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第14章 冒険者の始まりの街フォレンへ

211★ソルス・エル・ピーシェを食べてもらいました

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 私が手渡したソルス・エル・ピーシェを、シアは胸元で抱えるようにしながら言う。

 (ソルス・エル・ピーシェって
  確か手に持っているだけでも
  浄化の効果あった筈なんだよね)

 なんて私が思っていると、シアがちょっとおずおずって言う感じで聞いて来る。

 「えっと…ライム…が行った時
  ソルス・ロス・エンダ村の
  お店って、ほぼ全滅状態
  だったんですか?

  私も、あそこのスペシャル
  パフェ食べたかったなぁ………

  そっかぁ…無いのかぁ………」

 (よりリアルに実体験できたけど
  まだ、あの時は味覚とかまでは
  体験できなかったのよねぇ……

  目は楽しめても、舌の方は
  残念ながら楽しめなかったのよね

  だから、正気になって
  前世を思い出した後

  ソルス・ロス・エンダ村に
  向かったんだけどねぇ……
  肩すかしだったなぁ……

 ソルス・ロス・エンダ村に到着した時のガッカリ感を思い出して、ライムは肩を竦めてシアに言う。

 「そうなのよぉ~………
  前世であったような

  大型ショッピングモールが
  郊外に進出して来て

  街中にある老舗のお店が
  次々と潰れちゃったような

  あのシャッター街みたいな
  惨状を見てガックリしたわよ

  冒険者ギルドの職員すら
  居ないんだもの

  宿屋の主人が教えてくれたわ

  んでもって、ちょっと設定を
  不幸少女っぽくしたセイで
  町から追い出されちゃった

  とは言っても、物々交換は
  できたけどね」

 私の言葉に、シアは手の中にあるソルス・エル・ピーシェを無意識に両手で撫でながら、小首を傾げて何事かを考えている。

 (クスッ……きっとシアのことだから
  コレって【黄昏の解放】の

  イベントアイテムの
  ひとつだったなぁ~とか
  考えているんでしょうねぇ~…

  実際は、3個しか持てないって
  縛りなんて無いし………

  というかあそこ、廃《すたれ》れ
  きってたからねぇ………)

 なんて私が思っている視線の先では、シアが無意識に水の魔法を使って、ソルス・エル・ピーシェを軽く洗っていた。

 (シアの本能って凄いわねぇ~
  ってか、イベントの時に
  そういうワンシーンがあったわね

  ただし、ソレって世に言う
  腐女子や貴腐人達が喜ぶ
  BLスチルだったのよねぇ~………

  当時は、そのスチル必要?って
  かなぁ~り思ったわね
  特に、男性体の時は尚更に

  まぁ一定量の需要はあるようだけど

  噂でしか聞いてないけど
  ごく一部のアバターってば

  そういう行為も体感できたって
  いう話しがあったのよねぇ……)

 なんて、私が明後日の方向に思考を飛ばしている間に、シアは一口齧ったソルス・エル・ピーシェをフリードに手渡していた。
 フリードも一口齧ってジオンへと手渡す。
 その間に、最初に一口食べたシアの変化が凄かった。

 内側から魔力が一段と横溢《おういつ》して、肌がもともと透き通るような色だったのに、より艶やかになって、見た目的にもかなりしっとりすべすべな感じになっていた。
 腰まである蒼銀の髪が、ふわりとした青味を帯びた輝きを増して、艶々している。

 (うん、シア綺麗になったね
  きっと、長年継母に

  盛られていたっていう
  毒が身体から抜けたんだね

  ただ、シアぁ~あんたってば
  魔力ダダ漏れよ

  つっても、この分じゃ
  コントロール効かないだろうから

  ここはサファイアの吸収力に
  頑張ってもらいましょう)

 そう思った私は、さりげなくシアの皿に新たなお惣菜が入った大判焼きもどきを取り分けるフリして、サファイアの寝籠をスッと押して近付ける。
 と、サファイアと視線が有ってしまう。

 (えっとぉ~…私のしたコトの意味
  もしかして理解しているの?)

 そう思った直後に、そのキラキラの瞳を私に向けて、サファイアはにこぉ~っと笑って見せてくれた。
 どうやら、シアから溢れる魔力がより近くなって嬉しいようね。
 なんて思っていると、シアが自分の中の変化に気付いて、私に笑いかけて言う。

 「ありがとう、ライム
  このソルス・エル・ピーシェの
  お陰で、心身が浄化されたみたい

  つーことで、はい
  フリードも一口ね

  勿論、ジオンも食べてね
  せっかくライムが
  くれたんだから…ね」

 シアはそう言って、私から手渡されたソルス・エル・ピーシェをフリードへと手渡していた。
 手渡されたフリードが、ちょっと引き攣っていたが、私は知らないふりをした。

 だって、できればフリードはもちろんのこと、ジオンにも食べて欲しかったから………。
 少しでも、浄化と治癒の効果があればめっけものと思っていた私だったりする。
 そんな私の視線の先では、お前も食べろよとフリードがジオンにソルス・エル・ピーシェを手渡していた。

 ジオンは、フリードに手渡されたソルス・エル・ピーシェを、やはり一口食べて、微妙な顔をする。

 (ジオンは、甘いモノが
  あまり好きじゃないのかしら?)

 そう思っている間に、フリードの瞳が妙に鮮明になり、雰囲気が変わっていた。
 より獰猛に、鮮烈な気配へと変化していたりする。

 (うん、フリードは良い感じに
  ソルス・エル・ピーシェの
  効果が出たわね

  シアもなんか綺麗になったし
  流石太陽神ソレストの愛と
  加護がたっぷりと詰まった実ね

  ただ、ジオンがわからないわ
  ここは、直接聞いてしまおう)

 そう思った私は、3人に話しかけようとしたら、シアが小首を傾げながら聞いていた。

 「フリードは見るからに
  変化したけど………

  ジオンはどんな感じ?
  見た目的には、あまり
  変化らしい変化がないけど?」

 シアに問いかけられたジオンは、軽く首を振って答える。

 「解放感が半端無いな
  呪縛は物質化して

  そこにいる神獣達が
  食べてくれたが………

  やっぱり、どこか…というか何か
  すっきりしていなかった

  けど、今はすごくクリアーだ
  これなら色々と魔術が使える

  魔術に関しての
  記憶もかなり鮮明になった

  半分近くなっちまったが
  残りはシアが食べる方が良い」

 ソルス・エル・ピーシェの効果を実感したジオンは、残りをシアへと返す。
 意外と、甘いみたいなのよねぇジオンって。
 さすが、攻略対象のひとりよね。

 なんて思っている間に、シアはジオンに手渡されたソルス・エル・ピーシェの残りを食べきっていた。
 そして、問題発言というか、爆弾発言をしてくれる。

 「もう少し私の身体が
  健康になったら

  ソルス・ロス・エンダ村に
  直接行って見たいな」

 その瞬間、私はこころの中で叫んだ。

 (シア…それ、危険だからぁ~………)

  







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