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第11章 訓練開始
156★異世界のGは想像を絶するモノでした
しおりを挟む緑魔の森の中に、馬を進め始めるとエリカは、首筋にちりちりする嫌な感じを受け始めた。
さっきまで、聞こえていた耳に心地よい小鳥のさえずりと、小動物の動く気配がなんとなく減っていく様子に、エリカは首を傾げる。
〔何がどうというわけじゃ無いんだけど
なんとなくおかしいわ
とても嫌な感じがして、ざわざわするわ
うぅ~ん…別に、あの時みたいな、危険が
迫っているって感じじゃ無いんだけど……
サーチを掛けても、危険な魔物はいない
でも、なんか嫌なのよ……これって?〕
エリカは、嫌な予感に首を傾げながら辺りを見回すが、樹から樹に飛び移るリスらしい姿や飛び回る小鳥を見つけるだけだった。
それでも、エリカは、自分の感覚を信じて、あたりに対する警戒を緩めることは無かった。
そんな緊張しているエリカの様子に、アルファードは首を傾げながら、じっと見詰めている。
下手に声をかけると、エリカは、何でもないと言って、首を振って微笑むとわかっていたから。
〔どうしたんだろう?
別に、強い魔物の気配は無いし
動物達の様子も、何時もよりちょっと
おとなしい程度なんだが?
エリカが、変に緊張している
もしかして、女性の苦手なアレが出るのかな?
もしも、アレが出現するなら……
触れた瞬間に燃やし尽くす【蒼い業火】を
剣にまとわせておくか?
発動はアレが現われた瞬間(とき)と
設定すればイイかな?
ところで、オスカーはエリカの様子に
気が付いているのか?〕
アルファードは、もしもを考えて、詠唱破棄で剣に【蒼い業火】をまとわせる寸前の状態にして魔法をかける。
勿論、エリカに気が付かれないように、こっそりとしていたのは確かなことだった。
そんなアルファードの視線を感じたオスカーは、苦笑し、剣の柄を軽く撫でて見せる。
アルファードとオスカーの様子を見た側近達は、剣に魔法をかけることにした。
その程度の気働きが出来ないようでは、皇太子の側近など出来ないというところだろう。
そんなそれぞれの動きが終わった頃、それは現われた。
最初は、微かな羽音だった。
次に、しっかりとした羽音が…………。
そして、辺り一面に黒いモノが大量に飛び交うようになった。
それを見た瞬間に、エリカは喉が張り裂けんばかりに叫ぶ。
「イッヤーかんべんしてよぉぉぉぉー
どぉーしてぇ……異世界に来てまで
こんなに大きな、おぞましい黒Gを
見なきゃいけないのぉぉぉ」
そうエリカが見たのは、手のひらぐらいの大きさの黒々としたGだった。
それが緑魔の森の空一面を覆って、辺りを薄暗い状態にする程の数で、エリカ達を目指して飛んで来た。
瞳に涙を溜めて叫ぶエリカを、アルファードはすかさず抱き寄せる。
「大丈夫だ。俺がついている
今、俺達の周りに《結界》を張ったから
アレがエリカに直接触れることは無い」
エリカが騎乗している馬は、アルファードの愛馬だったので、強引な動きで馬同士がぶつかっても、どちらの馬も気にしなかったので、スムーズに動くことが出来た。
エリカを抱き込んでいるアルファードの剣も、オスカーの剣も、ジャスティ達の剣も青白い炎を吹き上げている。
出現した瞬間に、発現するようにしておいた為だ。
相手が虫なので、微かでも触れた瞬間に、対象物を焼き尽くす高温の炎をまとわせる必要があるので、超が付く青白い火炎にしておいたのだ。
同然のこととして、中途半端に火が着いたまま飛び回られたら、森に火が着く可能性があったので……。
それを防ぐためにも、勘を働かせたアルファードとオスカーは超高温の炎を、剣にまとわせていたのだ。
勿論、ソレを見て直ぐに追随して発動寸前の状態にしていたのは、流石魔法騎士団の騎士達である。
そして、バラバラと黒Gが騎士達にぶつかってくる。
騎士達は、ちょっと嫌そうな表情をしながらも、次々と剣で黒Gを燃やして行くのだった。
その為に、辺り一面に、黒Gの焦げるいやぁ~な匂いが漂った。
アルファードも腕にエリカを抱えながら、飛んで来る黒Gを剣で燃やしつくして行く。
黒Gが見えるのも嫌だろうということで、アルファードはマントをエリカの頭から被せていた。
ついでに、黒Gの焦げる匂いやカサカサという音も《結界》で、エリカに感じられないように遮断していたりする。
アルファードの思いやりで、エリカは視界から黒Gを排除していたので落ち着くことが出来た。
本来の積極的な性格のエリカなら、マントを自分から取って回りを確認するのだが。
自分の手の平よりも大きい黒Gに、エリカの心はばっきりと折れていた。
だから、アルファードかオスカーに大丈夫だと言われない限り、エリカはマントを頭から被ったままでいると決めていた。
そんなエリカに、試練の時は終わらない。
ブゥーンという重低音と振動が当たり一面に響く。
何事と思いついエリカも、マントの隙間から、空を見てしまう。
そこには、全長3メートルの黒Gの集団が…………。
その更に後ろには、その10倍の大きさの黒Gの女王が、重低音と振動を響かせて飛んで来る姿をエリカは見てしまう。
〔有り得ないわ
こんな怪獣としか言えないサイズのGなんて
この異世界には、こんな恐ろしいモノが
存在(いる)のね
アル達の焼き尽くし攻撃じゃ間に合わないわ
それに、なんと言ってもあの匂いが気持ち悪いわ
考えたくもないけど、集団でGに逃亡されたら
目も当てられないわよ
ここは、殲滅させるしかないわ
絶対零度の超低温で砕いてあげるね
エリカの前に現われるから悪いのよ
覚悟なさいG〕
エリカのなかで、その姿を見た瞬間に、何かがブツッと切れたようだった。
それでも、恐怖の余り、エリカは気絶することすら出来なかったのだ。
そして、切れたエリカは、叫ぶように魔法を使う。
「黒Gの周りに存在する物質すべての
原子電子陽子に命令するっ停止せよっ
すべての運動を止め、熱を発するな
無慈悲な絶対零度の女王よ
すべてを凍らせ、すべてを砕け
ブリザードクイーンテンペスト」
エリカが、本能の導きのまま、オリジナルの魔法を唱えた瞬間。
巨大な黒G達の集団は、真っ白くキラキラした氷に覆われた。
その次の瞬間、シャリィーンシャリシャリパキッパキパキという澄んだ音をたてて、すべて砕けてしまう。
絶対零度で凍り砕けた黒Gの集団は、突然(超低温になった空気が地面に落ち、あいた場所に、アルファード達が使った【蒼い業火】で温められた暖かい空気が吹き込んだ)吹いて来た。
結果、フリーズドライ状態になっていた(黒G達は砕けて粉になっていた)ので綺麗さっぱり飛び散ってしまったのだった。
こうして、エリカの目の前から、黒Gの痕跡は消え去ったのだった。
だが、風に乗って飛んで来た黒Gの粉を食べた虫の集団がひっそりとエリカ達に向かっていることをまだ誰も知らない。
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