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俺の瞳に映るのは
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あの日――彼女と出会った日。
俺の世界は、――響き始めた。
丸められた紙を、スーツ姿の男性が運んでくる。一歩、また一歩、そのときが近づいてくる。
掲示板の前で動きは止まり、紙が広げられていく。
一位――神代早紀
二位――本井将兵
三位――鳴守和音
俺は駆け出す。
「ちょっと、鳴守くん! まだ表彰式が」
またダメだった。
「くっそーーーーーーー!!!!!!!!!」
正面玄関ホールを飛び出した俺は、腹の底から声を爆発させながら、沈む太陽がかすかに照らす道を走り続ける。
また三位だ。前回も三位。その前は二位。一位なんて、中学生になってから一度も獲れていない。今日が中学最後の演奏だったのに。もう三年も「一」の字を見ていない。
「何でなんだよ! 今回だって今までにないくらい練習した。平日の朝、昼、夜。休日だって丸一日練習漬けだった。なのに、ど、う、し、て……」
息を切らしながら、涙が頬を伝いながら、俺はその場に膝をつく。
「もう、止めちゃおうかな。ピアノなんて」
ぼそりとつぶやいたその声は、だれにも届くことはない。そう思っていた。
「立ち上がればいいじゃん。何度でも」
不意に頭上から声が降ってきた。周りに人がいたことに驚きを隠せず、反射的に顔を上げると、そこには一人の女性が立っていた。膝を覆うくらいの丈のある白いワンピースを着た女性が、両手を膝に当て、こちらを覗き込むような姿勢で立っていた。
急な登場に唖然としている俺を見て、彼女は穏やかな笑顔を浮かべた。
「見ていく?」
彼女は首を傾げながら、俺に問いかける。
「え? 何を……」
涙を流していたのを思い出し、とっさに涙を袖で拭う。
彼女のワンピースから覗く白い手が膝から空へと昇ってゆく。彼女の手が示す先にあったのは――。
「星」
輝く夜空に溶け込んだ一台の望遠鏡だった。
これが、俺と彼女の出会いだった。
俺の世界は、――響き始めた。
丸められた紙を、スーツ姿の男性が運んでくる。一歩、また一歩、そのときが近づいてくる。
掲示板の前で動きは止まり、紙が広げられていく。
一位――神代早紀
二位――本井将兵
三位――鳴守和音
俺は駆け出す。
「ちょっと、鳴守くん! まだ表彰式が」
またダメだった。
「くっそーーーーーーー!!!!!!!!!」
正面玄関ホールを飛び出した俺は、腹の底から声を爆発させながら、沈む太陽がかすかに照らす道を走り続ける。
また三位だ。前回も三位。その前は二位。一位なんて、中学生になってから一度も獲れていない。今日が中学最後の演奏だったのに。もう三年も「一」の字を見ていない。
「何でなんだよ! 今回だって今までにないくらい練習した。平日の朝、昼、夜。休日だって丸一日練習漬けだった。なのに、ど、う、し、て……」
息を切らしながら、涙が頬を伝いながら、俺はその場に膝をつく。
「もう、止めちゃおうかな。ピアノなんて」
ぼそりとつぶやいたその声は、だれにも届くことはない。そう思っていた。
「立ち上がればいいじゃん。何度でも」
不意に頭上から声が降ってきた。周りに人がいたことに驚きを隠せず、反射的に顔を上げると、そこには一人の女性が立っていた。膝を覆うくらいの丈のある白いワンピースを着た女性が、両手を膝に当て、こちらを覗き込むような姿勢で立っていた。
急な登場に唖然としている俺を見て、彼女は穏やかな笑顔を浮かべた。
「見ていく?」
彼女は首を傾げながら、俺に問いかける。
「え? 何を……」
涙を流していたのを思い出し、とっさに涙を袖で拭う。
彼女のワンピースから覗く白い手が膝から空へと昇ってゆく。彼女の手が示す先にあったのは――。
「星」
輝く夜空に溶け込んだ一台の望遠鏡だった。
これが、俺と彼女の出会いだった。
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