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0153★忌み子
しおりを挟む蛾宵(がよい)の言葉に、邪闇(じゃみ)は嗤う。
「ああ あやつの《魔石》には魅力を感じない
我に従うならそれで良い
なに〈契約の子〉に植え込む《魔石》は
あの引き裂いた飛龍族の男から抉り取ったモノと
母体の《魔石》を植え込めばよかろう
両親の《魔石》だ 反発は少なかろう
蛾宵(がよい) 母体の《魔石》は
あの女に宿った〈契約の子〉が充分に育ち
腹を裂いて取り出す直前に抉り出せ」
「はい 邪闇(じゃみ)様 では
あの女の《魔石》の確認を致します」
そう言って、蛾宵(がよい)は邪闇(じゃみ)から離れ、いまだに異形の男達に《精》を注がれているロン・パルディーアの元へと向かう。
蒼珠は、何も出来ない焦燥感にさいなまれながら、どうにか朱螺とラオスの《魔石》を手に入れられないかを一生懸命に考えていた。
そんな中、ロン・パルディーアと途切れていた感覚の1つが唐突に繋がる。
〔えっ? うわっ……なに? これっ……〕
蒼珠の中に流れ込んで来たモノは、ロン・パルディーアの思考と感情だった。
それは、父親に封印された、哀しく残酷な記憶だった。
自由な恋愛と結婚は、ロン・パルディーアに許された権利だった。
それを、自分の父親に奪われたのだ。
心底愛していた男が、自分の目の前で父親に叩き切られ、その体内にある《魔石》を抉り取られる映像が脳裏に流れる。
蒼珠は、それがロン・パルディーアの記憶であると判った。
その激しい感情とともに…………。
〔私の本当に愛しい男(ひと)は
彼(ロン・ウルグーリア)では無かった
あぁ…そうだ…私の目の前で絶命した
お父様の手によって…殺された
そして、半狂乱になった私に………
彼(ロン・ウルグーリア)を連れてきて
記憶を封印して…暗示を掛けられた……〕
思い出される愛しい男との記憶と、引き裂かれた心に塗り込められた偽りの恋情に、ロン・パルディーアの精神は慟哭し、狂乱に陥る。
同時に、腹に宿った子が、愛しい男の子供から、忌まわしき、穢れた子供へと変わる。
ロン・パルディーアの中で、禍々しいほどの憎悪と拒絶感が膨れ上がった。
その猛烈な拒絶感は、ロン・パルディーアに宿った〈契約の子〉に衝撃をもたらした。
それ(ロン・パルディーアの拒絶)を、感じた蒼珠は、彼女の腹に宿った子供に、憐(あわ)れみを感じた。
〔父親に恋人を殺され、記憶を挿げ替えられて
愛しい男と思っていたのは別人………
心を偽りに塗りつぶされ……出来た子供…
犯されて出来た子となんら変わらない………
朱螺もこんな哀しみを味わったんだろう…
銀鱗を嫌悪されて拒絶を味わって
幼い心が割れて封じられてしまっていた
俺自身、強姦と輪姦の末に出来た子だ
父さん自身にも、どうしようもない
理由があったとは言え………
でも、母さんは俺を愛してくれた
両親や親族に、何度罵られても
宿った生命を愛しんで…産んでくれた……〕
蒼珠は、ロン・パルディーアの気持ちと、腹に宿った子供へのどうしようもない拒絶感を理解しながらも、その腹に宿った生命に、罪は無いと思ってしまう。
なまじ、何度もロン・パルディーアの中に精神だけが堕ち、ラオスとの情交の感覚さえも味わった身としては、腹の子供に情が湧くのはしょうがないことだった。
〔そんなに…いらない子なら…俺にくれっ……
邪闇(じゃみ)と呼ばれる魔族に喰われるのを…
このまま黙って観ているしかないのかっ………
欲しいっ…朱螺の《魔石》とラオスの《魔石》
そして…母親に拒まれた子が…欲しいっ………
彼女の腹に宿った子よ…俺の元へ来いっ……
俺が…お前を愛してやるっ…
母さんが、忌み子の俺を愛してくれたように…
誕生したばかりの命に貴賎も穢れもありはしない〕
蒼珠は、無意識に両手を伸ばして祈っていた。
〔【運命の女神】よ…存在するならば………
どうか…彼女の腹に宿り…厭われた子を…
俺の元に…乞い願わん…あの子に慈悲を……〕
腹の子に情が移っていた蒼珠は、明確な意思を持って祈った。
その眼前では、邪闇(じゃみ)が嗤いながら、ラオスに言い放っていた。
「クッククク…どうだ……目の前にして……
ここが お前達が望んでいた
ロウヤの洞窟の《転移》場だ……ほぉーら……」
そう言う邪闇(じゃみ)の直ぐ側、鍾乳石に縫い止められたラオスから斜めに向かいの、巨大な紫水晶の中央部分が銀色に光り、まるで湖面のように波打っていた。
再び、蒼珠の中に、ロン・パルディーアの強い感情が流れ込んで来る。
自分が愛しいと思う男に、残酷な死をもたらす自分を、このまま殺して欲しい、と。
〈契約の子〉を身籠ったが為(恩寵によって)に、どんなに無残に引き裂かれても再生してしまうだろうことを知っているがゆえに…………。
そんな中、ロン・パルディーアの身体のあちこちが引き裂かれ、8個の《魔石》が抉り出される。
「ああ 喉のは残しておけ この女は
〈契約の子〉を身籠ったからな
その恩寵で 本来の寿命が尽きるまで
何度瀕死の状態になっても再生するからな
勿論 父親のあの男も 虫の息になるまで
引き裂いても 再生が始まっていたからな」
どちらも生かしておいて、嬲りもてあそぶという邪闇(じゃみ)に、ロン・パルディーアから《魔石》を取り出していた蛾宵(がよい)は喉に伸ばしかけていた手を止める。
「わかりました で もう〈契約の子〉を
取り出してもよろしいですか?」
蛾宵(がよい)の問い掛けに、邪闇(じゃみ)は嗤って頷いた。
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