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第11章 訓練開始

151★姫君は、無敵だった

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 エリカは、雷系の魔法をまとわせた剣で、アルファードと剣を打ち合わせていた。
 剣と剣が触れ合う度に、雷魔法がイオン臭とバチバチという音と光りがぶつかり合う。

 エリカもアルファードも、剣を持つ手に衝撃や魔法の影響が出ないように、柄の部分には盾の守護魔法がかけられている。
 その為、エリカは思いっ切りよく、アルファードに切りかかっている。
 が、お互いに身体強化して戦っているので、元の体力、ようするに身体能力が戦う能力差として出てきてしまう。

 現役の騎士として常に魔物と戦っているアルファードと、剣道と居合いを趣味で習っていたエリカとでは、話にならないほどの格差があった。
 だからこそ、アルファードは手加減して、丁寧にエリカに指導することが出来たのだった。
 そして、エリカとしては美少年のアルファードに、一対一で教えてもらうのはとても楽しかった。

 〔クスクス……アルに、魔法と剣を
 教えてもらうのは楽しいわね

 身体強化の魔法を掛けているから
 思いっ切り剣を打ち込んだり、飛んだり
 跳ねたりしても疲れないって楽しいわ

 魔法を剣にまとわせるって、1度やると
 そのまま維持できるって面白いわ

 でも、魔法をもっと剣にのせても良いかな?
 それと、ケリを入れたりするのは
 やっても良いのかな?〕

 剣道や居合いの他に、柔道とは違う古武術を習っていたので、剣で戦っていても、ケリを入れたり、剣を飛ばして(飛ばされたりして)組み手に持ち込んだりという戦い方をしたいと思ったのだった。
 そこで、エリカはアルファードに質問する。

 「アル、剣を使う時にケリを入れてもイイ?」

 エリカの質問に、アルファードは驚いてしまう。
 アルファード達は、魔物討伐が基本なので、対人戦を想定して訓練をしていないのだ。
 魔法騎士団は、要人警護もしない。

 また、他の騎士団と一緒に街道警護や巡回はするが、都市の警備や治安維持はしないのだ。
 魔物討伐をしない時は、訓練の他に、新しい魔物との戦い方を研究しているのだった。
 だから、エリカの質問は、アルファードにとって驚きだった。

 〔おや? エリカは、対人戦の訓練を
 したことがあるのか?

 いや、エリカの世界には魔物はいないから
 対人戦の方が当たり前なんだな

 エリカは、いったいどんな戦い方を
 するのかな? 試してみるのも一興だな〕

 「構わないよ
 ケリを入れられると思ったら、入れてくれ
 そういうのも、興味があるから……」

 「うん。それと、剣を使わないで
 組み手もしてみない?」

 「組み手って?」

 「あのね、私の習った古武術って
 剣を失っても相手を素手で倒すって
 方法があるの

 まっ、実際は短剣とかを使って
 相手を倒すって感じなんだけどね
 アル達には、素手の戦い方ってあるの?」

 エリカにそう聞かれ、アルファードはちょっと肩を竦めて答える。

 「う~ん、身体強化しているから
 強引に殴るって感じかな?
 拳に魔法をまとわせて殴るとか
 足先に魔法をまとわせてケルとかだな」

 「そうなんだぁ~……私の方は
 魔法をまとわたりはないけど、相手の
 スピードとか体重とか勢いとかを利用して
 投げたり殴ったり蹴ったりするよ」

 「投げるのか?」

 「うん
 なんなら、アルを投げてあげようか?」

 そんなエリカのセリフに、アルファードはクスッと笑って言う。

 「エリカより俺は確実に重いぞ
 大丈夫か?」

 「アルは、柔術や柔道やレスリングなどを
 知らないから
 わりと簡単に投げられると思うよ」

 「そうか。じゃ、投げてもらうかな?」

 「うん。じゃ、アルの腕を掴むね」

 「ああ」

 にこにこ笑って、エリカはアルファードの腕を掴むと、するりと背を向けて一瞬で投げ飛ばした。
 そう、1本背負いである。

 結果は、呆然と訓練場の床に大の字になったアルファードがいた。
 アルファードには、なにが起きたのか判らなかった。
 歴代の聖女には、エリカほどの武術を色々と習っている者はいなかったので、
ドラゴニア帝国には、柔道や空手などの素手で戦う武術は入っていなかった。

 だから、体験したことのない柔道の技にあっさりとアルファードは引っ掛かってしまったのだった。
 とはいえ、ドラゴニア帝国の騎士達のトップとして君臨していたアルファードにとって、それは結構ショックなできごとだった。

 そして、エリカに投げられたアルファードを見て、ミカエルもラファエルも目を見開いてしまう。

 「ラファ、姫君ってどれだけ規格外なんだ?」

 「投げて良いって言われても
 あんなりあっさりと投げられるとはねぇ」

 「油断していたというしかないな」

 「まっ、団長は姫君に夢中だから」

 「「だな」」

 2人の不用意な会話は、アルファードにも、エリカにもしっかりと聞こえていた。
 だから、アルファードは、2人の肩をぽんぽんと叩き、真っ黒な笑顔で言う。

 「ミカエル、ラファエル
 お前等もエリカに投げてもらおうか?」

 「「えっ?」」

 「慣れない訓練に、エリカも疲れているから
 気分転換に慣れているコトをさせてやるのも
 リラックスする為には有効だと思うんだ
 だから、付き合うよな?」

 副音声としては。

 『お前ら、エリカの気分転換の為に
 ガンガン投げられろ
 身体強化していれば、さほど痛みは無いから
 さっさと投げられて来い』 

 そんなアルファードとミカエルとラファエルの会話は、エリカはにこにこ笑って見ているだけだった。
 そして、ミカエルとラファエルは、アルファードに連れられてエリカの前に立った。

 それを、騎士達は、黙って見ているだけだった。
 2人のように、アルファードに捕まって敬愛する姫君(騎士として守る対象)に投げられるのは、ちょっと、いや、かなりイヤだったので、不用意な発言をしないようにしていたのだった。
 これを人は保身というのだった。

 もちろん、2人は綺麗にエリカに投げられた。
 アルファードは、2人よりかなり小さかった。
 そのアルファードより、エリカは小さい、まして、姫(女)で守るべき対象で聖女だったのに。
 その姫に、あっさりと何度も投げられて、2人の心は折れたのだった。

 その水に落ちた犬のように情けない姿になった2人に、アルファードはひとかけも同情することはなかった。
 こうして、エリカの魔法剣の訓練は、柔道を使ったエリカの1人勝ち?で終わったのだった。
 
 騎士達は、団長であるアルファードに逆らってはいけないという常識に、聖女であるエリカにも絶対服従するとこころに誓うのだった。

 





  
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