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第7章 儀式という夢の後

352★白夜は情報を共有する*side蓬莱家*

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 白夜の話しに、蒼夜は眉を顰めて言う。

 「ほぉ~……それは、私でも初耳だねぇ……
  あのおぞましい〔バンパイア〕のコトは、できうる限り詳細に
  調べたつもりだったのに………

  今回の南米取材の話しも、大丈夫だろうと思って
  『良いんじゃない』って言ってしまった………

  はぁ~…やつ等は、あんな場所にまで、繁殖しているのか
  【狩る者】達の行動範囲外だったから、居ないと思ったのに………」

 自分の判断ミスで、危うく一族の長であり、年の離れた弟の白夜を危ない目に合わせるところだったコトを知り、蒼夜はズゥーンと落ち込む。

 その心情を表すように、形の良い唇を口惜しそうに、無意識に噛み締める。
 そんな蒼夜に、紅夜が溜め息混じりに言う。

 「今回の、白夜兄上が取材旅行に行った、南米に関して
  蒼夜兄上が知らなかったのは、仕方が無いコトかと思います

  和輝達が持つ〔バンパイア〕や〔グール〕などを含む
  異種族に関した情報網は、俺達とまるっきり別系統のようですから
  そう、落ち込まないでください

  基本的に、俺達の持つ〔バンパイア〕や【狩る者】達に関する情報は
  結局、一族の者達が集めた情報を分析したモノが主流です

  行かないところの情報は、必然的に手薄になってしまうのは
  仕様が無いコトだと思いますよ、蒼夜兄上」

 紅夜なりの慰めの入った言葉に、蒼夜は肩を竦める。
 その言葉の通り、仕様が無いコトだとは理解わかっていても、長兄としての自分が許せないのだ。

 本当に、紅夜は優しい子だねぇ~……はぁ~………
 私としては、痛恨のミスだけど、そうそう落ち込んでもいられないね

 「うん、ありがとう、紅夜……しかし『神』か
  いやいや、本当に〔バンパイア〕共は侮れないねぇ~……

  過去に、そんなコトまでしていたとはねぇ………
  繁殖地になっていそうな場所は、全部チェックしたつもりだったけど

  これは、大丈夫と判断したところも、もう一度、洗い直しだね
  そういう、生け贄を好んだ『神』がいた場所も、要確認だね

  〔バンパイア〕共は、我々真族をかっこうの獲物とみているふしがある
  用心に越したコトはないね」

 気を引き締める蒼夜に、紅夜は余計なコトかもと思いつつ、付け足す。

 「危険な場所まで踏み込めないし、未確認地域が多い、我々が持つ情報と
  和輝達が持つ情報の精度の差は埋めようがないかと思われます

  どうも、和輝達の話しぶりからして、何度もああいう類と遭遇して
  なおかつ、生き残ってきたようですので、あちらの情報の方が

  正確なモノがあるのは仕方がないかもしれませんね
  それに、和輝達は、話しを聞くタイミングさえ良ければ

  結構簡単に、ああいうやつらの情報を、色々と教えてくれそうなので
  臨機応変に、対応するのが良いかと………」

 珍しく口数の多い紅夜に、蒼夜はにっこりと笑う。
 普段は、一族内の相談事に関して、兄弟姉妹で集まっても、口を開かずに、ただ黙って聞くだけに近い紅夜が、積極的に口を出しているコトに、蒼夜は兄として喜びを感じる。

 クスクス………紅夜も、ちょっと見ない間に成長したねぇ~………
 それもこれも、桜への愛ゆえかな?

 「そうだね…臨機応変な対応は、大事なコトだね、紅夜
  それで、白夜は、どんなコトを聞いたんだい?」

 紅夜に頷いた蒼夜は、白夜を振り返って聞く。
 蒼夜の反応に、白夜も肩を竦めながら、中断した話しを続ける。

 「そのコトなんですが、かなり年経た者達が集まった場所らしくて

  和輝達に言わせると、あのおぞましい〔バンパイア〕共が、自分達を
  『神』と信奉する人々を操り、争わせる遊びに凝った場所だそうです

  ようするに、その遊びを長く楽しむの為だけに、人口を増やして
  豊かさや繁栄というモノを人々に与えていたようです

  はてには、自分達を『神』と崇めない近隣の普通の集落の人間達を
  『神』を崇めない邪なる者達だと言って、襲わせていたようです

  これは、その遺跡のある現地に入る為に必要な食料を買い込む時
  ちょうど、バザールへ向かう途中の先住民の末裔と言う者に聞きました

  その話しの内容が、ちょっと……なるほどというモノでして

  血に飢えた『邪神』を、その地に封じ込めて、近隣の集落を襲う
  邪悪なやから達を追い払った、『良き神々』が居たと………

  そして、和輝からも『良き神々』と呼ばれる種族が、そやつらを
  そこから追い払ったという伝説があると聞きました

  それで、和輝は、私が『良き神々』の末と、邪教徒に間違えられる
  可能性があるから、即刻引き返せという忠告をしてくれました

  正確には、桜に、そう言って、私へと連絡させたようです」

 白夜の言葉に、蒼夜は心底嫌そうに眉を顰めて言う。

 「なるほどねぇ………それでは、白夜に、その話しを持ち込んだ者も
  〔バンパイア〕との関係を疑わねばならないね

  それにしても、彼……和輝君だっけか……と、その幼馴染み達は
  随分と、あのおぞましい〔バンパイア〕共に詳しいねぇ~……」

 やはり、どこか口惜くやしさの滲んだ蒼夜の声音に、紅夜は嘆息する。

 落ち込んだ蒼夜兄上には、ああ言ったものの、マジで、俺もその話し
 もっと詳しく、詳細を知りてぇ~な………ふーあっ…そうだ
 監視カメラの映像とかに、そのシーンがあるかもぉ~………










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