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第四話 後輩たちの言い分
40(追)
しおりを挟む俺は三初が嫌味じゃなくて好きだなんて言うやつがいるとは、今までちっとも思わなかった。
だからかもしれない。あれを聞いてから、俺はなんだか変になってしまった。
俺だって、頭は悪いけど時間をかければわかることもある。思うに、たぶんあれは、野球の話ではなかったのだ。
普通に考えたら、一般的に好きだとかって、一つしかない。
あれはつまり、おそらく、ほぼほぼ……恋愛の話だったのだろう。
それならば俺は恋愛相談をされて、アホ丸出しにそのまま野球の相手と取ったことになる。
そしてそれに今になって気づいて、よせばいいのにレアな優しさモードにかこつけて、話を掘り返した。
どうしてか、相手が気になったわけだ。
だって思考回路にそんな選択肢、組み込まれてなかったから……予想だにしなかった。
三初に好きな人がいるとわかって、俺の思考はずっと三初に支配されている。後輩の悩みごとを解消してやれなかったから、気がかりなんだと思うが。
一応この後輩も人間だ。
惚れた腫れたで悩むこともあるだろう。
「……彼女か?」
「アホですか。いたらそこそこの頻度で週末にこんなとこにいないでしょ」
「んゃ、そういえばお前、彼氏派だった」
「ねぇよ」
食い気味に否定された。そして俺の頭をなでていた手の力がプレスする勢いレベルになった。痛い。やめろ。頭痛とコンボが決まってんぞ。
すぐに力は弱まったので、ほっとする。
三初には恋人がいないらしい。別に、それには興味がねぇ。ないけれど、コクリと神妙に頷く。自分でもこの反応は謎だ。安心なんて、変な気分。
グリグリと俺の頭をなでた三初は手を離して、ふぅ、となに食わぬ顔で息を吐く。
「あー……てかね、なんで先輩はそれを、ずっと気にしてたんですか? 俺の好きな相手なんか先輩はどうでもいいでしょ」
「よくねぇ。なんでか、は……、……なんでだ?」
「や、そこ一番大事だろ」
パシッと今度は叩かれた。
拗ねて一つ深く潜ると、布団の裾を下げられる。隠れられない。鬼畜だ。
「チッ……熱でトロけた単細胞系駄犬先輩の思考能力、こっわ。その意味深発言やっぱ意味ないのね。泣かせたーい」
「うぁ、やめろ、いて、やめろ、う」
「おっと無意識」
ついさっきまで機嫌が良かったのに、なぜか疲労たっぷりに舌打ちしながら、三初は俺の鼻頭をつまんで引っ張る。
ちくしょう。俺をいじめることが無意識下でできるってどういうことだこのやろう。
いつもどおり噛みつこうとしたが、やはり体を動かすほど元気ではないのと、言うことを聞く発言の責任を取るため、我慢した。
文句を言わずにズズ、と鼻をすすり、ゲホンと咳をする。
「ま……俺の向き不向き、コレだからなぁ……」
大人しくした俺を前にそう一言呟いた三初は、バツが悪そうにワシワシと自分の頭を掻いた。
完璧超人の三初にも不向きなものがあったらしい。俺にとっての気遣いや、柔軟性のようなものだろうか。
モゾ、と布団の中で考える。
少しだけ指先を出して、すぐそばに座る三初のシャツの袖を引く。
「……まぁ、よくわかんねぇけど今日の礼で、俺が不向き、代わりにやってやるよ。今日は格好悪ぃしな……だからそーゆー時、先輩としてカッコつけさせろ。……それでいんじゃねぇの?」
「マジクソかわいくないです」
「!?」
が。どうにか〝向いてないなら俺に頼ったらいいんじゃねェか〟と言っただけなのに、反射の速度で額をパチン、と叩かれてしまった。
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