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0057★グリフォンの雛に命名します
しおりを挟む数度の横揺れで、馬車が襲撃されているコトに気付いたセシリアは、ガバッとラグの上で上半身を起こす。
同時に、ルリやユナ、レオにグリフォンの雛も起きて、臨戦態勢に入っていた。
あら、ルリってば、いつの間に人化していたのかしら?
あっ…そうだ…子ウクダちゃん達は?
セシリアの思考がそう回った時には、子ウクダ達は寝起きのコトでパニックになり、ぴゃ~ぴゃ~と可愛く鳴いて、オロオロとしていた。
「子ウクダちゃん達、こっちに、いらっしゃいっ」
セシリアの呼び掛けに、ハッとした子ウクダ達は、タタタタッっと膝立ちになったセシリアの側に駆け寄る。
「よしよしよし……うん…良い子達ねぇ~…ちょっとだけ我慢してねぇ」
そう言って、1頭ずつ頭を宥めるように撫でて、周囲を確認して、ルリに問い掛ける。
「ルリ、襲撃?……敵は魔物?…それとも夜盗…じゃなくて、盗賊?」
セシリアの問いかけに、ルリは溜め息を吐いて答える。
「盗賊だね……それも、ロマリス王国から追い駆けて来たみたいだよ」
その遠くまで詳細に観るコトができる、魔獣としての視力で確認したらしいルリの答えに、セシリアは呆れる。
「あははは………よっぽど、ユナが欲しいってコトかなぁ?」
まぁ…ユナが『口から魂……』発言を聞いたくらい高かったようだからねぇ
それとも、横から買われたコトで、プライドを傷付けられたってか?
だったら、値切らなければ良いのにねぇ……さて、どうしましょうか?
私が出ると、絶対にユナが心配するわよねぇ……はぁ~………
ルリの様子を見ると、大丈夫そうだけど
だからって、これ以上は、つきまとわれるのは迷惑だわ
「ルリ、グレンは苦戦しているの?」
セシリアがルリを見てそう問いかければ、ルリはセシリアの側にピッタリと張り付いている子ウクダ達を見て、呆れている。
「おやおや…あの母ウクダ、随分とおとなしくしていたし、リアに妙に懐いていると思ったら、子供をちゃっかり乗せて、ついて来ていたのかい……ああ…グレンね……苦戦って程じゃないけど…数が多くて、てこずっているようだねぇ」
そう言いながら、ルリはスッと御者台の扉へと移動する。
そして、ガチャッと侵入防止のカンヌキを外し、御者台にいるグレンに声をかける。
「グレン、いつまで盗賊達と戯れているんだい……リアが起きちまったよっ」
せっかく『リアが心地よく寝ていたのに』というニュアンスに、グレンが溜め息を吐きながら言う。
「ああぁ~…悪いな………ったく、母ウクダが付いて来ているんで、速度あげても良いか迷ってたんだよ」
「それなら大丈夫だよ…子ウクダ達は、馬車ン中に乗せられているから、速度をあげて振り切っちまいな」
「りょ~かい……ってことで、速度あげて振り切るぞぉー……」
伴奏馬の斜め後ろを走る母ウクダにも、速度をあげると声をかけて、グレンは軍馬達に身体強化の魔力を流す。
その瞬間、母ウクダはそのコト(=魔力で身体強化)に気付いたようで、目の前を走る軍馬のお尻に鼻先をチョコンとくっつけて、グレンからの身体強化の魔力をちゃっかりと受け取るのだった。
盗賊達は、グレンの言葉に、逃がすものかと、こちらも身体強化をそれぞれかけて追い縋る。
が、もともとの馬の力が違う為に、グンッと加速すれば、あっという間に盗賊達を引き離していく。
口々にののしりながら、盗賊達は、なんとか追い縋ろうとする。
だが、もともとが値段も能力もお高い軍馬で、その上に身体強化をかけられただけに、あっと言う間に引き剥がされる。
もともと追い付かれたのは、のんびりと休憩をとっていたし、母ウクダの足元に子ウクダ達がいるだろうと、速度を上げられなかっただけで、本気で振り払いにかかれば何のことはないのだ。
御者台との間の扉を開いていたルリは、盗賊達が振り払われるのを確認して、グレンに言う。
「グレン、今日はお昼休憩を返上して、もっと距離をかせぐしかないねぇ」
残念そうなルリの言葉に、セシリアは声をかける。
「だったら、もう少ししたら、左手側に、消えた小街道の名残りがあるから、そっちに行ってくれるかな?……やり過ごすっていうのも手じゃない?」
セシリアの言葉に、ルリが振り返って聞く。
「小街道かい?」
「うん…小街道…入って少し進むと、途中かなり街道が消えているから……そっちに行ったとは思わないんじゃないかな?……まだ食料に余裕あるから、ちょっと冒険したいし………」
「リアがそう言っているけど、どうするグレン?」
ルリの言葉に、チラリと後ろを振り返り、盗賊達の姿がないコトを確認して、グレンは肩を竦めて頷く。
「良いんじゃないか……俺達を追い抜いて、大街道を先行して、ヘタレてくれれば、潰しやすくなるからな……その間に、少し魔物討伐でもして、リアの経験値あげしても良いからな」
「んじゃ小街道に行きな……途中、小街道が消えるみたいだけど…名残りはあるようだからね」
「了解……ちょっと揺れるのはしかたないと思ってくれっ……」
そう言って、グレンは更に軍馬達に身体強化の魔力を流す。
勿論、それを事前にキャッチして、母ウクダも軍馬のお尻に、再び鼻先をチョコンとつけて、身体強化の魔力の恩恵を受け取るのだった。
「ごめんねぇ…ルリ、ユナ、レオ、それにグリフォンの雛ちゃんに、子ウクダちゃん達、道が途切れた小街道の先に、村か町だった跡があるの、そこでお昼休憩しようねぇ」
セシリアの言葉に、ルリはクスッと笑って言う。
「リア、そのグリフォンの雛、いつまでもそう呼ぶわけにいかないだろ…名前をつけてやりな……そうすれば、ちゃんと成長して生き残れる確率が上がるよ」
ルリの助言に、そう言えば名付けすると繋がりが出来て、弱い子でも生存率が上がるコトを思い出し、セシリアは頷く。
「ああそうね…そしたら、この子もちゃんと成体になれるかもしれないわね」
セシリアはラグに座り直し、グリフォンの雛を抱き上げ、ヒザに乗せて頭や身体をナデナデしながら考える。
グリフォンの雛だから、かなりあんちょくだけど……グリかフォンかな?
グリって言えば、思い出すのは、双子のネズミのお話しよねぇ………
でも、ネズミにとっては、グリフォンの雛は、天敵かしらねぇ?
まぁ…それでも、呼びやすいほうが良いのよねぇ……
ってコトで、ここはやっぱりグリかなぁ?
うふふふふ……もふもふふわふわの産毛で可愛いわよねぇ…グリちゃん
「それじゃ、今日から、あなたはグリよ…よろしくね、グリちゃん」
そう、セシリアがグリフォンの雛を撫でながら命名する。
「ぴぃ~ぴぃ~」
嬉しそうに小さな3対の翼をパサパサと震わせて、歓喜の声をあげるのだった。
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