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0050★その頃のアゼリア王国7 国王の後悔と決意

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 ああ、何度、後悔しても足らない。
 真実を知らないまま、セシリアにすべてを、になわせてしまったコトを………。

 美しい金髪も、きらめく翡翠の瞳も、愛らしい容姿も失っていく、セシリアにすまないと何度もこころの中で思いながら、エイダンに王太子教育をしていた。

 だというのに、まさか、私達の教育を聞いたふりだけで過ごしていたとは………。
 そして、すべての執務をセシリアに押し付けていたとは………知らなかった。

 私は、息子のエイダンと、王妃を信じ過ぎていた。
 私は、すこしもあの歴代の王達の遺言の意味を、理解していなかった。

 王妃とエイダンを、好きにさせ過ぎていた。 
 自分と同じ生贄のセシリアに、あれほど酷いコトを王妃がするとは思わなかった………。

 冷酷王は、王妃や側妃達を信頼し過ぎるなと、ちゃんと日記に残していたのに………。
 王妃や側妃達は、己が子を得ると変質する者が、基本なのだと………。

 子供を守る為なら、どんな非道なコトでも平気でするのが、王妃達なのだと………。
 私は、彼女に望まれたときに、側妃を娶らない選択をした。

 王妃と側妃の争いを嫌ったから………。
 これは、たぶん、いや、間違いなく失敗なのだろうな。

 鍛錬もしていない、覚悟のひとつもない、エイダンしか王子がいない状態になってしまったのだから………。

 今更ながらに思う。
 エイダン以外に王子が居たなら、ここまでセシリアに非道なコトをする余裕は無かっただろうと。

 側妃と、その子供達の派閥と争う為に………。
 王妃の派閥が、エイダンの執務を、セシリアに押し付けるという失点を作るコトになるからな………。

 そんな危険なコトは、エイダンの失点を責める隙を、いつでも狙う側妃とその派閥達の目があるから出来なかっただろう。

 これは、私の大きな失点だ。
 もっと多く、私(王家直系)の血筋を残さなかった。

 魔道具を着けて、生贄として浄化をしていなくても、王である私は、その血の呪縛で、常に最低限の浄化をしていた。

 私の病の進行は………魔道具でセシリアに代替してもらい、大神官長の施術で………遅れているだけて、完治しているわけではなかったから………。

 この時間に、王妃との間に新たな子供を作りたかった。
 だが、王妃はそうではなかった。

 王妃としての華やかな生活を享受していて、私の寝所に訪れるコトはあまりなかったからな。
 後悔している、側妃を娶らなかったコトを………。

 多くの血筋を残すコトをしなかったコトを………
 なによりも、エイダンの素行などを見張っていなかったコトを………。

 たったひとりの妃とした為に、私の思っていたよりも、王妃に権力が集まっていたコトに気が付かなかった。
 無能な私の行いを………後悔しかない。

 エイダンが愛情を持って、婚約者としてセシリアを庇っていたなら、あそこまで酷い姿にならなかったコトを………。

 王妃は、セシリアに優しくする人間を常に探し排除していた。

 なぜ、そこまですると問いかけると、セシリアに優しくするのはエイダンだけで良いのですといつも返してくる。

 エイダンが嫉妬してしまうからと………。
 エイダンは、まだ幼いので好きな子を苛めてしまうのだと。
    
 それは違うと言えば、泣き喚いて手が着けられなくなる。
 挙句に、セシリアに手を上げる王妃を、私は持て余していた。

 注意すればするほど、セシリアを虐待する頻度が上がっていくから………。
 それをなんとかしたくて、神官長に相談する。

 が、神官長には、王としての執務以外に、余計な気鬱をしないでくださいと言われるしまつ。

 私の病が進行してしまうからと………。
 だから、私は政務をとるコトとエイダンの教育以外しなかった。

 アゼリア王国を離れる不安はあった。
 だが、隣国であるロマリス王国の建国500年の祝賀を、欠席するわけには行かなかった。

 何日も続く祝賀パーティーに、疲れを覚え始めた今日この頃。
 突然に襲ってきた、この不快感………。

 覚えのある、全身をさいなむ重苦しい不快感。
 ああ、セシリアが予想より早く、逝ってしまったんだな。

 そうなる前に、セシリアから魔道具を外す予定だったというのに………。
 私は、何時も終わってしまってから、後悔するのだ………情けない。

 神官長に調べてもらったコトが脳裏に次々と浮かぶ。
 あのおぞましい女………現ハイドランジア女公爵の傲慢な顔が脳裏をよぎる。

 あの女の非道を弾劾して、魔道具を外したセシリアを、ハイドランジア女公爵とする予定だったのに………。
 嗚呼…今更だが、卒業を待たずに、はずしてやれば良かった。
 そう、ロマリス王国の建国500年の祝賀に向かう前に………。
 ふっ……そう言えば、外す為の時間が無くなったのは、妃の癇癪に振り回されたセイだったな。

 もしや、妃は私が、セシリアから魔道具を外すコトを知っていて、邪魔をしたのだろうか?
 誰かからの入れ知恵という可能性も捨てられないな。

 まあ、いい………終わってしまったコトはどうしようもないのだから。
 どちらにしろ、そうする予定だったのだ。

 現ハイドランジア女公爵と、その夫と、その娘達は、セシリアの代わりに生贄になってもらおう。

 ハイドランジア公爵家は、大神官長の実家とも血の交換をしていたのだから………。
 彼の息子か、娘のどれかと、王家の血を引く貴族家の者達と、婚姻させて継がせれば良い。

 すまないセシリア、すべてが遅いが、私達の浄化の責務を押し付けて、楽しいはずの子供と少女の時代を、辛い苦しいというときにさせたのは、私の罪だ。

 王妃とエイダンの状態に気が付いた時に、ちゃんと行動していれば良かった。
 たとえ、どんなに王妃が癇癪を起こしても、強硬すれば良かった。

 エイダンには、その責務として、たんと生贄としての子供を残してもらう。
 その子供のなかから、王としての能力のある者を、王太子として育てよう。

 残りの子達は、全員、浄化の生贄としよう、それが私の償いだ。
 まだ、そのくらいの時間はあるはずだ。

 セシリアを犠牲としてかせいだ時間だ、このアゼリア王国の王として、相応しき者を作り上げよう。

 私は、生贄の存在を公にして、冷酷王のように、魔物を狩り魔石を手に入れるか、すべての貴族達から、当主となる者以外を生贄を差し出すかを尋ねよう。
 貴族達すべてに、選ばせる。
 せめて、そのぐらいはしたい。

 すまなかったセシリア………私の義娘よ。
 何の役にもたたず、負担を押し付ける非道な義父である私を恨んでくれ。

 せめて、その亡骸を王家の墓に正式な王太子妃として葬ろう。
 セシリアがかせいでくれた時間で、かならずや、ちゃんと、このアゼリア王国の王としての自覚のある者を作らねば。

 さあ、エイダンを迎えに行こう。

 王太子としての義務と責任を……多くの子供を、作ってもらわねばな。











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