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0107★シャドウハウンド達はみんな賢く可愛いです
しおりを挟む激怒のルリは、壁の際まで軽く50メートルは確実にある距離を吹っ飛ばしたが、熊型の魔獣はムクッと起き上がると、まっしぐらにルリに突進する。
どうやら敵認定したのは、張り手をくらわしたルリに対してらしい。
そんな中、リアは声にならない悲鳴を上げるが、こういう時に大声を出すのは不味いコトだと身をもって知っているリアは声を呑む。
そう、幼少期からイジメを受けていたリアは、声を上げると余分にイジメられたので、無意識に声を呑み込む癖がついていたのだ。
イヤぁぁぁ………そんなぁぁぁ………シャドウハウンドちゃんがぁぁぁ~
嗚呼…もう…私の馬鹿ぁぁぁ~…シャドウハウンド達を結界に入れ忘れていたぁぁ~
ふえぇぇぇ~ん……私がちゃんと結界に入れておいたら、怪我しなかったのにぃ
思わず御者台から飛び降りようとするリアを、グレンとユナが引き留める。
「ダメだ、リア」
「リアお姉ちゃん、ダメッ」
2人からの制止に、リアは自分が行っても足手まといになると気付き、グッと唇を噛む。
「リア、あのシャドウハウンド……まだ、息がありそうだ……連れて来るから、ここでおとなしく待っていろ……なんなら、守護結界を拡げておけよ………ユナ、リアが勝手に降りないように見張っていてくれ……」
「うん、ちゃんと見張っているよ」
頷くユナの頭をポンポンして、グレンは熊型魔獣の一撃を受けたシャドウハウンドの場所へと向かう。
その間に、リアはグレンが言ったように、シャドウハウンド達を馬車を中心にした結界の中へと入れる。
正確には、12頭全部を入れられるぐらいに拡げた。
馬車を中心に張った結界を、もっと広く拡げてぇ………うん…このぐらいかな?
んでもって、結界の物理防御を引き上げないとね
ついでに、魔法防御も上げておこう
リアが御者台の背もたれに埋めた魔石に付与を訂正し、結界空間の範囲を拡げる。
そして、更に重ね掛けで強化の付与を何重にも入れて行く。
が、途中で、魔石に込めていた魔力に微かな反発が出たコトに気付き、ハッとして魔力込めを瞬時に停止する。
あっ…ぶなぁぁぁ~………危うく、結界の核になる魔石を割っちゃうところだったわ
そう言えば、魔石のコトを教えてくれた神官様の言葉が今なら理解できるわ
確か『魔石に許容以上の付与しすぎると、壊れますよ』って言ってた
セシリア時代、何時でも魔力枯渇まで使い切るしか無かったリアは、魔力をほんの少しの取りこぼしもしたくなくて、制御に心血を注いでいただけに、核となる魔石の崩壊寸前でピタッと止めるコトが出来たのだ。
もし、視るコトが出来る者が居たら、本当に限界寸前の、魔石全てに余すことなく付与が満ちているコトに気付くだろう。
リアは、限界パツパツでピタッと停止出来たコトで、核とした魔石がキラキラしているコトに気付く。
そう言えば、付与って魔石全部に入るモノじゃないって言っていたわねぇ
魔石に魔力を入れる人の技量や純度や速度などによって変わるって話しだったわ
だから、魔石に込められる魔力がまだらになったり隙間が出来るとも言っていたわね
リアは、最良の状態で出来上がった色々な付与を込めた魔石を壊さずにすんで、心底ホッとしていた。
一方、周囲を警戒しつつ、熊型魔獣の一撃を受けてしまったシャドウハウンドの元へと急ぎながら、パニック寸前のシャドウハウンド達に、グレンは命令をする。
「警戒シナガラ……結界内ニ入レ……」
グレンからの命令に、シャドウハウンド達はハッとして、サササッとグレンの命令に従って、馬車の周囲に集まる。
勿論、リアが結界に入れると意識したコトと、範囲を拡げたコトで、シャドウハウンド達は余裕で馬車の御者台を中心とした結界内に入るコトが出来た。
そして、ご主人様と決めたリアの温かい魔力が満ちた結界内に入ったコトで、警戒はしているものの、パニックは完全におさまっていた。
「みんな、いぃ~子ねぇ~………警戒しつつ待機ねぇ~………」
リアが、ちょっと気の抜けた命令をすれば、熊型魔獣の一撃を喰らってしまったシャドウハウンド以外のシャドウハウンド達は、ワフッと返事をして、尻尾を振っていた。
当然のコトとして、リアは三人から馬車の御者台から降りるコトは許されていないので、そこでおとなしくグレンが抱きかかえて連れて来るのを待つことしか出来なかった。
そんな中、グレンは熊型魔獣の一撃を喰ってしまったシャドウハウンドを抱えてリアの側にまで運んで来る。
グレンは、瀕死どころかかろうじて息があるかな?ぐらいのグリフォンの雛を回復させたリアの実力を知っているので、すぐさま運んで来たのだ。
「リア、まだ息がある……治癒魔法で何とかなるかもしれないっ………」
そう言いながら、血塗れでぐったりしているシャドウハウンドを抱えて馬車の御者台近くまでグレンは運んで、石畳の上に降ろす。
「結界を強化し終わっているんだろ、降りても良いけど馬車からは離れないでくれな…ユナ、放しても良いぞ」
ガシっと腰に抱きついていたユナが離れたのを確認し、リアは御者台から降りて、僅かな息となったシャドウハウンドの元へと近付く。
リアの気配を感じて、もはや朦朧としているだろうシャドウハウンドが鼻を鳴らす。
クゥゥ~…ン……ピ…ス………
最後の力だと判る主人を慕う声に、リアはゴキュッと喉を鳴らして、こころから祈りながら治癒の魔法をかける。
「ヒール」
たったひと言の治癒魔法だが、込められた魔力と思いにより、シャドウハウンドの身体に負った傷があっという間に消えて行く。
録画の逆再生、それも高速で、それこそ、あっという間に、熊型魔獣によって付けられた傷口は消えていた。
リアの治癒魔法を掛けられたシャドウハウンドも、急に痛みが消えて、身動きが出来る状態になったコトにビックリして、硬直する。
そんなシャドウハウンドの頭を撫でて、リアは優しく言う。
「もう、大丈夫よぉ~………痛かったよねぇ…怖かったよねぇ………」
そう言いながら、ヨシヨシと頭を撫でていれば、自分達も撫でてと、周囲を警戒していたシャドウハウンド達が、お行儀よく並んでお座りしてみせる。
「やだぁ~……この子達って可愛いぃぃ~……それに賢い……懐っこいし…連れて行きたいなぁ~……」
そう言いながら、リアはお座りして待つシャドウハウンド達を一頭一頭撫でて行く。
勿論、治癒したシャドウハウンドは、ユナに様子を確認してと預けていたのは確かなコトだった。
ユナに預けられたシャドウハウンドは、ハッとしてゆっくりと身体を起こすと、身体をブルブルっと揺すって、不思議そうに自分の熊型魔獣に斜めに大きく抉られたハズの脇腹を見て、首を傾げていた。
「くすくす………リアお姉ちゃんが治してくれたんだよ…良かったねぇ…でも、一杯出血とかしたから、ここで待機ね」
ユナにそう言われて、治癒魔法を受けたシャドウハウンドはハフッと溜め息を付き、仲間を撫でているリアを恋しそうに見ているのだった。
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