357 / 446
第7章 儀式という夢の後
356★百聞は一見に如かず……かもしれないけどね*side蓬莱家*
しおりを挟むはぁ~…いや…正気に戻ったばかりの藤夜兄上の気持ちは痛いほど理解る
いや…うん…理解るけど、今までのコトをどうやって説明する?
いっくら、あの【狩る者】達のセイで、正気を無くしていったってさ
自分を〔バンパイア〕だと思い込んでいたっては、言えないよなぁ~
流石に、藤夜兄上に、あの忌まわしくもおぞましい〔バンパイア〕と
変わらないコトを、和輝にしちまったって言えないし…うぅ~困った
父上が焼死した時から、結構色々とあるんだよなぁ~………
はぁ~……まっ…悩んでもなぁ~んも始まらないか
いいや、こうなったらありのままを藤夜兄上に視せられるならば
観せちゃえばイイんだよな………嘘偽りの無い事実を
確かに、藤夜兄上は、視力を失っているけど、他人…この場合俺だけど
そう、俺が見たモノなら、観れるはずだしな
そういえば、藤夜兄上は、【記憶】を覗き込む技法習得てしるのかな?
まっ…それも、答えしだいかなぁ………
習得しているなら、面倒くさいから、そのまま観せちまえばイイや
いずれバレるよりも、ありのままを知っている方がイイよな
その方が、藤夜兄上も気が楽だろうしな
だいたい、俺、嘘とか吐くの苦手だし………ごめんな藤夜兄上
即答しない自分に、困惑しているようすの藤夜を前に、紅夜は聞いてみる。
「藤夜兄上は【記憶】を覗き観る技法を習得してますか?」
紅夜からの問いに、藤夜は見えない瞳をパチパチさせながら、頷く。
クスッ………なんか唐突だねぇ……でも、やっぱり紅夜だね
嘘や微妙な言い回しが苦手で、実直で直情的だもんね
しかし【記憶】を覗き込む技法ねぇ~………
随分前にだが………習ったし、一応覚えてはいるけどね
「ああ、習得しているから、できるよ……」
藤夜からの習得しているという答えに、全部が面倒くさくなった紅夜は、座っていたソファーから立ち上が。
「でしたら、直接、俺の【記憶】を観てください
下手な説明を何度も聞くよりも、その方がイイと思います
今までのすべての経緯が、誤解も曲解もなく、そのまま観れますから
ただし、俺の認識が強く反映されますコトを忘れないでくださいね」
そう言って、藤夜の前にまで移動し、紅夜は躊躇うコトなく、藤夜の手を取り、2人で座っても余裕のあるソファーへと誘導して座らせる。
そして、その隣りに座った紅夜は、藤夜の肩に腕を回し、抱き寄せるようにして言う。
「………って、コトで、藤夜兄上、ちゃんと【記憶】を観てもらう為に
失礼しますね」
そう言って、片腕で藤夜の肩を抱き込み、反対の手で藤夜の頬に手をかけ、口付けた時の角度を合わせる。
勿論、自分の【記憶】を観せる時に、藤夜の【記憶】を視る技法の術がとけないように、藤夜の顎を固定し、紅夜はそのまま深く口付ける。
それが、一番手っ取り早く【記憶】を覗き観る手法ゆえに………。
肉体的な接触がある方が、より鮮明に【記憶】を観るコトができるのだ。
それも、粘膜と粘膜が直接触れ合うような行為ほど、良く観るコトができるのだ。
勿論、その行為の度合によっては、その【記憶】を観られる方の感情が、意識を追想するコトも可能だったりする。
そして、紅夜が桜から和輝の情報を得る為に、恋人としてのお楽しみしながら、桜の視線を通して観た【記憶】のセイで、和輝への認識が、甘くなっているのは、そういう訳でもあった。
ようするに、桜の主観での【記憶】に引き摺られて、和輝への認識が緩くなり、警戒心が薄くなっているコトに、紅夜本人は気付いていなかったりする。
また、それ故に、紅夜の【記憶】を観るというコトは、その主観に同調する為、紅夜同様、認識が甘くなるのは、誰も知らない事実だったりする。
それはさておき、紅夜の唐突な行動に、藤夜を隣りにいままで座らせていた蒼夜は、何とも言えない複雑な表情で、首を傾げて言う。
「ふむ…いきなりソレかい…なにが何だか良くわからないが……どうやら
紅夜は、藤夜と話し合うコト自体が面倒くさくなってしまったようだね
いやはや、本当に、紅夜は直情的な子だねぇ…そう思わないかい白夜」
蒼夜の言葉に、白夜も紅夜が本邸に呼び出されるまで『どうして、何がどうなった?』という、質問攻めにあっていたので、微妙な表情で答える。
「………ふっ……紅夜のそれを見て……こころから、思いましたよ
私も、手っ取り早く、【記憶】を観せるをやって、藤夜兄さんに
納得してもらえば良かったって、しみじみ思ってます
確かに、千の言葉を尽くすよりも、よほど【記憶】を観てもらった方が
早くて、正確ですからね」
白夜同様、藤夜にどう説明しようかと悩んでいた蒼夜もしみじみと頷く。
「確かにね、百聞は一見にしかずって言うからねぇ~………」
そうぽつりと言ってから、お互い、不毛な兄弟の口付けから視線を外す。
いくら、それが【記憶】を鮮明に観せる方法とは言え、見ていて面白いモノではないので、互いに肩を竦めるコトしか出来なかった。
白夜は、長兄である蒼夜に向かって、思い切り溜め息を吐いて言う。
「本当は、彼らに対する、これからの対処と、今回の報酬の話しとかを
するはずだったんですけどねぇ~………はぁ~………
まさか、藤夜兄さんのこだわりと説明に対して、紅夜が【記憶】を
観せる方法を選ぶとは思いませんでしたよ」
「う~ん…そうだねぇ~……しかし、藤夜が正気を無くした頃あたりの
過去から【記憶】を観せるとなると……結構時間がかかるだろうねぇ」
「ですね………それまで、彼らのコトでも観察していましょうか?」
「そうだね…どうせ、紅夜と藤夜のほうはしばらくかかるだろうからね」
蒼夜は、白夜の言葉に同意してから、微妙な表情で、紅夜の【記憶】を藤夜が覗き観る間、今、一番興味の対象となっている、和輝達が映る大画面へと視線を滑らせた。
そこには、何気ない日常の構図とは裏腹に、異様な会話が何でもないコトのように語られていたのだった。
10
お気に入りに追加
371
あなたにおすすめの小説
小児科医、姪を引き取ることになりました。
sao miyui
キャラ文芸
おひさまこどもクリニックで働く小児科医の深沢太陽はある日事故死してしまった妹夫婦の小学1年生の娘日菜を引き取る事になった。
慣れない子育てだけど必死に向き合う太陽となかなか心を開こうとしない日菜の毎日の奮闘を描いたハートフルストーリー。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
(完結)王家の血筋の令嬢は路上で孤児のように倒れる
青空一夏
恋愛
父親が亡くなってから実の母と妹に虐げられてきた主人公。冬の雪が舞い落ちる日に、仕事を探してこいと言われて当てもなく歩き回るうちに路上に倒れてしまう。そこから、はじめる意外な展開。
ハッピーエンド。ショートショートなので、あまり入り組んでいない設定です。ご都合主義。
Hotランキング21位(10/28 60,362pt 12:18時点)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる