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11.マドンナは俺の癒し

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 休み時間になって霧谷と花岡と教室でいつものようにたわいない話をしていた。好きなグラビアや巨乳派か美乳派などエロい話で本当にくだらない。
 流れに流れて恋愛話になって霧谷は「お前らは好きな奴いんのかぁ?」とにやにやと何とも憎たらしい口元で聞いてきた。

「俺は……」

 と花岡がちらちらと一之瀬を見ながら、「一之瀬みたいな可愛い奴……」と頬を少し赤くして俯いて答えて霧谷が「だってー、とーちゃんはどうなの?」と一之瀬に意味のわからない返しが来た。

 花岡は俺が可愛いって馬鹿にしてんのか。何度も可愛いと言われるが、どこに可愛い要素があるのか未だに理解できない。だが、普段は平然と明るく振る舞っている花岡が珍しく照れててちょっと可愛いなと思ったのは内緒だ。
 ふざけて花岡にしょっちゅう、ちょっかいを出される度に男だけど勘違いしそうになる。普段の一之瀬は気持ちが素直になれなくて突き放してしまう。素直になってしまったら、それからその先はどうなるのかが恐ろしく未知の世界。はっきり言うと、そちらの世界にはいきたくない。

「わりぃな、花岡。俺には心に決めている人が……」

 いつも通りに冗談半分で答えようとした。ただ、一之瀬は気付いてはいなかった。男だらけの賑やかな雰囲気に誰が近寄ってくる気配を。

──突如甘い香りが漂った。ふんわりした神々しい風が……。

「一之瀬くん。盛り上がってる所、申し訳ないけど、ちょっーといいかな?」
「ま、間宮まみやさん!」

 意外な人物にまさか声をかけられるとは思わずに吃驚してついつい立ち上がってしまった。間宮ちゃんだぁ、今日も可愛いねー、と霧谷は嬉しそうに話す。花岡は間宮か、とあまり反応が良くない。間宮さんにそれは失礼だろう。

「元気一杯ね! でも一之瀬くんまで立たなくてもいいんだよ?」

 その間宮さんに座るように言われてロボットみたいにぎこちなく素直に応じた。恥ずかしい所を見られてしまって顔が熱くなった。

 一之瀬の席の目の前に舞い降りた天使が如く可憐な美少女が……。

 この天使またの名を間宮葵菜まみやあおなとはこのクラスの学級委員長で肩上位の髪型で清楚系の可愛い女子だ。このクラスにいる優等生な高嶺の花である。一之瀬の気になっている女の子だ。
 今日はじめて声かけられた事に嬉しさで舞い上がる。

 落ち着け、と平常心を保つように心の中で呟き冷静を装う。

(間宮さんが俺のような人間にも優しく声をかけてくれた……。マジプリティ天使だ……)

 間宮さんは何かのプリントを目の前に差し出した。
 
「それでね、最後の方のここね。記入漏れしてたよ」

「……あ、本当だ」
「これはアンケート用紙だからまだいいんだけど、流石にテストの時はきちんとしないと」

 ね?、と微笑んで子供に言い聞かせるように少し首を傾けて話す間宮さんの可愛さに一之瀬の心が爆発しそうでどきどきと胸が高鳴る。自分は生きてて良かったと心の中で号泣しながら天にお祈りを捧げる。

「うわー、鼻の下が5cm以上伸びてるなぁ。いっちー」

 にやりと霧谷にからかわれて俺はそんなに伸びてねぇーよ、と突っ込んだ。間宮さんの前で変な事を言わないで欲しい。

 近くにいた花岡に肩を組まれて顔をまじまじと見られる。

「間宮ばっか見んなよ。……見惚れられると妬けるだろ」

 花岡は不満そうに口を尖らせる。

「やめろやめろよ。お前、わざとやってるんだろぉっ?」
「わざとじゃねぇよ。余所見なんかするな」 

 取っ組み合いというか花岡が抱き付いてきそうなのを阻止すべく掴み合いになった。負けたくないと手に力を込める。当然、スポーツ馬鹿の花岡相手は平凡の一之瀬の力では敵わない。そのまま花岡の腕の中に無理矢理収まってしまった。

「ははっ……相変わらず、仲良しさんで凄く羨ましいなぁ。そのプリントは放課後までで良いからね!」

 じゃあね、とにこやかに手を振り間宮さんは持ち場に戻って行った。

(俺の間宮さんがぁぁぁっ!)

 何か誤解を招いてしまったと動揺する。花岡のせいで間宮さんに変な勘違いされたら、俺はこれから生きていけるだろうかと深刻に考えてしまう。
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