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第1章 幼少期

10話 王子と蛍①

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 私たちはネオニールに散々怒られた後、湯浴みと治療を施され、それぞれのベッドへと連行された。
 そのあと数日はいつまた怒られるだろうかびくびく過ごしていたが結局父も母も、ネオニールでさえ何も言わない。不思議だが、こちらから聞いて怒られるのは嫌なので私も弟も話題にはしていなかった。

 ジハナもあの後親に怒られただろうか。当然怒られたろうなぁ、と真っ青な顔で両親と帰っていったジハナを思い出す。
見張りに見つかる前に逃がしてあげたほうがよかったかな。いや、でも誘ってきたのはジハナだし。あいつが悪いな、そう結論づけて部屋の窓から外を眺める。
 ほぼ毎日のように遊びに来ていたジハナがあれからしばらく顔を見せていなかった。


 ジハナが次に現れたのは1週間と3日後、冬も終わりに近づいた頃だった。いつも通り突然部屋に現れ、「蛍見に行こうぜ、レンドウィル!」と挨拶もなしに誘ってくる。私は呆れ半分、安心半分で返す。


「久しぶり、ジハナ。懲りないね」
「おう、久しぶり。この間から見張りの巡回ルートが少し変わったんだ。でもしっかり覚えたから次は見つからないよ」
「うう~ん……」


 私が難色を示したのをみてジハナは「少し時間がずれても見張りに会わない道順も調べてある」と続けて説明する。


「エルウィンにも声をかける?」
「そのつもりだけど、この間怪我させちゃったからな……エルウィン王子、あの後大丈夫だった?」
「連れてくるから本人に聞いてみなよ」


 部屋を出るとエルウィンに声をかけて一緒に戻る。ジハナは居心地悪そう部屋の中をうろついて待っていた。


「エルウィン王子、足、大丈夫?」
「あ!ジハナ!こんにちは!平気だよ!ジハナはあの後大丈夫だった?」


 エルウィンはジハナをみると笑顔で挨拶するがハッと何かを思い出したように怒った顔を作ると「この間はよくも逃げようとしたな!覚悟ー!」とジハナへ飛びつきくすぐった。エルウィンを受け止めてベッドに倒れこんだジハナはそのまま大人しくエルウィンにくすぐられている。


「ほらね、大丈夫だったでしょ?」
「あはは!そうだな」
「?」


 じゃれついている2人に近づいて声を掛ける。ジハナは安心したように眉を下げ、エルウィンは首を傾げた。2人の手を引っ張って起こす。


「え、また外に出るつもりなの?」


 もう一度脱走することを提案すると、エルウィン驚き私たちに聞き返した。バレないかが心配なようだったが行きたいという顔を隠しきれていない。私の方をちらちらと確認するあたり、あと一歩の後押しが欲しいのだろう。

 私の最終判断を待つ2人を見てふぅ、と息を吐く。「仕方ない。ジハナを信じるかぁ」というとエルウィンとジハナが手を取って喜んだ。




 夜、ジハナが再びやってきて計画を話す。今回は裏門ではなく用水路を通って抜け出す予定の様だ。確かに城の1階には水路がある。あまり意識したことのない場所で、その水がどこに行くのか私もエルウィンも知らない。

 見張りから隠れながら水路の前まで来ると、確かに子どもなら通れそうな大きさのトンネルになっていた。足が濡れないよう水路の両脇につま先を引っかけ大股で進む。雨水を取り込むためにところどころ地上と繋がった穴があり、月の光が差し込むので目を凝らさずとも足元をしっかりと見て歩くことができた。

 しばらく、時間にして5分程だろうか、トンネルの中がだんだんと明るくなり、出口が見えた。
 ジハナがトンネルから顔を出しきょろきょろと辺りを伺う。よし、と言うとトンネルの淵から飛び出る。私も続けてトンネルの淵から顔を出した。下を見ると小川が流れている。水路は裏庭の東の小川につながっていたのだ。小川の幅は狭く、飛び越えるように反対の岸へ降りた。エルウィンもしっかりした足取りで私に続く。


「外、出たね!!」エルウィンが嬉しそうに言う。

「帰りもここを通れば簡単に戻れそうだね」
「足も濡れなかった!」
「あぁ、裏門を通るよりこっちのほうが確実だと思う。でも俺のいないときに抜け出しちゃダメだからな」


 ジハナは出来のいい弟子を見るような目で満足げに私たちを見て、そのあと念を押した。


「どうして?」
「どうしてって、見張りに見つかったら水路に蓋されちゃうだろ」
「どうかな?ジハナが居なくても大丈夫かも。エルウィン、今度私たちだけで抜け出してみる?」
「いいね兄上。とうとうジハナが居なくても大丈夫ってところを見せる時が来たね」
「え、俺は用済みってこと?薄情者め、こうしてやる!」


 ジハナが私とレンドウィルの頭をぐしゃぐしゃに撫でる。すこしそこで遊んでからジハナが真顔になって「さて、目的の蛍だな」と言った。
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