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第3章 蓬莱家で住み込みのお仕事

196★心労が無いコトは良いコトだけど‥‥‥

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 ボルゾイ2頭の散歩を軽く済ませた和輝は、なんだかんだで汗をかいたので、汗染みが浮かんで濡れた感触のあるジャージを着替えるコトにした。
 借りた家のバスルームへとさっさと入り、シャワーを軽く浴びて、新しいモノに着替える。
 もうその時には、散歩中に感じた得体の知れない視線のコトは、綺麗さっぱりと、シャワーで流された汗のように、和輝の記憶から消去されていたりする。
 あとで、あの時に、面倒くさがらずに、もう少しきちんと考えておけば良かったと思うコトになるのだが、今の和輝にはさほど重要な案件という認識は無く、そのまま忘却の彼方へと捨て去られたのは確かな事実だった。

 「はぁ~‥すっきりしたぁ~‥‥‥
  やっぱり、軽い運動をして
  良い汗をそこそこかいた後の
  シャワーってイイよなぁ~‥‥

  ここだと、水道料金や電気量を考えて
  節水とかを気にしないでイイし‥‥‥」

 そう和輝は無意識に呟く。
 父親が死んだコトに伴い、個人病院には不釣合いな医療器材のレンタルが、何時の間にか『買取りになっていますよ』と言われて、発生している高額な買取り料金の請求という圧迫感から、節約がここしばらくで身に付いてしまったコトに気付かず、無意識の開放感にホッとした表情で、しばらくぶりの朝シャンを済ませ、髪を梳き上げながら鏡を見る。

 「うん、顔色も悪くない‥‥‥
  というか、最近の疲労感から
  解放されたおかげかな?

  ここしばらくの顔色に比べて
  かなりイイな

  やっぱり大型犬‥‥‥それも
  超高級犬のボルゾイを連れて

  公然と、お散歩できるのは
  メッチャ癒されるよなぁ‥‥‥

  それを、楽しみにしていた
  優奈や真奈には、わりぃーが

  桜のコトもあるし‥‥‥」

 ちょっと双子の妹達に後ろめたさはあるものの、まだそういう超常現象に理解力が追いつかないだろうコトを考慮しての処置というコトで、和輝は自分を誤魔化す。
 そして、はふっと嘆息して呟く。

 「あっ‥と、洗濯セットしとくか‥‥‥」

 散歩で汗染みが浮かんでいるジャージを洗濯機へと放り込み、乾燥までセットする。

 心配しなければならない者(妹達)を、信用の出来る者に預けてあるので、気に掛かる者達が側に居ない為、和輝の心労は激減していた。
 そのコトもあって、和輝は軽い足取りでするべきコトをさっさと済ませられた。

 そうしてから、2頭を待機させている部屋に戻り、声を掛ける。

 「ヨシヨシ、いい子だったなぁ
  〈レイ〉〈サラ〉んじゃ
  ペットハウスに戻るか‥‥‥

  スタンダップ‥カムオンッ
  〈レイ〉〈サラ〉
  ハウスにゴー‥‥‥」

 そう言って、和輝は2頭の引き綱を手に、借りた家を出て、ペットハウスへと向かう。




***************************
 



 〈レイ〉と〈サラ〉を連れてペットハウスに戻った和輝は、2頭の首輪や引き綱を外して、軽くクシで長毛を梳いて、温水を含ませて軽く絞ったタオルで身体を何度か拭く。
 もちろんマッサージも兼ねているので、足回りは特に重点的に拭い、その後に仕上げとして乾いたタオルが軽く拭き、クシでもう一度梳いてから、頭を撫でてソファーで待機を命令する。
 〈レイ〉も〈サラ〉も、この後、和輝お手製のご飯がもらえるコトが理解(わか)っているので、いそいそとお気に入りのソファーへと座る。
 そして伏せの状態で、お尻尾を無意識で優雅にファサァ~ファサァ~と振っていたりする。

 和輝はそんなおすまししているが、内心がだだ漏れのお尻尾にクスクスと笑って、用意しておいた牛肉を軽く焼いて、醤油と砂糖でうっすらと味付けする。

 「クスクス‥‥‥そう言えば‥‥‥
  昨夜は、桜にダメって言われて

  卵焼きを、ほんの少ししか
  食べられなかったなぁ‥‥‥」

 その和輝の呟きに、昨夜の卵焼きの味を思い出した〈レイ〉と〈サラ〉は、おねだりに甘ったれを混ぜた感じで、鼻を鳴らす。

 そう、ピィースピィースと、お尻尾を盛大に揺らしながら‥‥‥。

 「わかったわかった
  んじゃ、卵焼きも付けてやるよ」

 そう言って、和輝はルンルンでチーズと牛乳入りの、ふんわり卵焼きを作り上げる。
 そして、炊き上がっているご飯を大きなボウルへと入れて、ボイルしたキャベツやニンジンにサツマイモを刻みいれる。
 そこに野菜の煮汁の半量を掛けて、切るように混ぜる。
 全部入れてしまうと、食器にご飯を盛る時に大変なので、残りは最後に掛けるのだ。

 良く混ぜ合わせてから、2頭の食器にご飯を盛る。
 もちろん、雄でガタイの良い〈レイ〉の方が多めである。
 それを〈サラ〉はちょっと恨めしそうに見ていたりするが、和輝は気にしなかった。
 ガタイに差があるので、同量にすると〈レイ〉が可哀想なので‥‥‥。

 そして、ご飯を盛った後には残りの野菜の煮汁をぶっ掛ける。
 煮汁には野菜の栄養素がかなり逃げているので‥‥‥。
 すっかり節約癖の付いた和輝は、栄養素が入った野菜汁さえも、そのまま捨てるのはもったいないと思ってしまうのだ。
 
 その後に焼いた牛肉を、やはり〈レイ〉の方に多めに乗せる。

 くぅぅぅ~ん

 その辺になると‥‥流石に〈サラ〉が情けなさそうに鳴く。
 和輝は、そんな〈サラ〉にくすっと笑ってしまう。

 「仕方が無いだろう〈サラ〉

  雄の〈レイ〉とは
  ガタイの差があるんだから

  つっても可哀想だからなぁ‥‥」

 そう言って、和輝はふんわり卵焼きだけは〈サラ〉の方に、やや多くのせてやる。
 ソレを見て、少しだけ〈レイ〉がつまらなそうな表情を浮かべるが、鳴いて抗議するコトは無かった。
 総じて、自分のご飯の分量が多いと理解しているからである。

 「よし出来た‥‥‥おまたせ
 〈レイ〉はこっちな
  んで〈サラ〉はこっち

  カムオンッ‥‥‥」

 呼ばれた2頭は、指示されたご飯の器の前に座って和輝の許可を待つ。
 和輝は、飲み水も新しいモノをそれぞれ用意してやり、食べる許可を出した。
 前日と違って、今日は落ち着いて味わって食べているのを確認し、和輝はクスッと笑いを浮かべて、自分達の朝食とお弁当の為のモノを作り始めるのだった。 








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