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0082★空白地帯のオアシス
しおりを挟む蒼珠の切なる祈りに微笑みを浮かべた【運命の女神】は、蒼珠の【運命の糸】に繋いだ紫闇色の【運命の糸】に絡める為の、色鮮やかな糸選びに熱中していた。
そして、切実に願った蒼珠が、数々の【運命の糸】をもてあそぶ【運命の女神】の微笑みを受けた、その頃。
朱螺は、黄封砂漠に多数点在するという制約の空白地帯に、再び入っていた。
今度の空白地帯は、前回の空白地帯よりもかなり大きいので、制約に縛られることなく、自由に本来の《魔力》を使える場所だった。
だから、黄封砂漠に潜むサンドワームなどに襲われても、今度はなんの制限もなく《魔力》を思いっきり使えるので、朱螺はなんの心配もしていなかった。
その上で、小さいとはいえ、この空白地帯には、立派なオアシスが存在しているので、人族の蒼珠に食べられるような物が存在している可能性が高かった。
魔獣の毛織物で包まれた蒼珠を砂地の上に降ろし、蒼珠の側に片膝を着いて、顔の部分の魔獣の毛織物を開く。
名による呪縛で、深い眠りの淵に沈んでいる蒼珠の寝顔を、上から覗き込んだ朱螺は、その頬を撫でてから、前髪を梳きあげて、蒼珠の顔色を確認する。
大量出血した為に、いまだ青白さの残る顔色に、朱螺は軽く額に口付ける。
『クスッ‥‥だいぶ顔色も良くなったようだな
私も寂しいし‥‥‥さて そろそろ蒼珠を起こすかな?
ここは 制約の空白地帯の中にあるオアシスだからな
私にとっては《魔力》の使える安全地帯だから‥‥‥
蒼珠を起こしても良いだろう‥‥‥‥』
深い眠りの淵から蒼珠が目覚めた時に、魔獣の毛織物が放つ微量の《魔力》による疲労を少なくしようと‥‥‥‥。
蒼珠の躯を包んでいた、魔獣の毛織物で出来た敷物を完全に広げる。
そして、目覚めの呪文を唱える前の儀式として、蒼珠の唇に口付けをひとつ落としてから、朱螺は眠りの呪縛から解放する為に、蒼珠に呼び掛ける。
『‥‥我 朱螺との《契約》と‥名の呪縛により
深き淵より目を醒まし‥目醒めろ‥せ・い・じゅ‥‥
蒼珠 深き淵より目を醒まし 我に応えよ』
死んだように深い眠りに堕ちていた蒼珠は、朱螺の呼びかけ応えて、あっさりと目覚める。
‥あ‥‥朱螺の側だぁぁ~‥‥俺の躯ぁ‥‥‥‥
朱螺の側に在ったのかぁ‥‥よかったぁ~‥‥‥‥
蒼珠の顔を覗き込んでいた朱螺は、パチッと開かれた蒼珠の双眸が‥‥‥‥自分を認めたことにより‥‥‥‥嬉しそうに細められたことにホッとする。
そして、極自然に嬉しさを現すように微笑う蒼珠に、朱螺は無意識に口元が緩む。
『起きたか? 蒼珠』
朱螺の今の心情を表すように、その呼びかけは甘みを含んで柔らかい。
真上から自分を覗き込み、優しく声を掛けて来る朱螺に、蒼珠はコクッと頷く。
「‥‥朱螺‥‥俺‥どれくらい寝てた?
ここって‥どの辺なんだぁ?」
蒼珠の質問に、少しだけ苦笑した朱螺は、蒼珠が起きるのに手を貸しながら答える。
『ここは サンドワームと遭遇した あの場所から
駆竜種のゾルディの脚で 3日ほど進んだ場所だ
くわしくは、私も説明できない‥‥‥‥
この黄封砂漠は 正確な地図がないからな
この地域を示す 固有の地名も実はわからない
私も 子供の頃に聞いた話しと
古い文献に載っている内容を頼りに
ここまで 手探りで進んで来たのでな』
黙って説明を聞いていた蒼珠は、小首を傾げて聞く。
「ふ~ん、そうなんだ‥‥‥それで‥どれくらい
その話しとか、文献って信用出来るんだ?」
そう言いながら、上半身を敷物の上で起こした蒼珠に、朱螺はなにも隠す必要がないので、自分が知っていることを答える。
『ある程度は 信用出来ると思うぞ
その人は この黄封砂漠に来て
目的を果たした者だからな
その人が 何度か剣を体内から出し入れするのを
この目で見たこともあるんでな‥‥‥‥
ただし その人は この黄封砂漠の奥地の
どこか としかわからないとも言っていた
砂塵にまかれて 偶然たどり着いたみたいだからな
この黄封砂漠に幾つも点在する 制約の空白地帯を
かなりの長期間 あてもなく彷徨(さまよ)ったので
正確な位置は判らないとも 言っていたからな
だが この黄封砂漠の奥地にある
多数ある 制約の空白地帯のどこかに
生体武器を移植する特殊技術を持った
幻と謳われた《地蛇族》が存在しているのは確かだ
あとは ゆっくりと空白地帯を
ひとつひとつ丹念に 探せば良いだけだ』
蒼珠は、朱螺の説明に頷く。
「朱螺本人が、その生体武器とかいうモノを
体内から出すところを、直接見たことがあって
その人物から聞いた話しなら、ある程度は信用出来るな」
蒼珠の言葉に頷きながら、朱螺は《華鱗》のカラに入れた水を差し出す。
『あぁ‥‥‥もうすぐだ ここまで来たら
あとは この一帯の制約の空白地帯を隈無く
探せば良いだけだからな‥‥‥‥
ここまでたどり着くのが 大変なんだ
ほら 喉が渇いてるだろう 蒼珠 水だ』
寝起きの蒼珠に、朱螺は水がなみなみと入った《華鱗》の元はカラを差し出す。
喉の渇きを覚えていた蒼珠は、嬉しそうな表情でお礼を言う。
「‥あ‥‥ありがとう‥朱螺‥‥‥ぅん~‥美味しい」
朱螺の差し出した《華鱗》の器を受け取り、蒼珠はためらうことなく、そのまま全部飲み干した。
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