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0043★その頃のアゼリア王国5

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 ハイドランジア公爵家の色彩をまとい、幼女とは思えない魔力量を持っている愛らしい子供だった。

 その幼女の背を私達に向けて、押しながら宣う。

 「この子は、先代ハイドランジア公爵と、平民女との間に生まれた、異母妹の生んだ娘です。アレは、セシリアの父親が誰かと尋ねても、決して口を割りませんでした。たぶん、平民だと………。王家の血は限り無く薄いでしょう。それでもこの魔力量ならば、我がハイドランジア公爵家の役割を、はたせると思います。如何でしょうか?我がハイドランジア公爵家の忠誠の証しです」

 陛下と神官長は、ハイドランジア女公爵の提案を、即座に受け入れた。
 一番魔力量の多い陛下よりも、魔力量が多いセシリアをエイダンの妃と決めれば、私の負担を減らせるかもしれないと思ったから………。

 そう、負担が減れば、次の子も望めるだろうというモノもあったとは思う。

 ただ、どうなるかわからない為に、まずは、私が身に付けさせられていた魔道具が、ひとつ外された。

 まず、ひとつ……と。

 いかに魔力量が有ろうと、幼女ゆえに慎重にことは運ばれた。

 ひとつ、またひとつ……と。

 2つ減って、かなり楽になったと思った……。

 しかし、私の魔道具を2つ身に付けさせられて、大丈夫だというコトが確認されたあとは、陛下の身に付ける魔道具を外すコトが優先された。

 少しずつセシリアに、浄化させる為の魔道具を着けていく。
 まずは、陛下の魔道具をすべてセシリアに移した。

 セシリアは、何事も無く過ごしていく。
 次に、私の残っていた魔道具をセシリアに移した。

 それは、私に次の子供を産むコトを望んでの選択だったらしい。

 セシリアの輝くばかりに美しい金髪が、どんよりとした金髪と言えない色に変わった。
 が、美しい碧眼、翡翠色の瞳はそのままだった。

 そこで、神官長の魔道具もセシリアに移した。

 セシリアは、ハイドランジア公爵家の色彩をまとっていても、ほとんど平民の血統と言っても良かったので、魔道具を与える度に、神官長が儀式を繰り返した。

 セシリアが成長するうちに、翡翠の瞳は濁り濁った沼の色になった。
 美しかった碧眼は、澱んだ沼の色となった。

 それでも、王太子妃教育に支障が出るコトは無かったので、魔道具を減らすコトは無かった。

 魔道具を着けずに生活するのは、とても快適だった。
 体調はすこぶる良いし、王妃としての生活は権力も財力もあったので楽しかった。

 エイダンよりも、セシリアのほうが、はるかに優秀だった。

 だから、エイダンがするべき執務を、セシリアにさせた。
 その結果は、すべてエイダンのモノにした。

 表向きエイダンは、美しい容姿で頭脳明晰な、将来有望な王子と言われるようになった。
 私は、それが誇らしかった。

 そんなエイダンとは違い、セシリアは魔道具のセイで、国中の負を浄化している為に、年々醜い姿になっていった。

 そんなセシリアを思いやる気持ちなど無かった。
 私だって、突然選ばれて、つらい目にあったのだから………と。

 いつしか、いくつもの魔道具によって、浄化に魔力を強制的に使われていたセシリアは、初級の簡単な魔法すら使えなくなっていった。

 セシリアは醜い上に、魔力も無い家柄だけが良い、無能な婚約者といわれるようになった。
 それは、エイダンの無能を覆い隠してくれた。

 だから、セシリアの不遇を可哀想と思うコトは、カケラも無かった。
 私は、貴族の役割として、陛下と婚姻したから、エイダンには恋愛結婚をして欲しいと思うようになっていた。

 愛する者として、側妃を娶れば良いと………。
 それでも、その考えを口に出すコトはしなかった。

 エイダンの妃は、セシリアしか居ないと思っていたから………。
 セシリアを失えば、再び、あのつらい日々が待っているコトを知っていたから………。

 美しかった金髪も翡翠の瞳も愛らしい容姿もどんどん失って、醜く太っていくセシリアに嫌悪感しか湧かなかった。

 肩代わりさせているという、罪悪感も無かった。

 エイダンの治世の間、セイリアが王妃として浄化するだけの存在でいれば良いと思っていたから………。
 セシリアを虐げても、諫めるコトすらしなかった。

 世継ぎの王子は、エイダンが選んだ側妃が生めば良いと………。
 ただ、セシリアの執務能力は、失われないと良いなと思っていただけだった。

 エイダンだけではなく、私の執務も押し付けていたから………。
 楽なほうへ、楽なほうへと、王妃としての生活を享受した。

 そんな、私の思いをエイダンは察していたのかしら?
 愛する娘と共に生きて欲しいとは思っていた……けど。

 ああ…重い…苦しい…これは、今までツケなのかしら?
 でも、魔道具を身に付けていないのに………なぜ。

 そういえば、今日はアゼリア王国貴族院の卒業式で、今頃はパーティーの真っ盛りのはずよね。

 なのに、セシリアに身に付けさせた魔道具が稼働していないの?
 考えられるコトは、ただひとつ。

 エイダンが、セシリアから魔道具を外したというコト。
 ただ、あれだけ醜いセシリアを嫌っていたエイダンが、なんで魔道具をはずしたのか?

 確かめなければ、あれだけ有る魔道具すべてが壊れるなどありえないのだから………。

 誰かが、エイダンをそそのかし、セシリアに身に付けさせた魔道具を、外させたとしか思えない。

 ああ、きっと卒業パーティーは、まだ続いているはず。

 「……陛下……学院です……今日は…卒業式です……」

 アゼリア王国貴族院に行けば、原因がわかるはず。

 私達がこれだけ苦しいのだから、エイダンもきっと苦しんでいるばす。


 





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