上 下
56 / 173

0055★その頃のアゼリア王国8 大神官長の回想

しおりを挟む


 アゼリア王国が所有する、転移の場に降り立った瞬間に、負がズッシリと我が身にのしかかる。

 いずれは、再びこの責務を背負うという覚悟はしていたが、久々に背負うと息苦しさを感じるものだな。

 転移で帰国すれば、その濃厚な負を背負うだろうとは予測していても………。
 いかに鍛錬を真面目に積んでいたとしても、やはりキツイものだな。

 やはり、年齢による衰えを自覚せずには居られない。
 だからこそ、私の次代となる者を慎重に育てて来た。

 表向きの愛息子と、真実、私の跡を継ぐための息子と、その補佐を………。
 好色神官とそしられるのも構わず、継げるだけの素質ある後継者の誕生を、どれだけ待ち望んだことか………。

 いかに私の子とて、母体という畑が悪ければ、出来の悪い子も出てしまうのはしょうがないコトだ。

 怠惰で、強欲で、傲慢で、地位の低い者をモノとしか見ないような性根の卑しい女の腹からでは、どうしても、こころが清い子は生まれずらい。

 だからと言って、安らぎを求め、心優しい女性を妻になど迎えるコトはできない。
 私の大神官長という地位に群がる、見た目だけが美しいだけのさもしい者達に、穢されて貶められるコトはわかり切っているコトだから………。

 私達神官は、神に祈りを捧げるコトで、加護や恩恵を受ける者だから………。
 祈り奉り、その信仰心を捧げて、神より助力を与えられ、本来自分の持てる浄化の魔法よりも、多くの浄化を行う………それが、私達神官の務めである。

 ただ、最近は、残念なコトに、素行に問題のある者達が増えて来ている。
 貴族の次男三男ゆえに、神官という地位を求めて、神官になった者が増えてきていたのは知っていた。

 まぁ…それも想定内のコトなので、神殿に入る時に、ちゃんとある誓約を架してある。
 破るコトのできない、神との誓約を、神官見習いになる時に、神前で読み上げる祝詞に、自身を神饌とする意味の文言を組み込んでおいたからのぉ……。

 ああ…あともう少し……時間が欲しかったというのが、ほんねじゃわ。
 まだ、あの子(=セシリア)は持つと思っておったのだがのぉ…はぁ~…。

 だいぶ、危うくはあったが、ロマリス王国の建国500年の祝賀の後でも、十分に間に合うはずだった。

 いや、それ以前に、聖女セシリアがもたないと判断したら、魔道具を外す緊急措置ができるように、真の神官を配置して置いたのだ………はて?

 真の神官だけが使える連絡網から『聖女セシリアが危険域に達したので、魔道具を外します』という、連絡が来ておらなんだが……どうなっておるのか? 

 我ら神官は、強欲王と呼ばれた、心優しく正しい為政者として生きようとしていた、偉大なアーサー王に仕えていた、近衛騎士達や新興貴族達や公爵家などの建国の折から続く、貴族の次男以降のいらない存在を含む騎士達の末裔………。
 表向きは冷酷王と呼ばれたマーリン王の時代から、王や王妃達の浄化を補助する為に作られた存在。
 本来の公爵家と侯爵家達は、建国の折に、浄化をグランバルド王と共に、国の為に命を賭していた清廉な貴族だった。

 だが、何時の頃からか、公爵家と侯爵家達は、大貴族としての怠惰な生活により強欲な者達へとなりさがってしまっていた。

 いや、何時の間にか、本来受け継ぐべき正当な血筋を巧妙に廃し、傍系の血筋や他国者の血筋が混ざった者達が本筋の乗っ取りをして、変異していったのだろう。

 事実、本来なら本筋のはずの者達が、何時の間にか、分家のひとつへと落ちていた。
 その事実を知った時は、はらわたが煮えくりかえったわ。

 堕落しきった公爵家達に怒りながらも、強欲王と呼ばれたアーサー王は、近隣の国とも呼べない存在達を、戦いによって次々に併合していった。

 なぜなら、建国の折に手に入れた場所は、もう増え過ぎた国民達を養えなくなってきていたから………。
 そして、近隣の地域は、まだまだ開発の余地があったから………。

 元々の不浄な場所ではなく普通の大地だったから、増えた国民を移住させる場所として必要としていたから………それ故に戦ったのだ。
 それを公爵達は、アーサー王と呼ばずに強欲王と呼んだ。

 堕落ゆえに、浄化の能力を失いつつあったのは、公爵達だったというのに………。

 それに危機感を持った王は、魔物の魔石を使って浄化する魔道具の開発を急がせていた。
 それが、間に合わないから、浄化を必要としない大地を戦いによって手に入れたのだった。

 アーサー王は、共に戦った者達に新たな大地を与えた。
 その土地に、増え過ぎた国民を移住させたのだ。

 浄化能力をあまり持たない新興貴族達でも、国民と十分暮らしていけるように………。
 だが、その意図は、我ら以外は誰も知らない。

 強欲な公爵達に、領地交換を言われないように………。
 アーサー王の意図は、彼らに気付かれずに実行された。

 開発(なお、資金はその土地を貰った貴族持ち)の必要な、面倒な土地を欲しがらなかった。

 新たに領地を貰った新興貴族は、強欲王と呼ばれたアーサー王と共に魔物を狩り魔石を集め、素材を売り領地開発の資金とした。

 アーサー王の治世の内に、魔石を使った魔道具の開発はうまくいった。
 そして、冷酷王マーリンの時代に、公爵達はそのコトに気が付いた。

 魔石を使った魔道具があれば、自分達の存在意義が失われると………。
 それ故に、冷酷王マーリンに、自分達の要らない娘達を浄化の生贄に差し出すという契約を持ち出したのだ。

 暗に、自分達の提案を冷酷王マーリンが蹴ったなら、内乱を起こすと恫喝したのだ。
 内乱による国土の荒廃と国民の疲弊を恐れたマーリン王は、その恫喝に膝を屈するしかなかった。

 ああ、どれほど悔しかったのだろうか?
 少しでも、国民が豊かな生活ができるようにと努力した結果が………。

 自分達の地位と権力と、贅沢な生活を享受する為に、マーリン王に逆らい自分のいらない娘を生贄にするという、おぞましい公爵達の提案(=恫喝)に従うしかなかったコトを………。












しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

転生後モブ令嬢になりました、もう一度やり直したいです

月兎
恋愛
次こそ上手く逃げ切ろう 思い出したのは転生前の日本人として、呑気に適当に過ごしていた自分 そして今いる世界はゲームの中の、攻略対象レオンの婚約者イリアーナ 悪役令嬢?いいえ ヒロインが攻略対象を決める前に亡くなって、その後シナリオが進んでいく悪役令嬢どころか噛ませ役にもなれてないじゃん… というモブ令嬢になってました それでも何とかこの状況から逃れたいです タイトルかませ役からモブ令嬢に変更いたしました ******************************** 初めて投稿いたします 内容はありきたりで、ご都合主義な所、文が稚拙な所多々あると思います それでも呼んでくださる方がいたら嬉しいなと思います 最後まで書き終えれるよう頑張ります よろしくお願いします。 念のためR18にしておりましたが、R15でも大丈夫かなと思い変更いたしました R18はまだ別で指定して書こうかなと思います

ヒロインに悪役令嬢呼ばわりされた聖女は、婚約破棄を喜ぶ ~婚約破棄後の人生、貴方に出会えて幸せです!~

飛鳥井 真理
恋愛
それは、第一王子ロバートとの正式な婚約式の前夜に行われた舞踏会でのこと。公爵令嬢アンドレアは、その華やかな祝いの場で王子から一方的に婚約を解消すると告げられてしまう……。しかし婚約破棄後の彼女には、思っても見なかった幸運が次々と訪れることになるのだった……。 『婚約破棄後の人生……貴方に出会て幸せです!』  ※溺愛要素は後半の、第62話目辺りからになります。 ※ストックが無くなりましたので、不定期更新になります。 ※連載中も随時、加筆・修正をしていきます。よろしくお願い致します。 ※ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

収納持ちのコレクターは、仲間と幸せに暮らしたい。~スキルがなくて追放された自称「か弱い女の子」の元辺境伯令嬢。実は無自覚チートで世界最強⁉~

SHEILA
ファンタジー
生まれた時から、両親に嫌われていた。 物心ついた時には、毎日両親から暴力を受けていた。 4年後に生まれた妹は、生まれた時から、両親に可愛がられた。 そして、物心ついた妹からも、虐めや暴力を受けるようになった。 現代日本では考えられないような環境で育った私は、ある日妹に殺され、<選択の間>に呼ばれた。 異世界の創造神に、地球の輪廻の輪に戻るか異世界に転生するかを選べると言われ、迷わず転生することを選んだ。 けれど、転生先でも両親に愛されることはなくて…… お読みいただきありがとうございます。 のんびり不定期更新です。

婚約破棄された悪役令嬢。そして国は滅んだ❗私のせい?知らんがな

朋 美緒(とも みお)
ファンタジー
婚約破棄されて国外追放の公爵令嬢、しかし地獄に落ちたのは彼女ではなかった。 !逆転チートな婚約破棄劇場! !王宮、そして誰も居なくなった! !国が滅んだ?私のせい?しらんがな! 18話で完結

婚約「解消」ではなく「破棄」ですか? いいでしょう、お受けしますよ?

ピコっぴ
恋愛
7歳の時から婚姻契約にある我が婚約者は、どんな努力をしても私に全く関心を見せなかった。 13歳の時、寄り添った夫婦になる事を諦めた。夜会のエスコートすらしてくれなくなったから。 16歳の現在、シャンパンゴールドの人形のような可愛らしい令嬢を伴って夜会に現れ、婚約破棄すると宣う婚約者。 そちらが歩み寄ろうともせず、無視を決め込んだ挙句に、王命での婚姻契約を一方的に「破棄」ですか? ただ素直に「解消」すればいいものを⋯⋯ 婚約者との関係を諦めていた私はともかく、まわりが怒り心頭、許してはくれないようです。 恋愛らしい恋愛小説が上手く書けず、試行錯誤中なのですが、一話あたり短めにしてあるので、サクッと読めるはず? デス🙇

どう頑張っても死亡ルートしかない悪役令嬢に転生したので、一切頑張らないことにしました

小倉みち
恋愛
 7歳の誕生日、突然雷に打たれ、そのショックで前世を思い出した公爵令嬢のレティシア。  前世では夥しいほどの仕事に追われる社畜だった彼女。  唯一の楽しみだった乙女ゲームの新作を発売日当日に買いに行こうとしたその日、交通事故で命を落としたこと。  そして――。  この世界が、その乙女ゲームの設定とそっくりそのままであり、自分自身が悪役令嬢であるレティシアに転生してしまったことを。  この悪役令嬢、自分に関心のない家族を振り向かせるために、死に物狂いで努力し、第一王子の婚約者という地位を勝ち取った。  しかしその第一王子の心がぽっと出の主人公に奪われ、嫉妬に狂い主人公に毒を盛る。  それがバレてしまい、最終的に死刑に処される役となっている。  しかも、第一王子ではなくどの攻略対象ルートでも、必ず主人公を虐め、処刑されてしまう噛ませ犬的キャラクター。  レティシアは考えた。  どれだけ努力をしても、どれだけ頑張っても、最終的に自分は死んでしまう。  ――ということは。  これから先どんな努力もせず、ただの馬鹿な一般令嬢として生きれば、一切攻略対象と関わらなければ、そもそもその土俵に乗ることさえしなければ。  私はこの恐ろしい世界で、生き残ることが出来るのではないだろうか。

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

処理中です...