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第7章 儀式という夢の後
356★百聞は一見に如かず……かもしれないけどね*side蓬莱家*
しおりを挟むはぁ~…いや…正気に戻ったばかりの藤夜兄上の気持ちは痛いほど理解る
いや…うん…理解るけど、今までのコトをどうやって説明する?
いっくら、あの【狩る者】達のセイで、正気を無くしていったってさ
自分を〔バンパイア〕だと思い込んでいたっては、言えないよなぁ~
流石に、藤夜兄上に、あの忌まわしくもおぞましい〔バンパイア〕と
変わらないコトを、和輝にしちまったって言えないし…うぅ~困った
父上が焼死した時から、結構色々とあるんだよなぁ~………
はぁ~……まっ…悩んでもなぁ~んも始まらないか
いいや、こうなったらありのままを藤夜兄上に視せられるならば
観せちゃえばイイんだよな………嘘偽りの無い事実を
確かに、藤夜兄上は、視力を失っているけど、他人…この場合俺だけど
そう、俺が見たモノなら、観れるはずだしな
そういえば、藤夜兄上は、【記憶】を覗き込む技法習得てしるのかな?
まっ…それも、答えしだいかなぁ………
習得しているなら、面倒くさいから、そのまま観せちまえばイイや
いずれバレるよりも、ありのままを知っている方がイイよな
その方が、藤夜兄上も気が楽だろうしな
だいたい、俺、嘘とか吐くの苦手だし………ごめんな藤夜兄上
即答しない自分に、困惑しているようすの藤夜を前に、紅夜は聞いてみる。
「藤夜兄上は【記憶】を覗き観る技法を習得してますか?」
紅夜からの問いに、藤夜は見えない瞳をパチパチさせながら、頷く。
クスッ………なんか唐突だねぇ……でも、やっぱり紅夜だね
嘘や微妙な言い回しが苦手で、実直で直情的だもんね
しかし【記憶】を覗き込む技法ねぇ~………
随分前にだが………習ったし、一応覚えてはいるけどね
「ああ、習得しているから、できるよ……」
藤夜からの習得しているという答えに、全部が面倒くさくなった紅夜は、座っていたソファーから立ち上が。
「でしたら、直接、俺の【記憶】を観てください
下手な説明を何度も聞くよりも、その方がイイと思います
今までのすべての経緯が、誤解も曲解もなく、そのまま観れますから
ただし、俺の認識が強く反映されますコトを忘れないでくださいね」
そう言って、藤夜の前にまで移動し、紅夜は躊躇うコトなく、藤夜の手を取り、2人で座っても余裕のあるソファーへと誘導して座らせる。
そして、その隣りに座った紅夜は、藤夜の肩に腕を回し、抱き寄せるようにして言う。
「………って、コトで、藤夜兄上、ちゃんと【記憶】を観てもらう為に
失礼しますね」
そう言って、片腕で藤夜の肩を抱き込み、反対の手で藤夜の頬に手をかけ、口付けた時の角度を合わせる。
勿論、自分の【記憶】を観せる時に、藤夜の【記憶】を視る技法の術がとけないように、藤夜の顎を固定し、紅夜はそのまま深く口付ける。
それが、一番手っ取り早く【記憶】を覗き観る手法ゆえに………。
肉体的な接触がある方が、より鮮明に【記憶】を観るコトができるのだ。
それも、粘膜と粘膜が直接触れ合うような行為ほど、良く観るコトができるのだ。
勿論、その行為の度合によっては、その【記憶】を観られる方の感情が、意識を追想するコトも可能だったりする。
そして、紅夜が桜から和輝の情報を得る為に、恋人としてのお楽しみしながら、桜の視線を通して観た【記憶】のセイで、和輝への認識が、甘くなっているのは、そういう訳でもあった。
ようするに、桜の主観での【記憶】に引き摺られて、和輝への認識が緩くなり、警戒心が薄くなっているコトに、紅夜本人は気付いていなかったりする。
また、それ故に、紅夜の【記憶】を観るというコトは、その主観に同調する為、紅夜同様、認識が甘くなるのは、誰も知らない事実だったりする。
それはさておき、紅夜の唐突な行動に、藤夜を隣りにいままで座らせていた蒼夜は、何とも言えない複雑な表情で、首を傾げて言う。
「ふむ…いきなりソレかい…なにが何だか良くわからないが……どうやら
紅夜は、藤夜と話し合うコト自体が面倒くさくなってしまったようだね
いやはや、本当に、紅夜は直情的な子だねぇ…そう思わないかい白夜」
蒼夜の言葉に、白夜も紅夜が本邸に呼び出されるまで『どうして、何がどうなった?』という、質問攻めにあっていたので、微妙な表情で答える。
「………ふっ……紅夜のそれを見て……こころから、思いましたよ
私も、手っ取り早く、【記憶】を観せるをやって、藤夜兄さんに
納得してもらえば良かったって、しみじみ思ってます
確かに、千の言葉を尽くすよりも、よほど【記憶】を観てもらった方が
早くて、正確ですからね」
白夜同様、藤夜にどう説明しようかと悩んでいた蒼夜もしみじみと頷く。
「確かにね、百聞は一見にしかずって言うからねぇ~………」
そうぽつりと言ってから、お互い、不毛な兄弟の口付けから視線を外す。
いくら、それが【記憶】を鮮明に観せる方法とは言え、見ていて面白いモノではないので、互いに肩を竦めるコトしか出来なかった。
白夜は、長兄である蒼夜に向かって、思い切り溜め息を吐いて言う。
「本当は、彼らに対する、これからの対処と、今回の報酬の話しとかを
するはずだったんですけどねぇ~………はぁ~………
まさか、藤夜兄さんのこだわりと説明に対して、紅夜が【記憶】を
観せる方法を選ぶとは思いませんでしたよ」
「う~ん…そうだねぇ~……しかし、藤夜が正気を無くした頃あたりの
過去から【記憶】を観せるとなると……結構時間がかかるだろうねぇ」
「ですね………それまで、彼らのコトでも観察していましょうか?」
「そうだね…どうせ、紅夜と藤夜のほうはしばらくかかるだろうからね」
蒼夜は、白夜の言葉に同意してから、微妙な表情で、紅夜の【記憶】を藤夜が覗き観る間、今、一番興味の対象となっている、和輝達が映る大画面へと視線を滑らせた。
そこには、何気ない日常の構図とは裏腹に、異様な会話が何でもないコトのように語られていたのだった。
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