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0042★その頃のアゼリア王国4
しおりを挟む10数年ぶりに感じる、全身をさいなむようなモノの苦しさに、私は思う。
何故?…今の私は、魔道具を身に付けていないのに……と。
同じように、陛下が倒れ、大神官長も倒れた。
転移の場で、アゼリア王国に帰還した途端に、その苦しさはどうにもならない程に酷くなった。
3人とも、魔道具を身に付けていないのに、このアゼリア王国の穢れや災いを、取り込んでいる。
何故…なぜ…ナゼ……その思考でいっぱいになる。
私は、このアゼリア王国の王妃となった。
この立場に、なりたくてなった立場ではない。
このアゼリア王国の国土は、ほんらい人が住めるような場所では無かったという。
そう…建国史として、習った。
祖国が滅びたから、新たな大地を求めて移住しただけ………と、表向きはなっている。
正確な事実は、追放されたから、この地に移住して来たと言うほうが正しい。
今のアゼリア王家と、それに従う公爵家と侯爵家の元となった、聖魔法の使い手達が流れ着いた場所が、現在のアゼリア王国だった。
元は砂漠に中にある、不毛な穢れ地だった場所。
それでも、澱んでいようと水が湧き出て、異形化したモノだが、僅かなりとも植物が自生していた。
もはや、移動に耐えられなくなって来ていた、今のアゼリア王家の血統と、それに従う公爵家と侯爵家の元となった、聖魔法の使い手達は、決断したという。
この穢れ地で生きようと………。
そして、自分達の家族や一族郎党達と暮らす場所が欲しくて、命を削るような、強引なチカラ技で浄化した場所が、このアゼリア王国だった。
祖となった者達は、それぞれの立場を持った。
一番浄化能力に優れた者達が、王族となって、その下に公爵家と侯爵家になった。
それらは、お互いに血の交換を重ねていった。
初めの頃は、浄化能力がそれぞれの家に血統と一緒に伝わって、生贄も魔道具も必要なかったという記載があった。
だが、王国として時を重ねて人口が増えていき、暮らしが楽になるにつけて浄化の能力は、どんどん失われていった。
それに危機感を持った、王家と公爵家と侯爵家は、新興貴族の血統に活路を見出そうとした。
そう新しい血統と古い血統があわさり、浄化の能力の低下はなんとか止まった。
が、いずれはその効力も失われる。
そこで、神に縋って浄化の能力を鍛えようとして、貴族の次男以降は必ず神官になるコトを国是とした。
神官達を増やし、常時、祈りによる浄化を始めた。
確かに、一時は浄化のチカラと国土と人口は釣り合ったらしい。
だが、人の欲望とは悍ましいもので、豊かになれば、もっととなる……と。
代々の王の中に、強欲な王が現れたのが発端だったらしい。
周辺の国とも言えない地域に手を出し、国土と人口を増やしてしまったのだ。
その結果、なんとか釣り合っていた浄化の能力の限界を超えてしまったという。
だからと言って、1度手にした領土を捨てるコトは出来ないと、強欲王は叫ぶ。
それに、搾取をしていた貴族達も賛同する。
その欲望を止める者達は、居なかったらしい。
その上、足りない浄化能力は、魔物を狩って魔石を使った魔道具で足せばよいと、強欲王は言って、実行したらしい。
強欲王の生きた時代は、常に戦いに明け暮れていたから、その戦力を魔物に当てて魔石を得るコトでなんとでも出来たのでしょう。
その時に集めた魔石で、二代ほどは平穏に過ごせたという。
史実では、そう書かれていました。
しかし、戦いの時代を知らない者達が増えると、魔石を得る為の魔物狩りを厭うようになったという。
そうよね、楽を覚えれば、楽をしたくなるものよね。
その結果として、魔石が足りなくなり、浄化する為の魔道具は使えなくなった。
それに対して、その時代の冷酷王が、次の手段を命令する。
集めるのが大変な魔石ではなく、浄化能力と魔力を持つ女を、王妃や側妃として使えば良いと………。
そういう経緯で、王妃と側妃達は、魔石を外した魔道具を身に着けて、王国に溜まる負を浄化するコトになった。
この時から、王に嫁ぐ彼女達は、魔石に変わる存在(=生贄)となった。
建国に尽力した王家と、公爵家と侯爵家の血統に浄化能力を持つ、聖魔法の使い手は多く生まれる。
そして、第二夫人や愛妾を多く持つので、それなりに子供の数は多い。
だから、その子供達の中で、さほど関心や愛情の無い娘達を、無情にも王に差し出していく。
だが、国王の妃となった者達が、その愛情を貰い権力を握った時に、数多(あまた)の争いが起きた。
王位継承の度に、内乱に発展するぎりぎりまで争うコトが余りにも多過ぎて、浄化が追いつかなくなるコトが多々あった。
それゆえに、公爵家と侯爵家、そして、王女が降下した貴族家や王子が臣籍降下(婿入り)した貴族家から、王妃を順番に生贄として出すコトになった。
王妃が浄化能力を使い過ぎて死んだら、次の王妃を出すと。
公爵家を筆頭に貴族家からも王妃を出して、浄化していたが、その能力はどんどん低下していく。
そこで、神官達の中で一番浄化能力がある神官長にも、魔道具をはめて国土の浄化をするコトになった。
その時に、神官長は、国王や王太子などの王族も成人したなら、その役割を果たすようにと、生贄を順番に出す貴族家達に提案した。
王族達にも、負担を求めたのだ。
そして、新たな魔道具が作られた。
一番負担が多いのは、王妃、次に神官長負担が、少ないのは国王と………。
それでも足りないときは、王子や王女達も………。
私は、王太子だった現国王と婚姻した時に、そのコトを教えられた。
その事実を教えられた私も、そのうちのひとりとなった瞬間だった。
建国から続く、歴史上の話しが、突然降りかかって来たと同時に、妙な納得もした。
同時に、改めて、私は両親や兄に愛されていないと理解した瞬間だった。
代々の王妃達が、実家に冷たい本当の理由………。
幸いなコトに、王妃となる前に、無事にエイダンを生んだのは僥倖だった。
だが、ついていたのはそこまでだった。
次の子供を生む前に、義母たる王妃が亡くなり、さしたる時をおかずに、義父の国王もあっさりと逝ってしまった。
私の負担を補助するはずの次の子供達を、生むコトが出来なかった。
とうてい、ひとりの男子だけでは足りないというのに………。
そこで、私は、何度も国王に側妃を娶って欲しいと頼んだ。
が、どの貴族家も側妃を出し渋った。
苦しいなか、どんなに待ち望んでも、公爵家も侯爵家も娘を差し出さない。
いや、世代交代の足の引っ張り合いや、家同士の繋がりに使い、王家へと回してこなかったのだ。
そんな中でハイドランジア公爵家が、エイダンの妃にという名目で、セシリアを連れてきたのだ。
幼女のセシリアを見た時、どんなに嬉しかったことか………。
これで、少しは楽になれると………それしか、考えられなかった。
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