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0004★ジスは決意する
しおりを挟む私ハ…自分ガ産ンダ…卵ヲ喰ラッテマデ………。
王ノ資格ヤ…素養ナド…望マナイ。
帝王ノ資格・素養・強大ナ【魔力】ナド………。
微塵モ……欲シイトハ思ワナイ。
隠遁ヲ選ンダ私ニハ……皆ヲ導ク気ナド無イト言ウノニ…。
何故……我ガ子ダッタノデスカ?
創造神様?
ジスはツーっと、涙を零したあとに決意する。
タトエ…帝王ノ卵ガ誕生シタコトヲ感知シタトシテモ。
マダ…誰モ…私ノ卵ノ存在ニハ気付イテハイナイ。
愛シイ愛シイ私ノ子……ソウダ…異界ニ送ロウ。
出産直後で、大半の力を失ったがゆえに、重い体躯を宥めすかして、ゆっくりと起き上がったジスは、腹部にある卵を抱える為にある袋に入れて、ソッと卵を抱え込む。
ハァ~……人型ニ成ルコトモ……今ノ私ニハデキナイカ……。
力をほぼ使い果たしたがゆえに、人型の形態を取れないジスは、ひとつ大きく深呼吸してから、できるだけ気配を薄める。
現状、普通の野生動物すらも、敵なる可能性が捨てられないがゆえに。
そして、吸い込まれるように袋にすっぽりと納まった卵を抱え、ジスは周囲の気配を探り、周囲に誰もいないコトを確認してから、何事もなかったかのように歩き出す。
異界ヘノ扉ヲ開イテ…コノ子ヲ…界ヲ隔タレタ異界ニ逃ガソウ。
ソレシカ…私モ…コノ子モ…生キル術ハナイノダカラ……。
私自身…見付ツカレバ…素養ヤ資格ヲ求メル者ニ喰ワレルカ。
卵ヲ喰ラウ為ニ…新タナ卵ヲ…産マサレ続ケルコトニナロウ。
早ク…異界ヘト逃ガサネバ。
王としてどころか、帝王の資格と素質と絶大な【魔力】を持つ、類い稀な卵を産んだコトで、このまま座していては、早々に欲長けた無法者に見付かってしまうと、震える足を動かす。
もしも誰かに見付かれば、出産直後で全ての能力値が底辺まで下がっている自分に待つ未来は、ただむさぼり喰らわれるだけと。
ジスは、気配を極限まで薄め、子供時代に訊いたコトがある場所へと、静かに向かう。
全ての幻獣達の頂点に立つコトができる、全ての素養・資格・絶大な【魔力】を内包する帝王の卵を産んでしまったジスは、我が身と我が子の為に、異世界へと続く空間亀裂のある樹海へと向かった。
*****
その世界の創造神の慈悲が降り注いだかのように、類い稀な帝王の卵を抱えたジスは、王になるコトを望む幻獣達でさえ踏み込むことが少ない樹海の奥地へと、難なくたどり着いた。
だが、目の前の光景に、ジスは愕然とした。
本来なら、其処に存在している筈のモノが無かったがゆえに。
『エッ? ナゼ? 本当ニ此処デ間違イナイノダロウカ?
確カ…伝承ノ通リナラバ…此処デ良イ筈ナノニ………。
異世界ヘト通ジル時空樹ガ……無イッ………』
目の前に広がる巨大な湖に、卵を抱えた呆然自失となったジスは、ただジィーっと照りつける湖面を見詰める。
『嗚呼…ドウシタラ良イノ…時空樹ガ存在シテイナイナンテ。
時空樹ノ幹ニ走ル…大キナ亀裂ガ…異界ニ通ジル、唯一ノ扉ダト…訊イテイタノニ』
悲嘆にくれながらも、何か希望は無いかと、ジスは湖面の下を深く覗き込む。
湖の奥底から、コポリッと何かが湧き出して、微かに水中を揺らした途端に、ありえないモノが揺れ見えた。
エッ…ナニ? 今…水底カラ何カガ湧イテ…妙ナモノガ映ッタアレハ…モシカシテ異界? …幻獣界トハ異ナッタ異世界。
水底に、湖底とは明らかに違う、幻影のような何かの人影を見たような気がしたジスは、迷わずこの地まで腹袋に抱えていた自分の卵を取り出す。
そっと、ジスは愛し気に、産み落として数日の卵に口付ける。
『マダ見ヌ吾子ヨ…オ前ガ卵カラ孵化スル瞬間ヲ…見タカッタワ。
ドウカ無事ニ界ヲ渡リ…異世界デ幸セニ育ッテオクレ。
コノ母ガ…ソナタニ唯一産ミ親トシテ贈レルモノ……。
真名ヲ…授ケヨウ……ソナタハ……[コウガ]ダ。
ソノ真名ガ……ソナタヲ…異界ニ導クダロウ』
ジスは、唯一の希望をこころに、卵をソッと湖へと沈める。
卵を手放したと同時に、内心では悲嘆にくれつつも、其処に長いは無用と、断腸の思いで立ち上がる。
吾子ヨ…ドウカ無事ニ…異世界デ育ッテ…幸セニナッテオクレ。
私ハ…コノ命尽キル…ソノ時マデ…吾子ヲ忘レナイ。
クゥゥッ…王ノ…帝王ノ…資格ナド無ケレバ………。
素養ヤ…絶大ナ【魔力】ナドナケレバ………。
ソレナリニ…孵化シタ我ガ子ト…平穏ナ生活ガデキタノニ……。
双眸から零れ落ちる涙をキッと拭い、ジスは自分が訪れた痕跡を残さないように、足早にその場を立ち去る。
そして、湖底に向かってユラユラと揺れて沈んだ卵は、水底へと到達する前に、フッと消失したのだった。
その事実は、卵を沈めたジスもあずかり知らないことだった。
そうやって、希望を胸に卵を湖に沈めたジスは知らないコトだったが。
ジスと同じように、類い稀な能力や素養や資格を内包した子を持った幻獣達が、同じよう異世界へと幼い子供や兄弟姉妹を送っていたのは確かなコトだった。
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