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第2章 -少女期 復讐の決意-

76.閑話 Side天敵 悪魔との密談

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 リリーナ達の体質の解決策である”特玉”取得に王手がかかった頃、そのリリーナへの暴行並びに王家への侮辱罪で実の父(だと思っている)マシュー公爵に地下牢へ入れられたアイリーンはステイン伯爵家に戻ってからどこか様子が可笑しかった。

 不本意ながらこの不気味な少女のお付をしているヒューは、プレデビュタントの日から随分と様子の変わったアイリーンに疑問を持ちながらも、アイリーンに提案された辺境国への商売の展開を考えていた。


 生姜焼きのタレに高級レストランと、両方程々に利益が出てようやっと王都に進出だ!!と思っていた矢先、何処の国かも知らぬ辺境国に事業を展開しろなど・・・。

 初めは何を世迷言をと思っていたが、様子が変わったこの女は商人である俺に向かって少々・・・いや大分腹立つ言い方でプレゼンしてきたのだ。


 
 ****


 「あのねぇ、ヒュー。上手くいってきたからすぐに王都へ!って、田舎者のバカが思いつきそうなことやってどうするのよ。”王都にない、王都で食べれない”美味しい食べ物という付加価値を自ら無くしてどうするわけ??今”美食の姫”に来てる客の多くは王都から”わざわざ”来てる貴族じゃないの??」

 「た、たしかに・・・仰る通り王都や他の都市部から来ていらっしゃる方が大半ですが・・・。」

 ヒューの回答に、”ほれ見たことか”と言った様な見下した表情でアイリーンは続ける。


 「”美食の姫”を出してそう経ってないし、王都に出すのはもうちょっと焦らした方がいいわよ、絶対!・・・それより、最近アイリのお陰でこの国の食レベルが上がってきたじゃない?この屋敷で出される食事も大分マシになってきたし。────ここは逆に、この国から遠い食文化がクソレベルの国に出店していくべきところなの。アンタも商人なんだから、それくらい分かるでしょう??まったく、アイリがいないと何にも出来ないんだから。ヒューは顔はソコソコなんだから、カイトより優秀じゃないと!!アイリのお気に入りの自覚をもう少し持ってほしいわ~??」

 得意げにのけぞりながら、やれやれとため息を吐きつつヒューを窘めた。

 
 (ああ?!貴様の様な小娘が、このヒューを嘲笑うなど・・・!!!コイツっちょっと頭が良くなった様な事を言って、その中身はド黒く濁ったままじゃねぇか!!たまたま筋の通った話に聞こえるが、貴様のいつもの妄想から奇跡的に導かれただけだろうが・・・!城の地下牢に入れられて少しはしおらしく、人間らしくなったと思ったが。やはり何をやってもコイツを変えることなど無理だ。このままクソ女としてしか商品価値は上がらねぇな・・・。)

 ヒューは怒りをどうにか面に出さないよう、アイリを脳内で手ひどく拷問しながら今後のアイリの地獄を想像しながら正気を保った。


 「じゃあ決まりね!ん~、アイリは何処でも良いんだけど・・・王族とか上位貴族に美形が多い国が良いわ!場所はヒューに任せるから、よろしくね?あっ!やっぱり南の方の国が良いわ!カカオとか宝石とか資源が多そうだしぃ~♪じゃあ、ヒュー!頑張って挽回しなさいよ?よろしくね~♪」

 アイリはそういうと自室へと戻って行った。



 ****



 ヒューは命令された時の事を思い出し、怒りがぶり返してしまった。

 クシャッと手にしていた計画書が無残に皺を寄せている。


 城から帰ってから、この女は自室に引き籠ることが増えた。
 前までは若い男の使用人がいる場所や外へと出たがり迷惑していたが、最近は皆の手を煩わせることがないので安心していたが・・・。
 メイド達の噂話によると部屋で独り言を言う時間が増え、そして声も大きくなったと。

 ・・・そろそろ頭のヤバさが限界なのかもしれない。

 公爵当主に手酷く袖にされたと聞くし、もうそろそろ離縁も近いだろう。
 さっさと西大陸へ送る用意を本格的にしておこう。
 最近はあちらとのやり取りは難易度が上がり、簡単に接触出来なくなってしまった。
 離縁までに、何とか西大陸の商人とコンタクトを取らなければ・・・。

 奴の件が無くても、今までコンスタントに入荷出来ていた”商品”がここ数年全く入ってこない。
 今は何とかなっているが、今後の事を考えるとどんどん奴隷追加をしていかないと・・・。


 ──────まぁ太いパイプが手に入ったから、そっちに頼ったら案外簡単にどうにかなるかもしれん。

 数年前グレイ様に何度も推薦した甲斐があった。
 まさか数年経ってからポートマン公爵から依頼があるとは・・・。

 タンジ家と並ぶ筆頭公爵であるポートマン家と繋がれるんだ、今の借金などすぐにどうにかなる。
 これはビックチャンスだ。絶対に成功させないと、本当に俺は終わりだ・・・。

 その為にはまずこの辺境国への進出業を片づけなければ。
 奴隷共を預けている者の支払いを伸ばし伸ばしにしていたツケが回り、「金を払わねぇと協力しない」と脅されてしまった。

 まったく・・・誰のおかげで今まで良い思いをしてきたと思ってるんだ。
 今回の件が終わったら、生意気な奴らは全員解雇して人材を入れ替えよう。



 ヒューは握りしめてしまった計画書の皺を伸ばしため息を吐きながら、仕事に思考を戻していった。






 ◇


 「やっぱり神様の言う通りだったわ!王都から流れてる貴族の客ばっかりみたいね!あんな意地悪なお貴族様達の為に、アイリのお店を出してあげるなんてぜーーーったい嫌だもの♪うふふっいい気味だわぁ~♪」

 メイド達が噂している通り、アイリは自室で独り言をこぼしている。
 ────ように傍から見ると見えてしまうが、アイリにはちゃんと話し相手が見えていた。


 ≪だろぉ~?俺の事疑ってバッカでさぁ~。俺が言ってることはぜ~んぶ正しいんだぜぇ~??≫

 「悪かったわよ!だってアイリのイメージしてた神様と全然違うんだものっ。そんなにおちゃらけたのじゃなくて、もっと正統派美青年って感じだとばっかり思ってたわ。それに!!!本当に神様ならアイリが望むこと叶えてくれるはずじゃない!!時を戻してとか、皆がアイリに夢中になるとか、もう一回一から転生させてって言ったのに出来ないなんて!!そりゃ神様かどうか疑うに決まってるわよ!」

 ≪だから何回も言ってるだろ~?本当は神様は現世に干渉出来ないんだって。でもお前は俺の”お気に入り”だから特別に助けに来てやったんだぜ~?こんなに言ってるのにまだ信じてくれないなら・・・流石の俺ももう帰るぜ?≫

 「ちょ、ちょっと!だからもう信じたわよ!アイリはアンタのお気に入りなんでしょ??そんな簡単に見捨てないでよ!」


 神様・・・と思っている、悪魔に向かって慌てて言い訳をするアイリを、悪魔は面白く思いながらも決して顔に出さなかった。

 ≪まぁ、ここで俺が出来ることと言ったら・・・俺のすんばらしい頭脳を使ってお前の助けになることくらいだ。この知識を生かすも殺すもお前次第だし、お前の好きなようにすればいいさ♪だ~い好きなお前のすることに、反対なんかしないさ♪≫


 怒った様子もない悪魔に、アイリはホッとする。

 (うふふっ神様アイリにぞっこんじゃない♪今世は全然上手くいってなかったけど、こんなに神様から溺愛されてるんだものっぜーーーーったい幸せな未来が待ってるわ♪)

 「ありがとう神様♪・・・神様が言う通り、この王国は終わってるわ!王族が酷い人達なんだものっ近い将来絶対に崩壊するでしょうね。────今の内に、他国でアイリの地盤を整えておかないと。アイリの名前を徐々に広めていって、この国が滅んで行っても”食の女神”で”王国に虐げられた聖女”であるアイリは幸せな日常を送る♪アイリを軽んじていた奴等が死に絶え、ボロボロになってる時に私は世界中から崇められる存在になる・・・あぁっ!!!サイッコーーーーーーじゃない!!」

 アイリはるんるんと上機嫌になり、クッションを抱きしめながらまだ見ぬバラ色の未来を妄想し始めた。




 (≪──────本当、呆れる程バカな奴だなぁwwwお気に入りだったらこんなになるまで放置しておくか?それっぽく嘘並べたらすーぐ信じちゃってまぁ♪本当に知らない小国に店出すなんてwwwwwマジでおもれぇ~♪≫)

 悪魔は妄想するアイリの様子を、今度は顔に出してニヤニヤと笑っていた。


 (≪初めアイリの前に姿を現した時は、流石に半信半疑で罵倒してきたが・・・。本当、あの時怒りに任せて殺さないでよかった。これからのアイツのもがいてる姿が見れなくなるところだったぜ。≫)


 悪魔はアイリに助言をして、すぐに処分されないように裏で調整を試みていた。

 まず初めに「喚いたり叫んだり、うるさくするのを止めろ」と助言した。
 これだけ状況が悪くなっているんだ、その態度のままだと耳障りですぐに処分されるかもしれないと考えたからだ。

 勿論、そんなことはアイリには伝えていない。
 ≪反省していると態度で分かれば、これからの”お願い”がスムーズに通りやすくなるんじゃないか?≫と口を回しただけだ。


 アイリは渋々了承して悪魔の言う通りに過ごしたが、それは対外的なことだけである。
 喚く矛先が悪魔に向かっただけで、アイリは全然変わっていなかった。



 そのせい・・・お陰と言っていいかもしれない。
 その”お陰”で、悪魔は当初の予定を変更してアイリを早く処分出来、且つ自分が楽しめそうな展開にするようにシフトチェンジした。

 自分が望んだこととはいえ、日がな一日叫び喚かれたら流石の悪魔もブッ殺したくなる。
 (≪楽しむとか置いといて、コイツが絶望する顔が早くみてぇ≫)と思うようになるのも無理はない。



 ”この国はいずれ崩壊する”だの、”他国で勢力を伸ばしておいた方が良い”だのと助言してやった。
 本当はこの国程安定した国家はないから崩壊の兆しなど微塵もないし、他国にも既に王国の食文化はモレッツ商会等から少しずつ入ってきてるので、レストランだけで勢力が伸ばせるなどあり得ない。


 しかし尤もらしく説明すると、面白い程聞き入るし・・・何より黙る。


 (≪さぁ~て♪公爵達もようやく動き出してくれたし~?楽しみだなぁ~♪コイツの泣きわめく顔♪≫)




 ───────リリーナが転生する際、神様は言った。

 「悪魔は嘘しかつかないからの。」









 
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