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第五章 くらんど
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しおりを挟むお祭りが終わり、お盆を迎えるころ。
ようやく私の四枚目の花弁を剥がす為に、正武家が動いた。
残り三枚の花弁があるのにも関わらず、残された鬼の敷石は二つ。
御倉神が以前示した鬼の敷石の場所も五つだった為、残された内のどちらかに隠が二人いる可能性が高かった。
そのために万全の態勢で挑む予定だったのだけど、澄彦さんが外でのお役目の為に鈴白を一時離れなくてはならず、延期されていた。
そして、私はというと。
「お前、本当に学校へ行っているのか!? 遊んでいるだけではないのか!?」
「失礼ね! これでも学年二十番以内には入ってるわよ!」
「ではどうしてこのような答えになるのだ!?」
「うっ……」
玉彦のスパルタ教育に耐えていた。
六隠廻りのペースが上がらず、しかも私を鈴白の君と呼んだ隠の行方は知れず、それらが解決するまで私は鈴白村から出ることが叶わなくなったためだ。
澄彦さんの見込みでは、夏休みには到底間に合わないということで、高校の編入試験に向けて猛勉強している。
私的には亜由美ちゃんや香本さんがいる家政科でも良いと思っているんだけど、玉彦的にはどうしても同じクラスになりたいらしく、無謀にも進学特化に進ませようとしている。
どうやら私の学力は、普通科と進学特化の中間らしく、どちらに転ぶかは数学次第だった。
でもなー、私、文系で理系は苦手なのよ。
「どうやったら、このような!」
「……玉彦。教えるのに向いてない。守くんだったらもっと優しく教えてくれるのに」
ぼそっと呟くと、玉彦は参考書を静かに閉じて部屋を出て行く。
守くんの名を出すのは不味かったと思いつつ、私は縁側の障子を開け放った。
太陽は高く、今日も晴天だ。
こういう日には外へ出掛けたくなるけれど、我慢だ。
縁側で寝転がり日向ぼっこを楽しみつつ、私は数学の参考書を読み込む。
玉彦は問題を死ぬほどこなせっていうけど、私的には違う。
彼のレベルと私のレベルが違うのだ。
問題云々の前に、理解が追い付いていないから混乱して躓く。
だからまず、理解から。実践はそのあと。
さぁ頑張るぞと意気込めば、その一歩を襖のノックが阻んだ。
「なによ!」
どうせ玉彦だろうと適当に返事をすれば、現れたのは南天さんで、私は飛び起きて平謝りした。
南天さんは少し笑ったあと、家庭教師を申し出てくれた。
そういえば玉彦が学校へ行けない時、南天さんが教師役っていってた記憶がある。
恐縮しまくりの私を前に、南天さんの授業が始まった。
「あーっ。そういうことだったんだ」
「ですのでこれをですね、ここへ持ってくると。先ほどの応用になります」
南天さんの教えは素晴らしかった。
褒めて褒めて伸ばす。決して怒らない。罵らない。馬鹿にしない。
お蔭でびくびくしないで質問もしやすいし、何よりも間違えることが怖くない。
間違えればどうして間違えたのか、原因を私自身で気付けるように導いてくれる。
時計が十五時を示すと、南天さんはお屋敷の仕事があるからと切り上げる。
勉強を続行しようとした私には、長時間勉強するよりも短時間で中身のある方が良いと言ってこれからは午前中のみの時間とした。
私、南天さんの背後に後光が見えます。
ぐーっと背筋を伸ばして、ぐたっとする。
そして踝の印を撫でた。
あと、三枚。
近々鬼の敷石へと澄彦さんは言っていた。
その敷石に隠は何人いるんだろう。
「あーもう。いつ終わるのかな……」
「はやく終わればいいのー」
誰かの返事なんて期待していない独り言に応える声。
また、来たのね……。
隣に視線を移せば、御倉神が揚げをつまみ、口の中に入れるところだった。
今日は揚げの日だったのか。
「本当にそう思ってる?」
聞けば頷くけど、絶対楽しんでると思う。
御倉神は何しに来たのか、それからすぐに姿を消した。
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