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第7章 儀式という夢の後

346★そして、紅夜はすべてを爺やに押し付けて逃げて行く*side蓬莱家*

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 ただ、持っている気配が、どう考えても人間のモノだったのだが………
 私の探査能力が鈍くなっているのだろうか?

 そう、私の探査能力落ちたコトによる、認識違いの可能性も捨てられない
 失明するような事故にあったセイか?……それとも……わからないな

 だが、誰よりも用心深い白夜が、人間の前で鏡の通信魔法を使うか?
 ここは、やっぱり、彼らと一緒にいた紅夜に聞くのが一番かな?

 警戒心が高い紅夜が、随分と親しい感じの会話をしていたしな
 紅夜なら、聞けば答えてくれるだろう…嘘の嫌いな子だからな

 「紅夜、一族以外の者が多かったから、黙っていたのだが
  彼らは、どういう存在なんだい?」

 藤夜の質問に、早く桜や和輝達の元へと行きたい紅夜は、端的に答える。

 「桜と白夜兄上の〈レイ〉と〈サラ〉のペットシッターとして
  和輝を雇ったんですけど、和輝ってば《気》を結晶化するコトができる

  稀有な存在だったんですよ
  その上で【狩る者】達を撃退できる《力》を持っているんだ

  一応、人並外れているけど、桜と一緒に消えたやつらは、全員人間だぜ
  詳しい話しは後で………爺や、風呂の準備は?」

 紅夜の問いかけに、儀式後には、藤夜を風呂に入れる必要があるから、用意するようにと事前に言われていたので、爺やは落ち着いた口調で答える。

 「はい、既に何時でも入れるように、用意しております」

 答えた爺やに頷きながらも、注意する。

 「そうか……だったら、早く藤夜兄上を風呂に入れてくれ
  この薄い衣装では、身体が冷えてしまうからな
  
  いくら、和輝の常人よりも《生気》が満ち溢れた鮮血を
  その首筋から、直接啜って摂取していたとしても
  それに、輝虎の血液を更に輸血していたとしても

  長くちゃんとした食事を摂っていない藤夜兄上の身体は弱っている
  さっさと風呂に入れて、身体を温まらせて、ゆっくりと休ませてくれ
  できるなら、食事も少しで良いから摂らせてくれな

  今はまだ、和輝が作った《光珠》の結晶体を大量に吸収したばかりで
  あまり寒さを感じていないようだけど、身体が衰弱しているコトに
  かわりないんだからさ

  ああコレ、藤夜兄上の身体に塗ったヤツの解除液な
  全身隈なく塗ってあるそうだから、あと、食塩水も塗ってあるから

  まず、頭の先からつま先まで食塩水を丁寧に洗い流してから
  身体を充分に温めた後に、解除液を隈なく塗布とてくれってさ

  解除液塗ったら、10分ぐらいおく必要があるらしいから
  あと……その性器周辺とか耳の根本から指の付け根なんかも
  充分に塗り忘れないように気を付けてくれってさ」

 そう言って、紅夜は爺やに、和輝から手渡された解除液を手渡す。

 これで、俺が藤夜兄上の身体に解除液を塗らなくて済むな…ホッとするぜ
 後は、藤夜兄上の質問をはぐらかして、さっさと桜達のところに行こう

 などと、紅夜が考えているとは知らない藤夜は、何がどうなっているかを聞こうと口を開く。

 「紅夜、説明を………」

 そう言いかけた藤夜に対して、紅夜は無情に答える。

 「藤夜兄上、詳しい説明は、爺やに聞いてください
  さっき言ったでしょう、少々特殊ですが、和輝達は人間です

  俺は、桜がこれ以上、和輝達に不味いコトを言わないように
  監視する必要があるので、ペットハウスに戻ります

  後は頼むぞ爺や、直ぐに蒼夜兄上と白夜兄上が来るはずだ
  あとは、兄上達の指示にしたがってくれ……じゃ…頼むな…」

 そう言って、紅夜は藤夜の世話を爺やに押し付けると、桜の居るペットハウスへと逃げて行った。

 そんな紅夜の後ろ姿を、藤夜と爺やがぼう然と見送っていたところに、鏡の通信魔法を解除した白夜と蒼夜がやって来た。

 紅夜とのやり取りを知らない蒼夜は、藤夜が正気に戻った嬉しさを滲ませて声を掛ける。

 「藤夜、久しぶりだね」

 馴染みのある長兄・蒼夜の優しい口調にホッとしながら、藤夜は首を傾げて聞く。

 「蒼夜兄さん、ここは、何処なんですか?」

 藤夜からの質問に、蒼夜は優しく落ち着いた口調で、今現在の場所を教える。

 「おやおや、紅夜はそんなコトも藤夜に教えていかなかったのかい?
  ここは、私達の屋敷の庭だよ…夏になると良く水浴びした泉の側だよ」

 蒼夜の言葉で、ようやく自分の居場所を知った藤夜は、更に首を傾げる。

 「ああ、あそこですか?…でも、なぜ、私が、こんな場所に?
  なんか訳のわからない衣装を着て、ここに居るんでしょうか?」

 そう質問してくる藤夜の身体を心配した白夜が、取り敢えず、本邸に戻るコトを提案する。

 「久しぶりですね、藤夜兄さん…疑問は多々とありましょうが
  ひとまずは、本邸に戻りましょうか………その…色々とあったので

  それに、流石に、こんなところで話せる内容ではないのですよ
  ああ爺や、ここの後片付けをし終わったらでイイから紅夜を呼んでくれ

  彼らに対する、今回の報酬を考えなければならないからな
  ペットハウスに逃げた紅夜を、本邸に引き摺って来てくれ……」












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