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第2.5章 -王都学園入学まで 来るべき時に備える-
116.エディの夢
しおりを挟む突然雰囲気?が変わったグレンだったが、その後1泊2日の”コアスの森探検”をエディお兄様達と楽しんで帰っていった。
その間、私はセシルお姉様達と女の子だけでショッピングを楽しみ、久しぶりに洋服や雑貨をアレコレ買ってしまった。女子会に欠かせないスイーツも堪能し…食べ過ぎて夕飯を残してしまってザインに申し訳なかった。
「リリー、今度は王都かポートマン領に遊びに来てよ。──その時は、君をエスコートさせて?とびっきりのデートプランを立てておくから。」
「ふふふっ!そうね、王都かポートマン領で遊ぶの楽しみにしてるわ!グレンのデートに着ていくお洋服も、また一緒に買いに行きましょうね!
そ、その…!その時は…エディ、様も私と…!いえ、勿論ナーデルも一緒に!今度こそ私がご案内しますわ!」
と姉弟揃って同じ表情をして帰って行った。
「なんかグレン兄様もセシル姉様に似てきたね!ぽやぽや?して。可愛いかったなぁ。」
「ふふ、そうね。グレン達みたいに、ナーデルも私に似ていくかもしれないわよ?」
「本当??嬉しいなぁ!でも、僕リリーお姉様とお揃いは良いけど…可愛いよりカッコよくなりたいなぁ。」
うーむ、どうしよう。と腕を組みながら真剣に悩んでいる様子が微笑ましくてクスクスと笑ってしまった。
ふと、こういう時必ずナーデルの頭をわしゃわしゃと撫でるエディ兄様が静かにしているのが気になった。
チラッと確認してみると、そこにはいつもの笑みは無く。真剣な眼差しで…何やら思い詰めている様子だった。
一体どうしたのだろうか…?コアスの森から戻ってきて、どこか様子が違うエディ兄様を見て心配になった。
しかし、一緒に行ってたナーデルもグレンも従者達もいつも通りで。
今からイーサンとの修行があるし…後でお兄様とお話しよう。
リリーナはエディの様子が気になりつつも、足早に庭園へと向かった。
◇
ムンクは幼い頃から世話を焼いていた、自身の主であるエディがコアスの森にいた時から様子がおかしい事に気づいていた。
もっと詳しく言うと、コアスの森の民の居住地に到着しナーデル様とグレン様達を置いて、民の長でありエディ様のお祖父様であるマロー様を筆頭に少数精鋭でコアスの森の調査に行った時からだ。
エディ様が生まれて早15年。15年もの間、ずっと見守ってきたのだ。
大体ではあるが、この”やんちゃ坊主”が考えていることが想像出来る。
ご両親の才能を存分に受け継いだその類稀なる運動神経を駆使し、俺達従者の手をすり抜け散々困らせてきたが、その心根は優しく笑顔は周りを明るく照らしてくれる。
ケラケラと嬉しそうに笑うエディ様を見たら、散々振り回されていたとしても…結局「仕方ないなぁ」と許してしまうのだ。
周囲を…特に俺をとっっっても困らせはするものの、エディ様は絶対に心から人が嫌がるようなことはしない。
それにキース様やご両親等、逆らってはいけない人達の言うことは絶対に聞いていた。
そんな素直で優しいやんちゃ坊主も────いつの間にか思春期の青年になったなんて、感慨深い。
ムンクは、現在進行形で初めてガンディールに歯向かうエディを見ながら思いを巡らせていた。
「どうして?!もう俺は15歳だ!!いつまでも守ってもらわないといけない坊ちゃんじゃない!!
足だってシャルより早いし、最近は獣人達と勝負して勝てるようにもなってきた!!
父様はいつもそうだ!!「まだ早い」って、一体いつになったら良いんだよ!!
学園を卒業したら??でも俺だって分かるよ、卒業してからだったら今のバジル領の規模だったら長男の俺が冒険なんてしてる暇ないってこと!!
今は入学前ってことで周りの貴族の目も優しいけど…卒業する頃には”次期当主”として当たり前の様に見られるって。
俺は……家族の皆や領の人達に、迷惑はかけたくないんだ。でも!!俺の夢も諦めたくない!!!」
「お前は…そこまで分かっていてなぜその様な無謀で思慮のないことを言えるんだ??
エディ。エディール・バジル。お前は俺の後を継ぎ、このバジル領を背負って立つことになる。領民にとっても、従者達にとっても、家族にとっても大事な嫡男だ。なぜ平気で身を危険に晒す様な真似をする? 」
「だから俺の夢だからって言ってるじゃん!!小さい頃から、ずっとずーーーっと憧れてた!!俺もいつかこんな風に、見たことのないモノを見て!行ったことのない所へ行って!!素敵な仲間に出会ってみたいって!!!
なんで?貴族だから、貴族だったら夢を叶えちゃいけないの?やりたいことがあっても、我慢しなくちゃいけないの??ねぇ、違うよね?そうだよね??だって……っ
父様だって!!昔お祖父様の言う事聞かないで冒険しに行ったんでしょ?!?!
なんで!自分は好きに行動しといて!俺の望みは聞いてくれないんだよ!!
バカ!!分からず屋!!ケチ!!オタンコナス!!」
顔を真っ赤にして、涙目で小さな子どもの様な悪口を言うエディにガンディールは唖然となった。
(なぜ、自分の息子がそのことを知ってるんだ・・・????)
まさかと思い、バッ!と後ろに控えるキースを見るとニッコリ”イイ”笑顔で返された。
「キ・・・キース!!!」
「はっはっは、すいません旦那様。いや、小さい頃に私と貴方の出会いを坊ちゃんに聞かれましてね?ついつい。」
「んなっ!!おい!!子ども達には絶対言わない約束だったじゃねーかっ!!」
キースの胸倉を掴んでゆさゆさと揺さぶるガンディールに、キースは素擦らぬ顔で「はて?そんなこと言われましたかな?」などととぼけている。
普段見ることのない父親の姿に、少々興奮が落ち着いてきたエディ。
今度は落ち着いたトーンで父親に訴えかけた。
「父様。お願いだ。王都学園入学まであと1年しかない。今度スパイス類の確保と新しい材料の調達に行くモレッツ商会にバジル家からも人材を出すんでしょ?
それに俺も同行させて。キース達が行った島より先も行くかもしれないんでしょ?こんな…未知の場所に行けるチャンス絶対ないよ!!お願いだ!!バジル家の従者もいるし!極力危ないことしないし!絶対帰ってくるから!!
本当はさ、父様みたいに黙って冒険に出ても良かったんだ。
でも、俺バジル家や領の皆大好きだから。心配かけたくないし、快く送り出してほしかった。」
「いやアンタ小っちゃい頃から5~6回本気で抜け出そうとしてたじゃん。言っとくけどガンディール様も知ってるからな?鼻が利く獣人にすぐ見つかったり、影に普通に見守られて連れ帰られたりして”抜け出せなかった”だけじゃねぇか。格好つけんな。」
ムンクからの鋭い指摘を、コホンとすまし顔でスルーしてエディは続ける。
「それに…父様、お祖父様達が亡くなる時に間に合わなくてすっごく後悔してるんでしょ?
行き先も知らせないで、反抗で出て行ったことを今でも後悔してるって聞いた。それを聞いてから、俺は絶対に父様に許可を貰って出ようって決めたんだ。
半年…入学までには絶対帰るから!!お願い!!俺の夢、叶えさせて下さい!!!」
「────俺からも、お願いします。このムンク、我が命に代えても必ずエディ様をお守りすると誓います。何年も何年も夢見ていたエディ様を……ガンディール様に憧れたエディ様に、夢を叶えさせてあげてください!!」
ガバッ!!と深く深く頭を下げる2人に、キースを掴んでいた手を離し「はあぁぁぁ、」と大きなため息を吐きながら椅子に深く沈みこむ。
「──・・・絶対に、生きて帰ってくると約束しなさい。エディも、勿論ムンクもだ。
危ないと思ったらすぐに引いて、手練れの従者に任せなさい。学園の入学1月前には必ず帰ってくること。まぁ、1月と言わず3月でも半年でも…すぐ帰ってきても勿論良い。
はぁ。…明日から遠征の人選を決めることになるが…皆こぞって手を挙げて大変だろうな。
何せうちの”やんちゃ坊主”が長年の夢を叶えるお供が出来るんだ。争奪戦だろう。」
やれやれ、というガンディールの様子にエディはパアアァァァァッ!!!っと顔が輝いた。
「父様!!!!い、行っても良いの?!?!嘘っや、やった!!やったよムンク!!!
ありがとう!!父様!!キースもムンクも!!ありがとう!!!!」
嬉しさに興奮しすぎて、ムンクの背中をバンバンッと叩くエディに「力つよ、い、痛い痛い!!止めて、ちょ…止めろおいコラ聞いてんのかやんちゃ坊主!!!」とムンクはしかめっ面だった。
「おや、思ったよりアッサリ折れましたね。よろしいんですか?」
「おいおい、心にもない事言うなよ。───親父達の話も、お前が話したんだろ?」
もうこっちのことなど気にも留めていないエディ達を見ながら、キースとガンディールは囁き合った。
「まぁ、そうですね。貴方が悔やんでいることを、エディ様にさせる訳にはいきませんから。
それに自分は好き勝手やっといて、可愛い息子は籠に入れて囲おうとする悪い大人を見ていると、籠にいる子が可哀想で。」
痛い所をつかれて何も言えないガンディールは、くるっと後ろを向いた。
「自分が親の立場になって、初めて先代方のお気持ちが分かったんでしょう。
エディ様のお気持ちが痛い程分かっているのに、目を背けるのは先代方より質が悪いですよ。
それに気づいていた様で、安心しました。
────また昔みたいに、ヤキ入れてやんねぇといけねぇかと思ったぜ?」
ニヤリと嫌味な笑みを浮かべ、ドスの効いた声を出すキースはどこぞの山賊の様だ。
「うるせぇよ。────まぁ…エディなら大丈夫だろ。俺の子どもの頃より頭も身体能力も良い。
学園入学まえにも関わらず、獣人に勝てるようになったなんてな…流石俺の息子だ。」
この初めての親子喧嘩(?)から2週間後、エディは夢にまで見た冒険に向け笑顔でバジル家を去った。
隣に控えていたムンクは、胃の辺りを抑え顔色を悪くしていた。
リリーナやナーデル、エマを始め大多数が涙しながらバジル家の者達はその大きくなった背中を見送った。
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