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火蓋は切られる。

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「エリザベッタ。私は貴方をそんな常識ない子に育てた覚えはありませんよ?」



レーヌは静かに扇子を取り出すと、バサリと広げて口元を隠した。


エリザベッタはその様子を見てビクリと肩を跳ねさせる。


彼女は思い出した。

母はその人の表情がよく見えない扇子は大嫌いだということを。



いつもならここで母の恐怖に負けて謝ってしまう。だ
が、今日はここで負けるわけにはいかないのだ。



彼女は歯を食いしばり、レーヌをキッと見つめ返した。



「お母様が悪いです!私の婚約者を私に内緒で決めたのですから!」
「あら?まだ正式に婚約はしてないわよ?社交界で話しただけで。」
「それはもう婚約したも同等ではないですか⁈」




なかなか食い下がらない娘にレーヌははぁとため息を吐いた。



「だからまだしてないわよ。」
「これで婚約しなければ恥をかくのは私ですよ⁈」



エリザベッタが耐えられないのはそこであった。



噂だけ流れて婚約していなければ、どちらかに問題があったと判断される。



男性側が犯罪を犯して捕まったなどのわかりやすい理由がなければ、ほとんどのケースで女性側に問題があるとされるのだ。



だがしかし、レーヌは、



「貴方に恥をかかせる人は存在しないわ。」



と言って話を聞かない。
それがエリザベッタを怒らせていた。



実際、レーヌの言うことも正しい。



代々続く英雄の家系であるフィールド家の者に恥をかかせられる存在などこの世に存在しないのだ。



フィールド家は誰もが知っている英雄の家系。
特別な位が与えられており、王族ですら傅く存在なのだから。



エリザベッタに非があるなんていう噂を流してしまった時には破滅間違いなしだろう。



そんな命知らずはいない、、、はず。



「そのようなことで親に向かって関わらないで、などと言うなんて、、、。謝りなさい、エリザベッタ。」
「そんなことでって、、、っ!お母様にはそんなことでも、私にとっては大事なことなの!お母様こそ謝ってよ!」



余程興奮しているのか、エリザベッタの口調が幼くなっている。



リサは初めてみるお嬢様の姿にポカーンと口を開け呆気に取られた。



いつもはのほほんとマイペースな奥様に、しっかり者のお嬢様が世話を焼く様子しか見ていなかったので、雰囲気が真逆の様子に驚きを隠せないのだ。



「さっきも私の好きな紅茶を飲むなと言うし、お母様は私を否定しかしないじゃない。私はお母様の操り人形じゃないの!」
「また言ったわね。エリザベッタ、マナーがなっていないわよ。言っても良いことと悪いことくらい理解しなさい!」
「お母様だっていつも変なことばっか言ってるくせに!」
「何を言ってるの!!変なことなんて言ってないわよ!」



もう途中から論点はかなりずれてしまっているが、怒りで我を忘れているこの二人にはお構いなしだ。



だが、ここに彼女ら二人を止めれる者はいない。



使用人たちは思った。



(((ここに旦那様が居ればなぁ)))



同時に、この事態は当分収まらないことを悟る。
何故ならこの屋敷の主人でありフィールド家当主にして今代の英雄であるロバートは現在、遠方へ長期出張に行っているからだ。



いつもは彼が二人を仲裁しているので、二人の喧嘩は酷くならずに終了するのだが、彼は当分帰ってこない。
もしかすれば、彼が帰ってくるまで喧嘩は続くかもしれないのだ。



「もう許せない!!お母様なんて知らない!」
「どーぞご勝手に!貴方なんてもううちの子じゃありません!」



カンカンカーン‼︎



盛大なゴングで親子喧嘩の火蓋が切られた。
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