君の瞳に映るのは

ノベルのベル

文字の大きさ
上 下
1 / 14

俺の瞳に映るのは

しおりを挟む
 あの日――彼女と出会った日。

 俺の世界は、――響き始めた。

 丸められた紙を、スーツ姿の男性が運んでくる。一歩、また一歩、そのときが近づいてくる。
 掲示板の前で動きは止まり、紙が広げられていく。
 
 一位――神代早紀
 二位――本井将兵
 三位――鳴守和音
 
 俺は駆け出す。
「ちょっと、鳴守くん! まだ表彰式が」
 またダメだった。
「くっそーーーーーーー!!!!!!!!!」
 正面玄関ホールを飛び出した俺は、腹の底から声を爆発させながら、沈む太陽がかすかに照らす道を走り続ける。
 また三位だ。前回も三位。その前は二位。一位なんて、中学生になってから一度も獲れていない。今日が中学最後の演奏だったのに。もう三年も「一」の字を見ていない。
「何でなんだよ! 今回だって今までにないくらい練習した。平日の朝、昼、夜。休日だって丸一日練習漬けだった。なのに、ど、う、し、て……」
 息を切らしながら、涙が頬を伝いながら、俺はその場に膝をつく。
「もう、止めちゃおうかな。ピアノなんて」
 ぼそりとつぶやいたその声は、だれにも届くことはない。そう思っていた。
「立ち上がればいいじゃん。何度でも」
 不意に頭上から声が降ってきた。周りに人がいたことに驚きを隠せず、反射的に顔を上げると、そこには一人の女性が立っていた。膝を覆うくらいの丈のある白いワンピースを着た女性が、両手を膝に当て、こちらを覗き込むような姿勢で立っていた。
 急な登場に唖然としている俺を見て、彼女は穏やかな笑顔を浮かべた。
「見ていく?」
 彼女は首を傾げながら、俺に問いかける。
「え? 何を……」
 涙を流していたのを思い出し、とっさに涙を袖で拭う。
 彼女のワンピースから覗く白い手が膝から空へと昇ってゆく。彼女の手が示す先にあったのは――。
「星」
 輝く夜空に溶け込んだ一台の望遠鏡だった。

 これが、俺と彼女の出会いだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

「今日でやめます」

悠里
ライト文芸
ウエブデザイン会社勤務。二十七才。 ある日突然届いた、祖母からのメッセージは。 「もうすぐ死ぬみたい」 ――――幼い頃に過ごした田舎に、戻ることを決めた。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...