ボクはけんぴをかじる

オヲノリ

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プロローグ

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 公立尾谷高等学校こうりつおやこうとうがっこう一年生の僕、愛子三福あやしみふくは校舎の壁にもたれて胡座を汲んで座っていた。見上げたら、深い海のような青空にふんわりと真っ白が薄くかかっている。それでも日陰の外は日差しが反射して眩しかった。
 いつもと同じ場所で同じ時間に呑気に芋けんぴをボリボリと齧っている。

 休み時間は大抵はここにいて過ごしている。寝てるか食べてるかどちらかだ。

(ん……今日も綿飴が流れてる……)

 のんびりとぼーっと空を眺めていたら、地上がわーわーと騒がしくて何となくそちらに視線を向けた。向こうでその一人の男子生徒がびくびくと震えながら、言い合っている男子生徒の二人の顔を交互に見ていた。その二人はカツアゲがどうだかで揉めている。

 言い合っている一人は見覚えがあった。身長が結構高い男らしい風貌の人。その人は学校行事や朝の集会で体育館のステージに立っていたのは覚えている……と思う。その時は朝が頗る弱い僕は半分夢の中で話が頭に入っていなかったけど、その人は三年の生徒会長の……若……先輩。確かそんな漢字が付く苗字だった。他はまるっきり記憶にない。

「カツアゲなんざしてねぇよ! そいつに金借りよっかなーって思っただけだぜ」
「嫌がってる相手に脅して借りようってのはどう考えてもカツアゲだろうがよ。返す気ねぇじゃねーか!」
「チッ……うるせぇ奴だなぁ」

 不良っぽいカツアゲ男が舌打ちをして生徒会長に睨み付けた。正論を言われて相当苛ついているようだ。

「悪態をつくなよ。反省して悪事なんてもう二度とすんな。特に弱い奴を狙うなんて卑怯な奴がする事だ。わかったら、もう行けよ」
「しつけーな、若薙わかなぎぃ! その正義のヒーロー気取りがうぜーんだよ。くそ、頭にきた。今すぐぶじどめしてやるっ!」

 そうそう、その人は若薙先輩という名前だった。

 その不良っぽい人が怒りに任せで若薙先輩の胸ぐらを掴んだ。想定外の行動で若薙先輩は驚いて焦っている。

 これは不味い……。

「暴力はマジでやめろっ。俺ぁは喧嘩が強くねぇから勘弁してくれぇぇ」
「ごちゃごちゃうるせぇっ!! 大人しく殴られやがれっ!」

 僕は近寄ってタイミングをはかっていた。

 華奢な僕を両親が心配して小さい頃からあらゆる武道を習わせられた。攻撃してくる自分より大きい相手でも多人数でなければ、何とか倒していた。今回も自分よりもタップがある不良一人相手だ。僕でも簡単に倒せるだろう。

(今だ……っ)

 拳を振る直前の不良っぽい人に素早く技をかけて投げ飛ばした。その人は状況が分からずに放心状態になっていた。はっと正気を戻り立ち上がってくそぉぉ……と走って逃げていった。

「あ、ありがとうございましたぁ、若薙先輩!」
「俺は何もしてねぇから。礼ならこいつに言ってくれ」

 僕に視線を向ける。カツアゲされてたらしい人が僕に何度も頭を下げて礼を言って「また改めてお礼をさせて頂きます」とこの場を去った。
 二人だけになって若薙先輩は僕の方に向き顔を輝かせていた。

「さっきはありがとなぁ。あんなでけぇ奴を相手にぶっ倒すなんてお前はつえぇのな! かっこよくて惚れそうだったぜ」

 熱く褒める若薙先輩とは対照的に僕は「はぁ……」と軽く無気力気味に返す。

「……いいなぁ、お前。急で悪いが、生徒会に入ってみないか?」
「生徒会?」
「おう、今すぐ返事はしなくていいぞ。後でゆっくり考えてくれないか?」

 そう言うが、生徒会は仕事や作業が多くて複雑で細か過ぎるイメージだ。常にやる気のない僕は想像しただけで頭が痛くなりそうだ。

「生徒会って面倒臭そうですね」
「まぁ、生徒会の仕事はしなくてもいい。こう……お菓子を食いながら、簡単な手伝いをしてくれただけで助かる」

 若薙先輩は続けてそれと用心棒としてな? とウインクして明るく微笑んで話す。簡単に言うと、きっと今回のように危害を加える人から守るために生徒会に入って欲しいと言う話だ。そちらが本音かもしれない。
 そしてほれっと未開封のお菓子を目の前に出された。有名店の箔押しのされてる高そうなお菓子、芋けんぴだ。

 これってもしや……。

金吉かねきち印の芋けんぴじゃないですか。数が限られて手に入らないと言う幻の!?」
「生徒会には良さそうなお菓子のお礼品や貰い物が沢山あるからな。生徒会に入ればお菓子が食べ放題だぞ」

 それは聞き捨てならない。毎回美味しい芋けんぴが食べられるなんて夢のようだ。僕は考える事なく即座に答える。

「入ります! 必ず入ります。美味しい芋けんぴが食べれるなら生徒会に入らせて下さい」
「あはははぁぁっ……たく、お菓子で釣られるなんてよ。面白れぇ奴だな、お前。

俺は三年の若薙洸太郎わかなぎこうたろうだ。一応、生徒会長をしている。よろしく頼むぜ」

「僕は一年の……」

 芋けんぴの誘惑に勝てずに生徒会に入る意欲を見せた僕は名前を名乗って若薙先輩と握手を交わした。これが生徒会に入ったきっかけだったのだ。
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