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0055★その頃のアゼリア王国8 大神官長の回想
しおりを挟むアゼリア王国が所有する、転移の場に降り立った瞬間に、負がズッシリと我が身にのしかかる。
いずれは、再びこの責務を背負うという覚悟はしていたが、久々に背負うと息苦しさを感じるものだな。
転移で帰国すれば、その濃厚な負を背負うだろうとは予測していても………。
いかに鍛錬を真面目に積んでいたとしても、やはりキツイものだな。
やはり、年齢による衰えを自覚せずには居られない。
だからこそ、私の次代となる者を慎重に育てて来た。
表向きの愛息子と、真実、私の跡を継ぐための息子と、その補佐を………。
好色神官とそしられるのも構わず、継げるだけの素質ある後継者の誕生を、どれだけ待ち望んだことか………。
いかに私の子とて、母体という畑が悪ければ、出来の悪い子も出てしまうのはしょうがないコトだ。
怠惰で、強欲で、傲慢で、地位の低い者をモノとしか見ないような性根の卑しい女の腹からでは、どうしても、こころが清い子は生まれずらい。
だからと言って、安らぎを求め、心優しい女性を妻になど迎えるコトはできない。
私の大神官長という地位に群がる、見た目だけが美しいだけのさもしい者達に、穢されて貶められるコトはわかり切っているコトだから………。
私達神官は、神に祈りを捧げるコトで、加護や恩恵を受ける者だから………。
祈り奉り、その信仰心を捧げて、神より助力を与えられ、本来自分の持てる浄化の魔法よりも、多くの浄化を行う………それが、私達神官の務めである。
ただ、最近は、残念なコトに、素行に問題のある者達が増えて来ている。
貴族の次男三男ゆえに、神官という地位を求めて、神官になった者が増えてきていたのは知っていた。
まぁ…それも想定内のコトなので、神殿に入る時に、ちゃんとある誓約を架してある。
破るコトのできない、神との誓約を、神官見習いになる時に、神前で読み上げる祝詞に、自身を神饌とする意味の文言を組み込んでおいたからのぉ……。
ああ…あともう少し……時間が欲しかったというのが、ほんねじゃわ。
まだ、あの子(=セシリア)は持つと思っておったのだがのぉ…はぁ~…。
だいぶ、危うくはあったが、ロマリス王国の建国500年の祝賀の後でも、十分に間に合うはずだった。
いや、それ以前に、聖女セシリアがもたないと判断したら、魔道具を外す緊急措置ができるように、真の神官を配置して置いたのだ………はて?
真の神官だけが使える連絡網から『聖女セシリアが危険域に達したので、魔道具を外します』という、連絡が来ておらなんだが……どうなっておるのか?
我ら神官は、強欲王と呼ばれた、心優しく正しい為政者として生きようとしていた、偉大なアーサー王に仕えていた、近衛騎士達や新興貴族達や公爵家などの建国の折から続く、貴族の次男以降のいらない存在を含む騎士達の末裔………。
表向きは冷酷王と呼ばれたマーリン王の時代から、王や王妃達の浄化を補助する為に作られた存在。
本来の公爵家と侯爵家達は、建国の折に、浄化をグランバルド王と共に、国の為に命を賭していた清廉な貴族だった。
だが、何時の頃からか、公爵家と侯爵家達は、大貴族としての怠惰な生活により強欲な者達へとなりさがってしまっていた。
いや、何時の間にか、本来受け継ぐべき正当な血筋を巧妙に廃し、傍系の血筋や他国者の血筋が混ざった者達が本筋の乗っ取りをして、変異していったのだろう。
事実、本来なら本筋のはずの者達が、何時の間にか、分家のひとつへと落ちていた。
その事実を知った時は、はらわたが煮えくりかえったわ。
堕落しきった公爵家達に怒りながらも、強欲王と呼ばれたアーサー王は、近隣の国とも呼べない存在達を、戦いによって次々に併合していった。
なぜなら、建国の折に手に入れた場所は、もう増え過ぎた国民達を養えなくなってきていたから………。
そして、近隣の地域は、まだまだ開発の余地があったから………。
元々の不浄な場所ではなく普通の大地だったから、増えた国民を移住させる場所として必要としていたから………それ故に戦ったのだ。
それを公爵達は、アーサー王と呼ばずに強欲王と呼んだ。
堕落ゆえに、浄化の能力を失いつつあったのは、公爵達だったというのに………。
それに危機感を持った王は、魔物の魔石を使って浄化する魔道具の開発を急がせていた。
それが、間に合わないから、浄化を必要としない大地を戦いによって手に入れたのだった。
アーサー王は、共に戦った者達に新たな大地を与えた。
その土地に、増え過ぎた国民を移住させたのだ。
浄化能力をあまり持たない新興貴族達でも、国民と十分暮らしていけるように………。
だが、その意図は、我ら以外は誰も知らない。
強欲な公爵達に、領地交換を言われないように………。
アーサー王の意図は、彼らに気付かれずに実行された。
開発(なお、資金はその土地を貰った貴族持ち)の必要な、面倒な土地を欲しがらなかった。
新たに領地を貰った新興貴族は、強欲王と呼ばれたアーサー王と共に魔物を狩り魔石を集め、素材を売り領地開発の資金とした。
アーサー王の治世の内に、魔石を使った魔道具の開発はうまくいった。
そして、冷酷王マーリンの時代に、公爵達はそのコトに気が付いた。
魔石を使った魔道具があれば、自分達の存在意義が失われると………。
それ故に、冷酷王マーリンに、自分達の要らない娘達を浄化の生贄に差し出すという契約を持ち出したのだ。
暗に、自分達の提案を冷酷王マーリンが蹴ったなら、内乱を起こすと恫喝したのだ。
内乱による国土の荒廃と国民の疲弊を恐れたマーリン王は、その恫喝に膝を屈するしかなかった。
ああ、どれほど悔しかったのだろうか?
少しでも、国民が豊かな生活ができるようにと努力した結果が………。
自分達の地位と権力と、贅沢な生活を享受する為に、マーリン王に逆らい自分のいらない娘を生贄にするという、おぞましい公爵達の提案(=恫喝)に従うしかなかったコトを………。
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