人間達に紛れて生活していたのは
 我々真族だけでは無かったからねぇ………

 一族に、そういう才能を持つ者が居なかったわけではないけど
 医師になるには、それ相応の時間、人間達と暮らさなければならない

 仮に、医師としての知識と技術を習得しても、その対価として
 病院に一定期間拘束されるのは、好ましくなかったから………

 なぜなら、あのおぞましい悪鬼…〔バンパイア〕達も、また
 人間達に紛れて暮らしていたから………

 あやつらか巣食う場所は、人間が溜まりやすいところが多かった

 今はほとんど排除されたようだが、一時期、病院などといったら
 あやつら〔バンパイア〕達のかっこうの繁殖場だったからな

 患者という名の獲物が、向こうから大口を開いた口腔に、自分から
 飛び込んでくるようなモノだっただろうからね

 その中で自分の嗜好にあった、運の無い者だけをむさぼり喰らっていたから
 なかなかその実態が発覚するコトは無かったからね

 










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