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第一章 さいかい
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しおりを挟むようやく辿り着いたお祖父ちゃんの家の垣根を覗き込む。
縁側から見えた茶の間では、少し遅い朝食の最中だった。
お祖父ちゃんとお祖母ちゃんがいて、光次朗叔父さんと夏子さん。そして希来里ちゃん。
「おじいちゃーん!」
私は飛び跳ねて手を振った。
すると辺りをきょろきょろして、玉彦と、頑張って飛び跳ねながら垣根から顔を出す私に気がついてくれた。
垣根を回り玄関へと向かうと、そこには一同勢揃い。
みんな変わりなさそうで安心した。
夏子さんにお母さんからの紙袋を渡して、また後で遊びに来ると伝えてお祖父ちゃんの家を出る。
もう少しゆっくりしていたかったけど、そうも出来ない事情がさっき澄彦さんからのメールで告げられた。
どうやら小百合さんのお父さんがお昼前に正武家を訪問するらしい。
玉彦はともかく、私の出番は確かなのでそれまでには帰らなくてはならない。
お祖父ちゃんの家から五百メートル。
そこには今風の一軒家が建っている。
ここは亜由美ちゃんの家。村で出来た初めての女の子の友達。
玄関チャイムのボタンを押すと、しばらくして奥からはーいと返事がある。
そしてドアが開かれ、そこには亜由美ちゃんがいた。
朝早くだったし、アポなしの訪問だったから、パジャマ姿の亜由美ちゃんは私を見て固まった。
「ひっ、比和子ちゃん!?」
「亜由美ちゃん、久しぶり~! 遊びに来たよっ! って今は顔出しに来ただけで、あとでゆっくり来るよ」
「ええぇ~! 言ってくれればもっと準備したのにー。それにしても比和子ちゃん、垢抜けたねー」
「ありがと。でも亜由美ちゃんも変わったねー」
あの頃の亜由美ちゃんは、三つ編みでちょっとそばかすがある素朴な感じの女の子だったけど、高二になった亜由美ちゃんは、栗色のボブで、眉のお手入れもしっかりしていて。
すっぴんなのは朝だからしょうがない。顔を始めに全体的にほっそりしている。
化けたな!ってレベルの変わりようだった。
「そんなことないない! ちっとも変わらんよー」
うん。話し方だけは変わってない。
亜由美ちゃんは私の後ろを覗き込み、玉彦にも挨拶する。
高校も一緒だからなのか、いたって普通だった。
前は少し、いやかなりビビってた。
そして私の耳に囁く。
「玉様、美しくなっててびっくりせんかった?」
「した。引いたわ!」
男子に美しくって使うのは嬉しくないかも知れないけど、亜由美ちゃんの言葉のチョイスは合っている。
私の反応に彼女は笑い出し、しばらく会話にならなかった。
亜由美ちゃんに次の約束をして、私たちは須藤くんの家に向かう予定だったのだけれど、歩いて向かうには時間と距離に無理があって午後から行くことにした。
でも玉彦があまりいい顔をしない。
どうしたのかと聞けば、須藤くんとは今部活のライバル関係なんだそうだ。
だからってそんな顔されてもねぇ……。
「ちなみに部活、何してるの?」
私はアルバイトをしているので、部活をしている暇はない。
女子高生は何かとお金が掛かるのだ。
「弓道だ」
「弓道……」
そうだ。須藤くんのお母さんも中々な腕前だったし、須藤くんも凄かった。
きっと彼の家は、その特殊な事情から弓の扱いには慣れている。
「いつから始めたの?」
「高校に入学してから。必ずどこかの部に所属しなくてはならなくてな。そう言えば午後からは部活で須藤は家に居ない」
「え、玉彦は行かないの?」
「優先順位というものがある」
言われてなんだかむず痒くなる。
玉彦も澄彦さんも、私を『そういう』風に扱ってくれてるけど。
お付き合いしましょう、わかりましたっていう儀式がまだない。
これだけお互いあからさまだから、今さらって思うかもしれないけど大事なことで。
惚稀人だからではなく、しっかりはっきりとした自信が欲しかった。
「どうした」
「いや、弓を引く須藤くんは凛々しいんだろうな、と」
思わず変な返しをしてしまって、玉彦はむすっと黙り込む。
なんてわかりやすいやつ。
「観に来るか?」
「え?」
「午後から」
「いや、私部外者だし」
「誰も気にしない。夏休みで教師もそんなにうるさくはないだろうし、そもそも来ていない」
「えー……。いいの?」
「良い」
私はしばらく考えて、やっぱり止めておくことにした。
だって、南天さんの言葉を思い出したから。
高校は山の向こうだって。
そうしたらかなり遠いもん。
正直、面倒だ。
玉彦にそう伝えると、残念そうにしていた。
ちょっと笑える。
きっと自分の凛々しい姿を見せたかったんだろうな
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