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最終章 ひっこし
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しおりを挟む「比和子が通山をすぐに離れられないのは、守の存在が大きいのか?」
「そんなわけない。確かに守くんは私の初恋だったけど、もう終わった。てゆーか上手く言えないけど、失恋した訳じゃなくて、あの時にはもう既に心変わりしちゃってた。だから小町と付き合うって聞いた時、素直におめでとうって言えたし」
「ではなぜ」
「難しいなぁ。その質問。最初はさ、学校があるから鈴白には行けないって思ってた。でもいざ学校が鈴白に変わって、学校の問題がクリアされちゃったから離れられない理由が、友達と離れたくないになっちゃった。でも小町がさ、帰る時にさ……っ」
「比和子?」
「もうこっちに帰って来るなって。うっ……。今まで四年間彼氏も作らず我慢してたんだから、残り少ない青春は玉彦と一緒に楽しめって……。うぐっ……。小町には私なんか必要なかったんだって、そう思ったら私……」
「すぐ泣く」
「だって小町にとって私ってそれだけの存在だったなんて……」
「小町も泣いている。と守からメールが来ている」
「あんた、いつの間に……」
「だから返事をしておいた。いつでも会いに来いと。こちらも会いに行かせるからと」
「うっ……」
小町、泣くくらいならなんであんなこと言うのよ。
馬鹿じゃないの?
「小町も守も、二人とも比和子の良い友だな。蔵人の件が解決した後、比和子が美山に残るのか国明館へと帰るのか判断は任せる。どちらを選んでもそれなりに小町の言う青春は楽しめるだろう」
「玉彦?」
「不確かな間柄で四年も待ったのだ。確実な間柄の今、遠距離で待つのも悪くはないだろう」
玉彦が、あの駄々を捏ねていた玉彦が大人な発言をしている。
「……ありがと。蔵人の件が解決したらきちんと考える」
後部座席で端に座っていた私はレザーシートをスススッと滑り、ピトッと玉彦にくっ付く。
腰に手を回してきた玉彦に寄りかかり、少しだけ泣き疲れて微睡む。
そして気がつけばいつの間にか正武家のお屋敷の玉彦の部屋で寝ていた。
どうやら爆睡してしまい、到着してからまた玉彦に運ばれたっぽい。
隣のお布団で眠る玉彦に手を伸ばす。
長い睫毛に、軽く触れる。
整えていないくせに凛々しい眉をなぞり、たまに皺を寄せる眉間を通過して、指先が鼻筋をジャンプすれば、薄い唇に着地。
そこからヒゲの跡なんかない顎を渡って、首筋から、綺麗な鎖骨へ……。
「……おい。止めろ。何をしている」
パチリと目を開いたので、こちらが今度は目を閉じる。
「まったく……」
毛布の下から手が侵入してきて、しっかりと繋ぐ。
今はまだこの距離感が丁度いい。
明日が夏休みの最終日。
今年の夏休みは旅行や遊びに出掛けることはなかったけれど、この村へ来て過ごした日々が旅行であり、遊びだったように思う。
危険な日々だったけど。
まだ危機は過ぎ去っていないけど。
今日から私は玉彦と別々の部屋になる。
蔵人の件は片付いていないけれど、通山から持ってきた荷物は彼の部屋には収まらなく、澄彦さんの指示もあって、午前中から移動をしている。
荷物を解いて、急遽用意された家具へと教科書や洋服などを収納していく。
あらかた整頓して、最後に制服をハンガーに掛ける。
お父さんが馬鹿みたいに気に入っている制服。
私の学校の制服は、通山市内の学校の中では一番人気がある。
でも入学にはそれなりの試験を通過せねばならず、制服が好きだからという理由で受験する人は殆どいない。
夏服は白か水色のブラウス。
半袖と長袖を選べる。
その上に、黒い薄目の生地のベストがある。
ウエスト部分にステッチが入っていて、細身に見える。
首元の太めのリボンは赤か緑。
プリーツスカートの色は黒。
これも二種類あって、膝上とロングスカートが選べる。
裾にそれぞれ赤か緑のラインが入っている。
最後に帽子。
ベレー帽。これは冬しか被らない。
足元はニーハイにローファー。
ということで、制服はブラウス四枚、ベスト二枚、リボンが二本、スカートは四枚。
この中から自分で組み合わせを考えて着て行くことになる。
私と小町は寒く無ければ膝上のスカートに半袖のブラウスにベスト。
リボンは大抵赤だった。
転校初日にどの組み合わせにするか迷っていると、お昼を知らせに不機嫌な玉彦が現れる。
私が部屋を別にすると決めてから、ずっとこの調子なのである。
ひとつ屋根の下にいるのに、ここまで不機嫌になれるってある意味すごいと思う。
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