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 唯一にして最大のアドバンテージだった凛音の協力を得られなかった加琉音。
 結局、対して策を弄することもなく一夜を明かし、普通に登校して、いつも通り教室にいた。
 机上に伏せて寝たふりをしていた加琉音。こうしていつもの煩わしいコミュニケーションを拒否しているのだ。
 普段通りの彼なら無心で行っている行為で、なんなら授業だってそれなりに聞くことだってあるのだが……
 今の加琉音は授業など、真面目に聞くことが出来る精神状態ではなかった。彼の現在の関心は、そこかしこにあると思われるエロスだけだ。
 性欲自体は、今朝も行われた凛音との行為で多少収まっているとはいえ、既に加琉音の心、その大多数は新しい性欲の対象に移り変わっている。凛音とはいつでもできるという状況であるためか、多少傲慢な考え方に寄っているようだ。
 性欲のモンスターと化した加琉音は、授業中であるにもかかわらず、才花との行為を想像する。元気が良くて明るい性格の才花が、あられもない姿で乱れる様子を。

 凛音の場合とは違い、よりアグレッシブな展開を望み始める。
 場所は学校のトイレだ。

 加琉音は、部活動中にこっそり抜け出した才花と、人気のない旧校舎のトイレで落ち合う。
 キスも、前戯もいらない。
 加琉音との情事を想像していた才花は既に、濡れ濡れの状態だからだ。二人は力強く抱擁をすると、互いに見つめ合う。才花はユニフォーム姿のまま、汗をかいた状態で加琉音と愛を確かめ始める。
 加琉音がシャツをめくり上げると、濃厚な匂いが漂った。
 陸上で鍛え上がられた、うっすらと割れた腹筋に滴る汗を舐め取り、乳首を愛撫する。才花のつつましい貧乳の感度は高く、少し舐るだけでビクビクと反応する。
 そして、そのまま下へ向かう。
 汗と愛液で、表まで濡れた短パンを下の隙間から覗きこむと、そこには桃源郷が――

 と、加琉音がガチガチにいきり立つまで妄想をしている最中のこと。
 午前中の授業が終了したことを告げる鐘の音が鳴り渡った。

 慌てて無心に帰り、マラのイライラを納める加琉音。

 無事平常に戻ったソレを確認すると、加琉音は行動を始める。

 昼休みを迎えた加琉音は、普段通りのぼっち飯を敢行せず、廊下へと向かったのだ。
 向かう先はもちろん、南才花が所属しているクラスの前。
 才花は加琉音とは違うクラスの生徒だ。接触を図るにはいくつかの問題をクリアしなければならない。
 他のクラスの教室に入るというのは、非常にハードルが高い行動だ。いかに以前よりは自信が付いた加琉音と言えども、まだまだ飛び越えられない高い障害であることに変わりはない。それで才花と接触しようものなら、いくつかの勢力に目を付けられること請け合いだからだ。

 よって、加琉音はまず、彼女の行動をつぶさに観察することに努めていた。
 私立の高校であるゆえ、皆が取る昼食の選択肢は多い。学食に行く可能性もあるし、最もやりにくい教室で弁当を食べている可能性だってあるのだ。
 加琉音はまず、彼女がどこで食事を取っているかを確認しようとしているのだ。

 才花が教室から出て、どこかに向かうのを加琉音は視認した。

 可能な限り気配を押し殺し、人の流れに身を潜めながら才花を追う。

 加琉音は気付いていないが、どうやら才花は屋上へと向かっているらしい。それも、たった一人でだ。
 加琉音には理由など分かるはずもないが、とにかく一定の距離を保って才花を追う。
 驚くほど誰にも気付かれることなく、そろそろと才花の後を着ける加琉音。

 とはいえ、やはり校内で尾行などばれるに決まっている。

 当然、加琉音の存在を認識済の才花から見れば、尾行はバレバレだった。後ろをチラリと振り返ると、慌てて加琉音が柱の陰に隠れた。バカな男である。
 才花は溜息を吐いた。

 屋上へつながる最後の階段を突如、才花は駆け上がり出す。

「げっ、置いてかれる!」

 才花の運動能力は加琉音も良く知る所だ。なにせ才花は、短距離走で関東大会にも出場している優秀な選手なのだから。
 ゆえに、加琉音も慌てて小走りになっていた。そして、階段の踊り場まで差し掛かった時。

「あんた、何してんの?」

「ひっ! い、いやこれは――」

 加琉音の目の前には、やや怒りを滲ませた才花がいた。

「まっ、丁度良かった。あんたちょっと着いて来なさい」

「え? あ、ああ」

 理由もわからず、加琉音は才花に同行する。

 屋上へ続く階段への鍵を所持していた才花が、当然のようにその扉を開いた。

「え、屋上って侵入禁止じゃなかった? 才花、さん?」

「いいの、私は特別だから。黙って来なさい」

 加琉音は無言で頷いた。そして、屋上への扉が開かれる。
 手入れなどされていない環境ではなく、綺麗な状態であったことに加琉音は驚きを隠せない。

「私が陸上部ってのは知ってるでしょ? 人に見られない練習場所ってここくらいしかなくてさ。特別に貸してもらってるってワケ」

「あ、なるほど。あれ、じゃあお昼はどうするんだろう?」

「ああ……朝練でお腹すいてさー、早弁しちゃったんだよね。――って、言わせんな恥ずかしい」

「あ、この前のアレ、やっぱり怒られたんだ」

「そういやあんた、あの時いたんだったわ。忘れてた。ま、それはそうとしてさ。あんたに聞きたいことがあったから連れて来たんだよ」

「聞きたいこと?」

 加琉音の目線が、着崩した制服から覗く鎖骨にしか行っていないことに気付くが、才花は気にせず話を続けた。

「最近凛音の様子がおかしいんだけど、あんた何か知らない? 幼馴染なんでしょ?」

「うっ!? し、しらないなぁ」

 加琉音は当然、知らない筈がない。毎日という程でもないが、既に校内での淫靡な行為を嗜んでいる加琉音である。先日など、リモコンローターを入れさせたままで一日を過ごさせたのだ。心当たりがありまくりである。

「ふーん、なんか怪しいけど……知らないんならいいか。ていうかそれ、弁当?」

「へっ? あ、本当だ。何で持ってきたんだろう」

 いつもの癖か、加琉音は弁当を持って来てしまっていた。弁当を持って人気のない場所へ行き、そこで食べるのが、いつもの昼休みゆえ。悲しい習慣だ。

「そういえば。凛音から聞いたけどさ、あんた一人暮らしらしいじゃない。弁当って自分で作ってるの?」

「そうだけど」

「ちょっと見せて、興味あるから」

 この時点で加琉音は、千載一遇の機会を手にした。一瞬下を向いて、ニヤリと悪どい微笑を一つ。ラッキー、ラッキーなエロだ。全ての運は加琉音に向いている。

 時は来た。

 加琉音は包みを解いた弁当を、才花に手渡す。
 そして、互いの手が触れ合った。

「あっ……」

 次の瞬間、才花はピンク色の光を放った。
 加琉音は見事、チャンスをモノにしたのだ。才花は、なぜか固まったように動かなくなり、次第に熱を帯びた視線で加琉音を見つめ始めた。

 遂に、桃源郷への道は開かれたのだ。
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