上 下
389 / 446
第8章 親密な関係になりたい

388★藤夜を私室に運んだ蒼夜は、過去を思い出す*side蓬莱家の蒼夜*

しおりを挟む

 視力を失っている藤夜には見えないモノだが、成人男性である蒼夜にはちょっと見た目にてきに、受け付けないモノだった。

 料理長が一生懸命に考えて藤夜の為に作ってくれたお粥だが………
 ちょっとこれは、私てきに味見もしたいと思えないモノだね

 ただ、長く食事らしい食事をしてないな、藤夜の胃は、この辺からか
 少し可哀想だが、ちゃんと消化できるか不安だものね

 「藤夜、野菜と鶏肉のお粥が来たよ
  今の藤夜は、正気に戻ったばかりで、自力で食べるの大変だろうから
  今日は、私が食べさせてあげるね」

 そう言って、蒼夜は藤夜の口へと、柔らかく煮込まれた野菜と鶏肉入りで、ちゃんとダシを程よく使ったお粥を、無理のないペースで運ぶのだった。

 紅夜が言ったように、和輝の《光珠》のお陰で、空腹を感じていなかっただけで、食べ始めてしまえば、飢渇感に促されて、藤夜は蒼夜の介助によって、あっという間に野菜と鶏肉のお粥を平らげた。

 小さな1人用土鍋で丁寧に作られていたので、ちゃんと食べきった藤夜だった。
 本来なら、おやつ程度にしかならない量なのだが、胃が小さくなってしまっている藤夜には、それでも十分に満腹感を感じる量だった。

 藤夜が、運ばれてきた野菜と鶏肉のお粥を食べ終わった頃、紅夜は白夜に【記憶】を観せ終わっていた。

 藤夜が紅夜の【記憶】を覗き観た時は、期間が長かった為、いくら時間を凝縮させて観ても、けっこうな時間が必要だったが、白夜に観せたのは1日分なので、わりとすぐに口付けを解いた。

 「理解わかった……ありがとう、紅夜…その…ご苦労だったな
  全部、バレているかも知れない状況で、よく耐えたな

  しかし……本当に、和輝君は豪胆だな……その友人達もな
  身体能力もさることながら、思考の方も常人離れしているな」

 白夜の発言に、紅夜の【記憶】に興味津々だった蒼夜は、藤夜が紅夜に観せてもらったモノを観せてもらおうと思い、食事介助の時から肩を抱いたままだった藤夜を振り返る。

 食事を終えてひと休憩に入っていたはずの藤夜は、流石に、紅夜の【記憶】を覗き観たコトによる疲労と、胃に身体の栄養となるモノが入ったコトで、既に夢の住人と化していた。

 「ああ、残念…紅夜の労力を減らそうと思って、藤夜に【記憶】を
  観せてもらおうと思っていたのに……でも…まぁ…しょうがないか

  何と言っても、藤夜は、目覚めたてで、正気を失っていた期間分の
  紅夜の【記憶】を、一気に観たんだから、疲れて当然だしね

  取り敢えず、藤夜は私の部屋に寝かせて来るから、そしたら私にも
  紅夜の【記憶】を観せて欲しいな」

 そう言って、蒼夜は眠ってしまった藤夜を抱き上げて、私室へと向かった。
 蒼夜は、やっと正気を取り戻した藤夜を大事に抱え、自分の私室へと運ぶ。

 こういう時、ちょっと大きな屋敷は不便だって思うんだよね
 やたらと部屋数あってさ……兄弟姉妹の部屋が、結構、遠いんだよね

 普段は、そんなに感じないけど、こういう時にソレを感じる
 しかし、紅夜はどんなモノを観せたのかな?

 本当に、和輝君とその妹達と幼馴染みと友人達?って、不思議だよね
 監視カメラで見ていた内容を考えると、本当に、彼らとの付き合いの
 距離感を考えないといけないようだし………

 桜は随分とやらかしているようだし、藤夜だって、かなり不味いコトした
 なのに、ああいう会話が何でもないようにできるんだから………

 紅夜の【記憶】を観たコトと、ものすごくしばらくぶりの食事による満足感から、深い眠りへと落ちている藤夜を見下ろし、蒼夜は無意識の微笑みを浮かべる。

 なんにしても、本当に、正気にもどってくれて嬉しいよ、藤夜
 私が、綿密な計画を立てて、何度挑戦しても、狂気の中から
 救いあげるコトができなかったお前を、正気に戻してくれた

 腕の中で、スースーと安らかな表情で眠りの園の住人と化した藤夜を、自分のベッドへと、ソッと降ろす。
 蒼夜は、顔を隠すように垂れ落ちる藤夜の少ない前髪を、ソッと搔き上げる。

 薄暗い場所では、そこまで目立たない程度には、治癒した火傷の痕跡が残る藤夜の頬を、蒼夜は愛し気に撫でて呟く。

 「……藤夜……こんなに酷い火傷の傷跡が残ってしまって……可哀想に…
  でも…本当に、良かった」

 知的で物静かな腹違いの弟・藤夜の久しくない穏やかな寝顔に、蒼夜は涙を滲ませる。

 本当に、桜は《天運》というモノに恵まれた子だねぇ……
 あの時期、一族の結束というモノは、まるで五月雨さみだれのように、乱れていた

 まだ、父上が生きていて、藤夜の目が見えていた、あの頃
 普段おとなしい白夜が、珍しく長老達と言い争いをしていた

 後から、長老達に聞いても、何を言い争っていたかは
 結局、教えてもらえなかったけど

 その直後、深く激怒した白夜は、そのまま、ふっつりと行方を
 くらましてしまったんだよねぇ………

 あれは、人間の時間にして、20年ぐらいだったかなぁ?
 以来、綺麗さっぱりと、音信不通を通してくれて………

 それでも、白夜が隠れ里から出奔した直後は、口さがなく言っていたっけ

 『一族の隠れ里以外で、暮らしたコトのない若君が
  外でなど暮らせるはずはない』 

 『あの【狩る者】達の気配を感じて、慌てて帰って来るわ』

 でも、そういうお気楽な声をよそに、行方を絶った白夜が消えて
 1年が経ち2年が経ち

 『なに、そのうち隠れ里に帰って来る』

 そう言って高をくくっていた長老達が、何も手を出さないでいるうちに
 各地に微かに残された白夜の足跡を追えなくなってしまったんだよねぇ


 










しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

あやかし民宿『うらおもて』 ~怪奇現象おもてなし~

木川のん気
キャラ文芸
第8回キャラ文芸大賞応募中です。 ブックマーク・投票をよろしくお願いします! 【あらすじ】 大学生・みちるの周りでは頻繁に物がなくなる。 心配した彼氏・凛介によって紹介されたのは、凛介のバイト先である『うらおもて』という小さな民宿だった。気は進まないながらも相談に向かうと、店の女主人はみちるにこう言った。 「それは〝あやかし〟の仕業だよ」  怪奇現象を鎮めるためにおもてなしをしてもらったみちるは、その対価として店でアルバイトをすることになる。けれど店に訪れる客はごく稀に……というにはいささか多すぎる頻度で怪奇現象を引き起こすのだった――?

髪を切った俺が芸能界デビューした結果がコチラです。

昼寝部
キャラ文芸
 妹の策略で『読者モデル』の表紙を飾った主人公が、昔諦めた夢を叶えるため、髪を切って芸能界で頑張るお話。

毒小町、宮中にめぐり逢ふ

鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。 生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。 しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

後宮の裏絵師〜しんねりの美術師〜

逢汲彼方
キャラ文芸
【女絵師×理系官吏が、後宮に隠された謎を解く!】  姫棋(キキ)は、小さな頃から絵師になることを夢みてきた。彼女は絵さえ描けるなら、たとえ後宮だろうと地獄だろうとどこへだって行くし、友人も恋人もいらないと、ずっとそう思って生きてきた。  だが人生とは、まったくもって何が起こるか分からないものである。  夏后国の後宮へ来たことで、姫棋の運命は百八十度変わってしまったのだった。

鳳凰の舞う後宮

烏龍緑茶
キャラ文芸
後宮で毎年行われる伝統の儀式「鳳凰の舞」。それは、妃たちが舞の技を競い、唯一無二の「鳳凰妃」の称号を勝ち取る華やかな戦い。選ばれた者は帝の寵愛を得るだけでなく、後宮での絶対的な地位を手に入れる。 平民出身ながら舞の才能に恵まれた少女・紗羅は、ある理由から後宮に足を踏み入れる。身分差や陰謀渦巻く中で、自らの力を信じ、厳しい修練に挑む彼女の前に、冷酷な妃たちや想像を超える試練が立ちはだかる。 美と権力が交錯する後宮の中で、紗羅の舞が導く未来とは――?希望と成長、そして愛を描いた、華麗なる成り上がりの物語がいま始まる。

処理中です...