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第5章 一難去っても、また一難

287★和輝は連絡待ちの間、推察を語る

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 和輝の質問に、少し迷ってから、紅夜は首を振る。

 「いや、実は、好きとか嫌いとかの問題じゃねぇ~んだわ
  藤夜(とうや)兄貴は、親父と一緒に車で焼死っつーのは免れたけど

  失明した上に、正気も失っちまっているんだよ
  だから、俺や桜も認識できねーんだ

  その上で、あの狂信者達に取り囲まれて、執拗に攻撃されながら
  さんざん〔バンパイア〕だって吹き込まれたセイでな

  藤夜(とうや)兄貴は、自分は人の生き血を啜って生きる化け物
  〔バンパイヤ〕だって思い込んじまったんだ

  だから、表になんて出せる状態じゃねぇ~から、本邸の座敷牢に居る 
  そうしないと、使用人にすら襲い掛かっちまうから………

  藤夜(とうや)兄貴は、生涯あの座敷牢から出られねぇ~だろうな
  あいつらのセイで………人としての意識を失っちまったから………」

 そんな紅夜の言葉に、和輝は狂信者集団を完全に始末出来なかったコトを後悔する。

 あいつ等、いったいどれだけの人間の人生を狂わせてんだよっ!
 もし次に、あいつ等と遭遇したら、ぜってーに許さねぇー!

 ………にしても、失明しているうえに、正気を失っているのかぁ
 それも、自分が〔バンパイア〕だって思い込んじまってる状態でかよ

 そりゃ~あいつ等が現われたって聞いてたら、紅夜も気が重いだろうなぁ

 紅夜の言葉に出来ない心情を察し、意味不明な行動の理由に、和輝は納得する。

 「あいつ等は、狂信者なだけあって、神託とか重視しているんだろうな
  たぶん、あまり霊能力とかを重視してねぇ~んだろうな

  普通、少しでも霊能力があるんなら、判るもんなんだけどなぁー 
  あの蓬莱邸の敷地内が、神域と同じ様に清浄な場を形成しているのをさ

  あいつ等は、そんなコトすら判らなかったみたいだけどな
  だいたい、紅夜や桜が、あの〔バンパイア〕だっつーんならよぉ~

  思いっきり生臭く臭うっつーの………あの魚の腐ったような悪臭……
  紅夜達には、たぶん理解(わか)らない感覚かもしんねーけど

  俺達は、何故か理解(わか)らないけど、異種族と呼ばれるモノ
  俗に人食い人種って呼ばれる〔バンパイア〕や〔グール〕って

  世間様で呼ばれている食人鬼達を、そういう風に感じるんだ
  とにかく、生臭い………息どころか、存在自体が臭いんで
  同じ空間に居ると、その存在は直ぐに判るんだよ

  紅夜や桜は、どっちかって言うと、神祇系の流れを汲む………
  う~ん、なんて言ったら良いかな? 精霊や妖精に近い存在かな?
  そんな風に、感じるんだよな

  警戒心と霊能力の強い竜也や竜姫も桜のコト気に入っているしな
  乙姫も輝虎も、かなり好意的だから………聖側なんだよな

  桜の話しを聞いて、推測したんだけどなぁ………
  環境が過酷な場所に住む人間って、かならずと言って良いほど
  なんらかの身体的能力が特出するんだよ

  桜の場合は、身体の再生能力や生命力が、普通の人間より強いって
  カタチで特殊能力が現われている

  ただし、桜は酷くバランスが悪い、まだ成長過程のセイだろうなぁ
  治癒能力と持っている生命力のバランスが微妙なんだよな
  
  紅夜達の一族………え~と、たしか真族とか言うんだったっけか? 
  って、生命力が強い、古代人の因子が強く残っているんだろうな

  だから、あいつ等、狂信者達に誤解されるんだぜ
  今の新人類達が遺伝子的に劣化して失った能力だからな」

 和輝にそう言われて、紅夜は内心で脂汗をダラダラと流していた。

 さぁ~くぅ~らぁ~…そんなところまで、和輝に喋っちまってるのかよぉ
 ひとつ間違ったら、俺達は化け物扱いされちまうんだぞ……はぁ~……

 自分の発言に、混乱と困惑を起こして、何も言えない状態になってしまった紅夜に気付くコト無く、和輝は〈カオス〉に手を伸ばして、その頭を優しく撫でてやる。












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