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第1章 幼少期

7話 王子と内緒の秘密

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「えー!お兄様ったらずるいわ!」
「そうだよ!僕も一緒に行きたかった!」


 はじめて城の外に出てから数ヶ月後のある日。
 私は詰め寄ってくるエルウィンとアイニェンに困っていた。


「ごめんってば」
「僕たちも連れて行って!」
「それはどうかな。ジハナ次第だよ」
「お兄様から頼んでくれたらいいっていうかもしれないわ!」


 あれから何度もジハナとこっそり城壁の外に出掛けていたが、とうとうこの2人にその事がバレてしまったのだ。
 よっぽど外の冒険に憧れているらしく、なんで楽しそうなことに自分たちを誘わないのかと、それはもう2人は私の手に負えない熱量でもって私を責め立てた。


「うーん……今度ジハナが来たら聞いてみようか。彼がいいと言えば連れて行くよ」

「ジハナ連れて行ってくれるかな?」
「きっと連れて行ってくれるわ、ジハナは優しいもの!」


 外の世界に思いを馳せ始めた2人に、やっと解放されたと息を吐く。

 私も抜け出した最初の頃こそ冒険だと息巻いてあちこち探検して回っていたが、最近は町を見ながらのんびり話をすることの方が多い。特に話すことがない時は黙ってただ人を眺めたり、昼寝をしたり。
 別に弟達がいても楽しいのは間違いない。でものんびりした時間が無くなってしまうのは確実だった。

 ジハナは2人が頼んだら外に連れ出すだろうか。きっと連れて行くだろうなぁ、と癒しの時間がなくなる未来にため息をついた。





 しかし実際のところ、2人がどれだけ頼み込んでも彼は首を縦に振らなかった。私は若干の驚きを感じつつ、3人のやりとりを眺める。


「だめ」
「なんで!?」
「2人はまだ小さいから」
「でも、木登りならできるよ!」
「あの木は太すぎて2人には登れない。ダメなものはダメ」
「ジハナの意地悪!」
「お兄様ばっかり贔屓よ!」
「髪の毛鳥の巣!」
「いっつも葉っぱまみれ!」
「土まみれー!」
「なんと言われても危ないからダメ。2人がもっと大きくならないと連れていけないよ」
「大きくって、どのくらい?」
「今のレンドウィルくらいかな」


 むぎぎぎと唸る2人に困ったように「大きくなったら必ず連れて行くよ。約束」と答えたジハナは続けて「レンドウィルも、それでいい?」と私に聞く。


「え?私?」
「お前、お兄さんだろ」
「うん、まぁ、もう少し大きくなったら良いんじゃないかな」


 約束にひとまず納得した様子の2人を見てジハナと私は目を合わせて苦笑いしたのだった。



 弟達は形だけ納得したものの、不満は残っているようでぶつぶつ文句を言いながら自分の部屋へ帰って行った。私とジハナの2人きり、思わず私は聞いた。


「2人に頼まれたら断らないと思ってたよ」
「危ないけど、正直連れ出せない事はないと思う。俺たちがきちんと支えてやればあのクヌギの木も登れる」


 でも、と少し沈黙した後、ちょっと顔を赤くしてジハナが続ける。


「レンドウィルと2人で遊ぶの、楽しいから。なんとなく断っちゃった」
「……」


 ジハナも私と遊ぶ時間を大事に思っていたと分かると嬉しさで胸がいっぱいになる。私が言葉に詰まっていると、ジハナが焦り出した。


「べ、別にエルウィン王子とアイニェン姫が嫌いって事じゃないぞ。ただ、俺たち2人で遊ぶのも楽しいから、もう少しだけ外に行くのは2人だけって思ったからで、除け者にしようとした訳じゃ……ごめん、怒った?」


 わたわたとしているジハナに飛びついて思い切り抱きしめる。勢いが強すぎだのか、ジハナが1.2歩後ろによろめいた。


「うれしい!私も実はおんなじ事を考えていたんだ」
「え、そうなの?……よかったぁ」


 ジハナが私の背中に手を回してぎゅう、と抱き返してくれる。


「じゃあもうしばらくは俺たち2人の秘密だな」
「うん、内緒の秘密!」
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