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第7章 儀式という夢の後

355★藤夜は、知る権利を紅夜に主張する*side蓬莱家*

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 ……ああ、叱責受けそう叱責どころか、確実に、雷……落ちるな
 それも、確実に大轟音付きの二重奏で落ちそうだよなぁ……はぁ~……

  でも、自分の保身の為に、嘘なんて付きたくないしなぁ
 だからって、和輝のアレな発言を黙っているのも、心苦しいし

 なに、大丈夫だ…白夜兄上は和輝のコトをめっきり気に入っているから
 それに、まだまだ、桜の変化には必要な人間だから……たぶん、平気

 こころの中での決着をつけた紅夜は、覚悟を決めて、3人の兄達に向かって言う。

 「ああ………そのコトなんだけどさぁ……怒らないでくれよ」

 珍しく前置きの長い紅夜に、蒼夜が不審そうな表情になる。

 「どうかしたのかい?…何時も、率直にモノを言う紅夜が…らしくないね
  彼らに、何かあったのかい?」

 問われても、言葉で説明しづらいと判断した紅夜は、ちょっとだけ躊躇ためらいがちに言う。

 「蒼夜兄上、白夜兄上、藤夜兄上………その…和輝達について………
  なんつーか…すげぇー…言葉では言い表しにくいから……その……

  俺の中の【記憶】を覗いてくれるか?
  ……その方が…たぶんイイからさ……

  特に和輝のコトは、なんて説明したらイイか……
  ぶっちゃけ、ものすごぉ~く言葉にしづらいんだよ

  だから、その言動とか行動とか……それに不随する反応とかを
  俺の目を通したモンだけど、直接観て欲しいんだ」

 紅夜からの言葉に、蒼夜と白夜はお互いの顔を見合わせる。
 藤夜は藤夜で、紅夜の言葉に難しい表情を浮かべていた。

 なぜなら、本来【記憶】を覗き込むという行為は、隠し事をする者の深層心理と、隠し事を暴く為にある技法なので、通常はあまり使われないモノだったりする。

 どちらかというと、一族に対する背信行為を暴く為にもちいられる技法だけに、3人の兄達は首を傾げていた。

 それを敢えて自分から望む紅夜に、2人はその真意を読みかねて、眉を顰める。

 藤夜は藤夜で、なんで紅夜がそんなコトを言い出したかの基本となる近日の情報が無い為、ちょっと考えていた。

 さて、なんで紅夜は、そんなコトを言いだしたのかな?
 【記憶】を観て欲しいなどと………なにか、不味いコトがあったのか?

 いやいや、それよりも私には、今の状況が全く読めない。
 当主を務める白夜は、私の問いをさりげなくはぐらかす

 蒼夜兄さんも、なんかこうモノが挟まったような微妙に答えしかくれない
 だいたい、なんで白夜が一族の長と蓬莱家の当主の双方を務めているんだ

 私は、白夜がなぜそうなったかすら知らない
 蒼夜兄さんや白夜、紅夜の言葉から、正気を失っていたコトは理解したが

 はぁ~…一族のすべてを背負うことになった白夜が不憫だな
 同時に、長兄でありながら、ないがしろにされた蒼夜兄さんも不遇だ

 なぜ、どうして、そんなコトになったんだ?
 まずは、そこから知らないとならないな

 ………いや、私でも、だいたいの想像は付くな
 きっと、あの役立たずの長老達が原因だろうな

 邪推しなくても、ちょっと考えれば、おのずと答えは出てくる
 たぶんに、長と当主を務める決定打になったのは、真血の純度だろう

 だが、蒼夜兄さんと白夜の差など無きに等しいと言うのに………
 私が正気を失っている間に、いったいどれだけのコトがあったのだろう

 だいたい、父上が焼死したコトだって、今の桜の声で知ったんだから……
 たぶん、いや間違いなく、私の身体が不自由になっのはソレが原因だろう

 私自身は見れないが、全身に火傷があるようだし、視力も失っている
 蒼夜兄さんも白夜も、なぜか、私にありのままを教えてくれない

 確かに、屋敷にあの【狩る者】達が現れたのは一大事だけど………
 このまま、真相を聞くタイミングを逃したら……たら………

 きっと、なし崩しに、あれ以上は何も教えてもらえなくなりそうだな
 だったら、一番そういうコトが苦手な紅夜に聞いてやる

 紅夜は、上手く言葉でごまかすなんてこと出来ない子だからね
 わたしは、これ以上、蒼夜兄さんの足手まといになりたくない

 まして、当主を務めるコトになつてしまった白夜の足を引っ張りたくない
 それでなくとも、つい先刻まで、正気を失っていたらしいのだから……

 これ以上、兄弟姉妹に多大な心配など掛けたくない
 だからこそ、ここは出来るだけ詳しく今までのコトを知りたい、切実に

 私のコトで、長老達に色々と蒼夜兄さんや白夜が難癖付けられないように

 今を逃したら後が無いコトを感じた藤夜は、思い切って話しに割り込むコトにした。

 「紅夜、蒼夜兄さんと白夜に【記憶】を見せる前に、知っておきたいんだ
  一応、自分の目が見えないコトと、身体の不自由な理由は説明された

  だが、それまでの経緯が全然理解わからないんだが………
  こう…もう少し詳しく説明して欲しいんだけど…ダメかな?

  【狩る者】達に父上がと共に襲われた身としては、知っておきたいんだ
  あの【狩る者】達が屋敷に現れて、今が厳しい状態にあるのは判る

  それでも、何も知らないままというのは、私としてもキツイんだ
  お前が知っているコトを教えてくれないか?紅夜」

 切実にそういう藤夜に、紅夜は一瞬だけ【記憶】を観せる覚悟が揺らぐ。
 つい先刻、藤夜が一族の危機になるようにコトをしでかしただけに、それを観せていいものかと、思い悩んでしまう。














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