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第8章 親密な関係になりたい

383★父上の子らしい少年を見付けたんだけど*side蓬莱家*

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 当時のコトを思い出し、怒りを再燃させる白夜に、蒼夜は首を振る。

 「それは、しょうがないコトだったんだよ、白夜
  父上が藤夜と共に【狩る者】達に襲われて、焼死した時

  既に完全な純血の君が、一番不安定な幼少期を脱していたんだから
  長老達は、真族を存続させる為に、より若い力を望んだんだよ」

 穏やかな口調でそう言う蒼夜に、はらわたが煮え繰り返りがおさまらない白夜は、低く唸るように言う。

 「くっ……ただ、母君の血統に……その過去に、普通の人間から
  我々真族の仲間にした者が、入って居るからという理由だけで

  どうして、強い《能力》を有する蒼夜兄さんが、一族の長にも
  蓬莱家の当主にもなれないんです

  まったく、あの者達は、言うに事欠いて………
  これが、一族に加えてもいない普通の人間の女性の腹から生まれた

  藤夜兄さんや、深夜兄さんなら、その発言も、忌々しいですが
  しかたがないと、黙殺しましょう

  だが、注ぎ込まれた真血が合わずに、目覚めることも叶わぬまま
  眠るように逝ってしまうかも知れないキケンを顧みず

  すべてを知ってなお、一族に溶け込む為に、血の儀式を受け同化した
  蒼夜兄さんの御祖母様の勇気を顧みず、ないがしろにしおって………

  確かに、御祖母様は同化者かも知れないですが、母君のは完全に
  一族の者なのに、父親は、私と同じなのに……なのに……

  なぜ、あやつらは、蒼夜兄さんをないがしろにするのかっ
  父親は一緒だし、真族の《能力》だって私と同等以上にあるのに……」

 当時、白夜が一族の長と蓬莱家の当主になる時の長老達の無神経な発言の数々を思い出して怒る白夜に、蒼夜は苦笑いを深める。

 「私は、一族に加えた者とはいえ、もとが人間の血が混じっているからね
  真族の純血至上主義の長老達は、そこが気に入らないんだよ

  たぶんだけど、自分達の血統の女性ではなく、人間の血が混じった母が
  父上に選ばれて、私という子供を残したのが、気に入らないんだよ

  そう、どうして、自分達の血筋の者が種馬な父上に選ばれないってね
  たぶんに『種を撒くなら、一族内にしてくれれば良いものを』って
  思っているからだろうね」

 しかたがないコトなんだよと、蒼夜のどこか悟ったような口調での答えに、白夜は承服しかねるという口調で言う。

 「なぜ、あのような者達の言葉に左右されねばならないのだ
  蓬莱家のコトを、私達兄弟姉妹で決めて、何が悪いというのだ

  それに、私は確かに純血だが…………」

 白夜が自分を卑下するように、その身の内に抱える問題に唇を噛み締める。
 蒼夜は、白夜の悩みの原因を理解りかいしているだけに、優しい口調で宥める。

 「それが、真族の宗主・蓬莱家の当主所以ゆえんだろう、白夜
  それだけ、君の真血は濃いんだよ
  たとえ、それが白夜を思い悩ませるモノだとしてもね」

 白夜は、蒼夜の言葉に、ちょっと拗ねたような瞳で見詰めて言う。

 「蒼夜兄上ぇ」

 普段、兄さん呼びなのに、拗ねているいるコトを表すように、兄上に変わっている白夜に、肩を竦める。

 私もね、小さい頃はなんで、自分がないがしろにされるか理解わからなかった
 けどね、成人してしまえば、そういうこだわりも理解わからなくはないんだよ

 ああそうだ…色々とあり過ぎて、報告するのを忘れていたよ
 くすくす………これで、白夜の気持ちが浮上してくれたら良いのだがね

 目は口ほどにモノを言う、という言葉まさにピッタリくる白夜の陰鬱に陰る瞳を穏やかに見つめ返しながら言う。

 「私達の父上は一族の中で最も色濃い純血ゆえに、ああいう特質というか
  ………とにかく、か弱い者を見付けると、見境なく抱え込んでしまって
  後先考えずに、愛でる性格をしていただろう

  そして、それは白夜、君にも言えるコトだと思うよ
  そんなところが、種馬の父上と一番似ているなんて
  白夜は認めたくないだろうけどね………クスクス

  桜の姉、お前のつがいだった桃は、見るからにか弱かった
  だから、庇護欲にかられた、違うかい?白夜

  もっとも、白夜は後先考えずに見境なく抱え込む父上と違って
  たったひとり切りだったけどね

  そこは、長老達もあてが外れたと思っただろうね
  桃と桜を連れて戻って来た白夜を見て、か弱そうな一族の女性を
  いそいそと集めていたけど、君は見向きもしなかったもんね

  まぁ……か弱そうとは言っても、昔お嬢さんが多かったけど
  同時期に隠れ里に戻って来た父上の食指も動かなかったみたいだしね

  ………っと、そうそう、その種馬な父上が残した子じゃないかと思う
  少年を、ここに来る、本当にちょっと前に発見したんだよ、白夜

  帰宅してから、何か忘れていると思ったら、それだったよ」

 直前まで、自分に流れている真血が持つ特質に思い悩んでいた白夜も、蒼夜のその一言にヒクッとする。

 「えっ……手本当ですか?蒼夜兄さん……はぁ~………
  やっぱり、まだ、兄弟が居たか………

  少年と言いましたから、弟ですよね……その子の年齢は?
  なんという名前なんですか?…現在の所在地は?」

 直前までの沈鬱さは何処へやら、白夜は父親の後始末の為に、矢継ぎ早に質問するのだった。












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