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第7章 儀式という夢の後

357★幸運の女神様は、前髪しか無いんだから………

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 時を少し戻して…………。

 紅夜が爺やに呼ばれたのを境に、和輝達はにぎやかなお茶会…もとい、浄化と再生の儀式の成功プチパーティーをお開きにして、のほほんとゲストハウスへと向かうコトにした。

 まるで、売られて行く子牛のような、哀愁漂う後ろ姿の紅夜を笑いながら見送った後、自分達も、和輝が貸与されている平屋へと何事もなく移動していた。

 そして、貸与されているゲストハウスの玄関のドアの鍵を開けながら、和輝は今日何度目かわからない首傾げをする。

 うん?……なんか…こう忘れているような気が………あっ……着替えかよ
 はぁ~もう…今日、何度目だよ……大きなミスしてねぇ~から良いけどさ

 ドアを開けてながらの微妙な和輝の様子に、竜也が敏感に気付く。

 「どうかしたのかい、和輝?………家の中に何か…………」

 警戒感を含んだ竜也の一言に、その場に居た全員に緊張感が走る。
 が、和輝は、ひとつ溜め息を吐いて、竜也の言葉をあっさりと否定する。

 「うんにゃ…なんかこう忘れているとコトあるなぁ~と思っててさぁ…
  ここに来て、それが何か気付いたんだわ………ごめん、驚かせて……」

 振り返って言う和輝に、乙姫が首を傾げる。

 「それでぇ…和輝君は、何を忘れたの?」

 相変わらずなおっとりの口調に、なんとなくなごみながら、肩を竦めて言う。

 「ああ、俺達全員のお泊り用の着替えさ
  ほら、自称『聖剣の騎士団』とかほざいている狂信者集団

  あいつらが、車の後に付いて来て、蓬莱家の敷地内に乱入して来たんで
  各々武器を手に、車から降りただろう」

 和輝の発言で、自分達が、その時、手にしていたのが、武器だけだったコトを思い出す。

 竜姫が、その時のコトを思い出して、ああという表情で頷く。

 「そうよねぇ~…あいつらが、アイシ達が乗っている車に付いて来て
  敷地ン中に侵入して来るのが判明した段階で、荷物そっちのけで
  全員が、武器を手にしていたわね」

 その時の状況を思い出し、全員が竜姫の言葉にコクコクと頷く。
 和輝は、肩を竦めて、竜姫の言葉の後に続ける。

 「だろ……あいつらの襲撃を撃退した直後に、啓太と水鳥が来ただろう」

 自分の言葉に全員が頷くのを確認し、和輝は続ける。

 「そん時、警察官に質問されたらヤバイってコトで
  乙姫と輝虎に、ペットハウスに先行してもらって
  俺達が使った武器を隠してもらったろう」

 和輝の説明に、輝虎が応じる。

 「ああ、俺達がみんなの武器を持って、先にペットハウスに入った
  その後、和輝達が来て………」

 輝虎の追想の言葉に、乙姫が『あっ』という顔をする。

 「そう言えば、和輝君に頼まれて、あのお店で買い込んだスポーツ飲料を
  桜ちゃん達が居るペットハウスに運んできたよねぇ……」

 和輝は乙姫に頷きながら、肩を竦めて言う。

 「そういうコト、俺があん時に頼んだのは、飲みかけのモノと一緒に
  箱買いした未開封のスポーツ飲料を、ペットハウスに運んでくれ

  であって、他の荷物のコトは頼んでないんだ
  つーことで、俺達の着替えは、あの車に積み込まれたままってコトだ」

 何で和輝が玄関で立ち止まったかを理解りかいした彼らは、ちょっと苦笑いを浮かべる。

 まずそういう意味で、ちょっと無神経な竜也が反省の入った言葉をポロッと口にする。

 「あははは……ちょっと、はしゃぎ過ぎちゃったかな?」

 そんな竜也に、後悔とはある意味で無縁の竜姫が、開き直ってケロッと言う。

 「そんなのしょ~がないんじゃない
  だって、あいつらに仕返しする千載一遇の機会だったんだからさぁ~

  そんな幸運、逃す手は無いでしょう………ねぇ~知っている?
  幸運の女神様ってぇ~のは、前髪しかないらしいのよ

  目の前にソレが来たら、何が何でも掴むに決まっているじゃない
  今思い出しても、どうしようもなくムカつくわ


  あいつらは、8年前、まだ子供だったアタシ達を、情け容赦なく
  凶悪な武器を持って、ガンガンに追い回したんだから………

  そんなやつらが、のこのこと姿を現わして来たんだからね
  これはもう、復讐するチャンスでしょ…幸運の女神がくれたチャンスよ

  8年前は身体が子供だったから、なんとか撃退するのが精一杯だった
  ほんとにもう滅茶苦茶に、悔しかったんだから

  アタシは、絶対に、あいつらを許さないってこころに決めたのよ
  もし、どこかで出会う機会があったら………

  今度は、アタシが情け容赦無く、あいつらを叩きのめしてやるって
  深く深く誓っていたのよ………何時か、かならずって………」

 握ったコブシを振り上げて、そう言う竜姫に、和輝は軽く肩を竦めて別のコトを言う。

 「あの後、啓太と水鳥を送る話しをしていたら………ちょうど、竜姫から
  成田空港に、車を出して欲しいコールが、親父さんから入ったつーんで

  啓太の要望をくんで別の車を使ったからさぁ………
  んで、竜姫の親父さんを成田空港に送り届けたんだよな

  で、行った先で紅夜と〈カオス〉を拾って帰って来たら、今度は
  あいつら、狂信者集団に襲われて、自分が〔バンパイア〕だと

  そう刷り込まれた、藤夜さんに襲われちまっただろう
  お陰で、変な認識の定着かる前にって、それこそ大急ぎで

  浄化と再生の儀式へと雪崩れ込んじまっただろうが
  お陰で、着替えの存在なんて、すっかり忘れていたぜ」











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