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第6章 浄化の儀式
317★やっと難行苦行がおわった
しおりを挟む作った濃厚食塩水を片手に、台所から処置を受けている藤夜が眠る部屋に戻った和輝は、深く溜息を吐く。
室内に戻れば、ちょうど俯せにして背面を塗っているところだった。
もう一度、同じ作業が待っているというコトで、和輝は自分の気力を奮い立たせる為に、あえて言葉に出して言う。
「はぁ~あ…食塩水も塗るぞぉ~…ちょうど俯せだから背面からな」
そんな言葉に、竜也と輝虎がげんなりとした表情で和輝を振り返る。
「そんなイヤそうな顔すんなよ…コレも仕事と思えばなんとかなるだろ」
和輝の言葉に、金をとるコトに難色をしめした輝虎がぼやく。
「はぁ~…たしかに、コレもアルバイトの一種だな
なんか、しっかりと、報酬が欲しいと思ったぞ」
輝虎の言葉に、竜也もついついコクコクと頷いてしまう。
「まっ…輝虎くんでも、そう思うよねぇ~…ボクもそうしみじみ思ったよ
はぁ~…和輝ぃ~…紅夜さんにも、手伝わせるってすれば良かったね」
竜也のもっともな意見に、和輝は苦笑して首を振る。
「俺も、一応、それを考えたんだけどなぁ~……紅夜の性格考えると
もっと、グズグスと文句を言われて時間がかかりそうだって思ったんだ
だから、あえて、紅夜を今回の作業に呼ぶのをやめたんだよ
紅夜を呼んだ分だけ、絶対に余分に時間がかかるの間違いなしだからな
そうすっと、桜が好奇心だして『私も手伝いたい』って言う可能性がな
そしたら、俺達の作業の邪魔ンなるんじゃないかと思ってやめたんだ」
明確に、和輝から紅夜を呼ばなかった理由を聞かされた竜也は、ガックリと肩を落とす。
もれなく、高確率で桜まで付いて来るかもと言われて納得する。
「そっかぁ~……彼女も居たんだっけ………」
肩を落とした竜也を見て、輝虎は黙々と和輝が作って来た食塩水を塗る。
藤夜の背面を塗り終え、ひょいっとひっくり返して、前面にも丁寧に食塩水を塗る。
藤夜の全身にくまなく濃厚な食塩水を塗り終え、竜也が解放感から溜め息混じりに言う。
「はぁ~……終わったぁ~………」
が、そんな竜也に、和輝は首を振って無情に言う。
その言葉に、竜也と同じ感情を持った輝虎が、思わず声を漏らす。
「えっ?」
疑問符つきの声に、和輝はひとつ溜め息を吐いて言う。
「はぁ~…まぁそう言いたい気持ちは理解るけどなぁ~………
まだ、あと、脱がせた着物モドキを着せつける必要があるだろ
あと、下着もな……履かせないわけにいかないからな」
和輝に言われて、竜也は、まだ藤夜が全裸なままであるコトを思い出す。
「あっ…そっか……」
竜也の言葉に、輝虎も納得と頷き、脱がせた時と同様、藤夜の身体をひょいっと持ち上げる。
その間に、下に引いていた厚地で大判のバスタオルをよけて、浴衣のそでに腕を通す。
藤夜の両腕にそでが通ったところで、抱き上げていた輝虎はソッとベッドに降ろす。
ベッドに降ろされた藤夜に下着を身に着けさせ、浴衣の前を合わせて、きつくならないように軽めに腰紐でおさえる。
「はぁ~…今度こそ…終わったな」
輝虎の言葉に、和輝はコクッと頷き、今の作業でげんなりしている竜也を元気づける為に声を掛ける。
「そんじゃ…ここでやるコトは終わったから、ゲストハウスに帰るか
竜也、これで衣装作ってイイんだそ」
和輝からの言葉に、力無く顔を上げた竜也は、疲れたような表情で答える。
「………そう……だね……」
そんな竜也に、和輝は言葉を重ねる。
「ああ…お前が帰って来るのを、乙姫と優奈が…今か今かと待っているぞ
ゲストハウスに戻ったら、軽くお茶をして打ち合わせしようぜ
できるだけ、進行の予定を決めて動いた方がイイからな」
和輝の゜言葉に、ひとつふかぁ~い深呼吸をした竜也が、顔を上げる。
「そうだね、あの程度で落ち込んでいる暇は無かったんだよね
ボク達には、まだ、やるコトはいっぱいあるんだった
和輝は、少し休憩したら《光珠》作りもあるだろうし
ボクは、みんなの衣装作りがある
輝虎くんは、藤夜さんへの輸血の為に血液を注射器で2本抜いたから
ちゃんと休憩をとってね、大振りの注射器で抜いたんだから………
この後、浄化の儀式もあるコトだし、何か栄養補給した方がイイね
いくら若くて頑健な身体でも、過信は良くないからね
ゲストハウスに帰ったら、ちゃんと休むこと
大事なコトだから繰り返すけど、本当に休息とってね」
「ああ、わかった……ちゃんと休むよ」
そんな2人に、クスッと笑った和輝は、はめた手術用手袋を外していた。
それを見た竜也と輝虎も、作業は終わったんだからと、いそいそと手術用手袋を外す。
「竜也、この手袋は回収か?」
「うん、コレっウチの病院で使っているヤツだからね
外で捨てるわけにいかないんだ………ってコトでコレに入れて」
と言って、回収用の特殊なビニール袋の口を広げて差し出す。
その中には、既に竜也が使っていた手術用手袋が入っていた。
輝虎と和輝も、いそいそとそのビニール袋に入れる。
それを注射器などを入れて来た箱にしまい、蓋をしめる。
「さて、今度こそ、ゲストハウスに戻ろうか………」
「だな」
「ああ」
そうして、やっと難行苦行が終わったという顔で、3人は藤夜の眠る部屋から出て行くのだった。
当然、部屋から出る直前に、和輝は藤夜に施した、感覚を消して身動きできないようにしたソレは解除していったのは言うまでないコトだった。
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