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第6章 浄化の儀式

302★輸血しようというコトになりました、提供者は輝虎で

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 そんな風に和輝が答えるソコに、ちょっと考える仕草で止まっていた乙姫が、何かを思いついたような表情で、のほほんと言う。

 「あのさぁ~…その藤夜さんて人、お腹空いている上に、貧血だから
  和輝くんに見境なく噛みついちゃったって可能性は無いかなぁ~?

  なんかのマンガで、そんな感じの読んだコトあるよぉ~………
  確か…『血が足りない』って叫びながら、女の子がガルガルしてて

  獣…ううん…まさに餓えた野獣のように、男の人に襲い掛かってぇ~
  ガンガン噛みついているんだよぉ~……インパクトあったよぉ~

  それを思い出して思ったの…貧血解消されればイイんじゃないって
  それでぇ~…輸血してみるっていう方法はどうかなぁ?」

 乙姫の言葉に、なるほどと竜姫も頷いて言う。

 「なるほどね、乙姫……藤夜さんの身体が貧血状態の回復を求めて
  他人の血液を欲しているんならば、与えちゃえばイイってコトね

  確かに、輸血をするね………貧血解消の手っ取り早い解決方法ね
  それも、ひとつの手では有るわね」

 「うん、輸血で貧血状態が回復すれば、もう誰彼構わずガルガルして
  齧らないんじゃないかな?」

 そのやり取りを黙って聞いていた和輝は、竜也へと視線を送る。
 視線を受けた竜也が、和輝に頷き返してから言う。

 「んじゃ…乙姫の提案通りに、藤夜さんに輸血をしてみっか?」

 和輝の言葉に、竜也はクスッと笑って、過去の出来事を思い出しつつ更に提案を乗せる。

 「それなら和輝、その時に催眠術でも掛けてみるのはどうかな?
  確か、音と匂いでも、催眠暗示を入れるコト出来たよね

  えぇーと藤夜さんでイイんだっけか、彼、視力を失っているようだし
  肌も、あの重度のケロイドだから、皮膚感覚も微妙だと思うんだよね

  その分、野生の獣以上に、周囲の気配に敏感だろうから………
  さっき診た感じ、匂は判るみたいだし…たぶん嗅覚は犬並じゃないかな
 
  五感が潰されると敏感になる……彼は嗅覚に特化していそうだったよ」

 ちなみに、竜也同様、過去に同じコトを経験している竜姫もあっさりと賛成する。

 「それってイイかもね…思い出すわぁ~親父達に連れ回された時のコト
  随分前にも、どこぞの村でそういう騒ぎがあった時に、やったよね

  あん時より楽じゃない?…強烈な暗示に掛かっている人数は少ないし
  てか、藤夜さんひとりだけだし…音と匂いで十分にかかるんじゃない」

 和輝を襲い、その首筋に齧り付いて血を啜るという藤夜の暴挙で、紅夜と桜は、自分達の正体がバレて、ここでの生活が危うくなるのではないかと、ドキドキしながら、今の生活を失うコトに怯えていた。

 なのに、自分達の目の前では、藤夜の暴挙の原因とそれを解消する為の話しが、夜食の中で淡々と、何でもないコトのように話し合われていた。

 桜と紅夜は、和輝達の話しの断片的に、こういうトラブルに慣れているコトらしいとは理解しつつも、ほんの少し前にあった藤夜の襲撃をものともしないコトに驚いていた。

 そんな桜や紅夜の気持ちと心配をよそに、その手のトラブルに慣れている和輝達にはどうと言うコトでもないので、何時もと変わらない口調で、クルッと桜と紅夜を振り返って聞く。

 「ふむ、それは確かに試してみる価値は十分にあるよな………
  貧血解消に十分な輸血をして、音と匂いで強烈な暗示を更に掛ける

  ………つーコトで、桜、紅夜、どっちでもイイから答えてくれ
  藤夜さんて、血液型は何かな?俺達が提供できる型かな?」

 和輝の質問に、そこは女の子、占いや血液型が好きな桜が、自分達の心配は無いコトに気付いて、ケロケロと笑って答える。

 「藤夜兄ぃ様なら…確か、A型のはずですわ……前に聞きましたもの
  誰か提供できる方は身近な方でいまして?」

 桜は、和輝が元は街医者の息子で、友人の竜也は大きな病院の医院長の息子であるコトを思い出しながら言ったのだが………。
 そこは、和輝達である。

 いちいち、病院になど行って輸血の手続きなどするはずもなく………。

 「あっじゃぁ~…俺が……」

 という和輝を無視して、輝虎が軽く左手を顔わきに上げて言う。

 「では、俺が提供しよう……俺はA型だ………和輝は駄目だ
  既にかなりの量の血液を失っているだろう、なぁー竜也」

 話しを振られた竜也は、あっさりと肯定する。

 「そうだね…それでは、藤夜さんへの輸血提供は輝虎くんってコトで…
  和輝は催眠暗示に集中してもらおう……和輝の方が上手いからね」

 竜也の言葉に、和輝は肩を竦めて頷く。

 「了解………輝虎、悪いけど頼むわ………俺は催眠術に集中するよ
  つーコトで、もう少し落ち着いたら、まず輸血を試してみるか?」

 和輝の言葉に、竜也はにっこりと笑って言う。

 「そうだね……ってコトで、心身を癒してくれる食後の甘いデザートを
  食べてから動き出そうか………」

 「「「「「賛成」」」」」

 桜、竜姫、乙姫、優奈、真奈という女性陣達の嬉しそうな声で、デザートタイムは始まるのだった。
 和輝達男性陣は、その嬉しそうな姿を苦笑しながら、藤夜の為の治療?の為に必要な集中力を上げる為に、同じようにデザートを食べるのだった。

 







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